ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250スペシャル(6MT)/パン アメリカ1250(6MT)
世界が変わる 2021.07.14 試乗記 あのハーレーダビッドソンから、まさかのアドベンチャーモデル「パン アメリカ1250」が登場。アメリカの大自然が鍛えたブランド初のオフローダーは、“これが初出”とは思えないほどに高い完成度を誇るバイクに仕上がっていた。期待値は決して高くなかった
遅れてやってきた、なんちゃってアドベンチャー。ハーレーダビッドソンの「パン アメリカ1250/1250スペシャル」が発表されたとき、そう思った。世界中で流行しているカテゴリーを無視し続けるのもあれなので、取りあえず出しておくか。そんなテンションを感じたからだ。
近年のハーレーダビッドソンはしばしば変化球を投げる。新興国をターゲットにした「ストリート750」や電動の「ライブワイヤー」、ストリートファイターの「ブロンクス」(未発売)がそれだが、パン アメリカ1250は暴投にもみえた。頭でっかちで明らかに重そうな佇(たたず)まいは、オフロードのことを本気で考えているとは思えず、高級SUVのようなプレミアム感があるかといえばそうでもない。デザインはいかにも武骨な一方、ミラーは「転べばどうせすぐ折れるんだから安いのにしておきました」と言わんばかりのきゃしゃなつくりだ。
今回の試乗会で主にテストしたのは、2種類あるグレードのうち、上位に位置するパン アメリカ1250スペシャルだ。目の前にすると意外とコンパクト……という展開にはならず、圧迫感は隠せない。サイドスタンドが比較的寝ていることもあり、車体を直立させるのでさえ、かなりの力と勢いを必要としそうだ。おまけにスタート地点は砂利道で、空からは雨粒も少々。他の参加者からも露骨にげんなりした様が伝わってくる。
そんな風に暗たんとした気分がいきおい晴れたのは、キルスイッチをONにしたときだ。わずかなモーター音とともに車高がググッと低下。かかとまでべったりとは言わないものの、余裕で踏ん張れるほどシートは下がり、引き起こしも楽に行うことができたのである。
ライダーのすそ野を広げるアイテム
この種のビッグアドベンチャーはそのタフさが人気を集めているわけだが、そのぶん乗り手にも一定以上の体格を求めるのが普通だ。一般的に、身長は180cmくらいあるほうが望ましい。
その点、パン アメリカ1250スペシャルの許容範囲は広い。私(筆者/伊丹孝裕)の身長と体重はそれぞれ174cm・63kgというものだが、既述の通り足つきは良好そのものだった。これは車体にかかる重量を検知し、停車中や極低速時には自動で車高が下がる「ARH」(アダプティブライドハイト)のおかげにほかならない。もっと背の低いライダーでも、さほど不安はなかったようだ。
地面に足がどれだけ接地するか。ベテランや玄人と呼ばれるライダーの多くはそれを重視せず、乗り越えるべきハードルだと考える。メーカーにしても同様で、アドベンチャーがどれほど万能でも、それを操れるライダーはある程度ふるいにかけざるを得なかったのが実情だ。
その点、ハーレーダビッドソンは多くのライダーをすくい上げようとした。サスペンションメーカーのショーワ(現、日立Astemo)と20年以上も前から連携し、電子制御サスペンションの開発を推進。その最たる成果がARHにほかならず、二輪の量産市販車初の技術として実用化に至ったのである。遅れてやってくるならライバルに追随しても意味はない。少なくとも現段階で、ハーレーダビッドソンは大きなアドバンテージを築くことに成功している。
ショーワとの協業はそれだけにとどまらず、路面のギャップや車体姿勢、加減速度、スロットル開度などに応じて減衰力が変化するセミアクティブ制御を装備。快適性を優先することもスポーツ性を高めることも、ボタンひとつで即座に選択できる。これ自体は今や特別なものではなくなったが、操作性や変化の分かりやすさ、路面から伝わる情報量において、独自の知見を得ていると思われる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ライバルと比べてもそん色のないスペック
搭載されるエンジンは、「Revolution Max(レボリューションマックス)1250」と呼ばれる完全新開発のユニットだ。ハーレーダビッドソンとしてはおなじみのVツインながら、シリンダーの挟み角は伝統の45°ではなく60°に広げられ、冷却方式も空冷ではなく水冷を採用。カバーの多くはマグネシウムを主素材とし、大幅な軽量化を実現している。
また、クランクピンを30°オフセットすることで「270-450°」の不等間隔爆発としているところもポイントだ。この爆発間隔は昨今のツインエンジンのトレンドでもあり、「ヤマハMT-07」や「ホンダCRF1100Lアフリカツイン」、トライアンフの「ボンネビル」シリーズなどでも知られる。いずれのモデルもまろやかな鼓動と明確なトラクションを特徴とし、ハーレーダビッドソンはそこにVVT(可変バルブタイミング)をプラス。これによってスロットル微開域の扱いやすさと高回転域のパワフルさの両立が図られることになった。
フレームも従来のものとはまったく異なる。エンジン全体を取り囲むクレードルフレームではなく、必要最小限のパイプでエンジンを懸架するフロントフレーム方式になったことが新しい。エンジンそのものを剛性メンバーに加える構造に刷新し、その上部を覆う燃料タンクをスチールではなくアルミで成形するなど、ここでも軽量化に余念がない。
結果、装備重量は258kgを公称する。絶対的に軽いとは言わないが、ホンダCRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツや「BMW R1250GS」に電子制御サスペンションを装着した仕様がそれぞれ250kgと266kgであることを踏まえると、「ハーレーダビッドソン=重い」という図式は当てはまらない。十分な競争力を備えて投入されたことが分かる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
BMWだってうかうかしていられない
エンジンを始動させるとトゲトゲしさはなく、1252ccのVツインは丸みのあるサウンドを奏でる。ストップ&ゴーを繰り返してもストレスは感じず、どんな場面でも滑らかに加速。クイックシフターは装備されない代わりにクラッチレバーの操作は軽く、ギアとギアとのつながりはスムーズだ。
Revolution Max 1250は、2500rpm前後で流すことを許容する一方、9000rpmを超えてなお回ろうとする爽快さも併せ持つ。事実、レブリミッターは9500rpmで作動し、152PSの最高出力を8750rpmで発生するハイスペックユニットに仕立てられている。
そもそも、このようにパワーが公開されること自体、ハーレーダビッドソンとしては異例のことである。スピードにとらわれることなく、悠々とクルーズする世界観こそがこのブランドの真骨頂であり、独壇場だ。それゆえ、このカテゴリーのフォロワーよりもスペックが高くても低くてもさしたる問題ではなく、唯一無二の存在でいられた。しかしながら、ことアドベンチャーに関しては彼らは新参である。「ハーレーで御座い」という看板に頼ることなく、真っ向勝負で先進性や軽さ、パワーをつまびらかにし、そのうえでいかにしてユーザーを振り向かせるか。そのスタンスに強い本気度がうかがえる。
実際、パン アメリカ1250スペシャルに駆逐されそうなモデルはすでにいくつもあり、このカテゴリーの王者であるBMW R1250GSでさえ、うかうかしていられない。悪コンディションのなかを半日走ったからこそ、その走りが極めて高いレベルに到達していることを体感できた。
オフロードで覚える確かな安心感
オンロードにおける振る舞いは、アドベンチャーの巨体に不慣れなライダーでも違和感がない。フロント19インチ/リア17インチの組み合わせとなるホイールはニュートラルな旋回力をみせ、狙ったラインをトレース。減衰力がリアルタイムで最適化されるセミアクティブサスペンションと50:50の重量配分のおかげで、接地感が希薄になるような場面はなく、Uターンもクルリと決まる。
ライディングモードには、「スポーツ」「ロード」「レイン」「オフロード」「オフロードプラス」の5パターンがデフォルトで設定されるほか、好みの値を入力できる「カスタム」がある。モードを切り替えると減衰力、スロットルレスポンス、エンジン出力、トラクションコントロール、コーナリングABS、エンジンブレーキなどの数値や介入度が変化。基本的にはアスファルト上ならロード、ダートに入ればオフロードを選択しておけば間違いない。オフロードプラスは電子デバイスに頼らず、自身のスキルで車体を振り回したい人向けの玄人仕様である。
パン アメリカ1250スペシャルに最も魅了されたのは、ほかでもなくオフロードコースでのことだ。雨でぬかるんだ火山灰混じりのダートに、装備重量258kgの車体で、しかもブロックが特別高くも深くもない純正タイヤで踏み込まざるを得ない状況だったわけだが、トラクションが途切れることなく、恐怖感を覚えることもなく走破。わだちにタイヤをとられるような場所でも、見た目よりもずっと低重心な車体がライディングをフォローしてくれた。
もちろんペースはたかが知れている。トコトコと歩むようにコースを行き来したにすぎないが、だからこそARHが完璧に機能。スピードが落ちれば車高が下がって安定性が増すだけでなく、強制的にトラクションを得たいときは、両足をつきながらの走破が可能になるからだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
アドベンチャーの勢力図が変わる
並行して乗ったスタンダードモデル、パン アメリカ1250にはこの機能がなく、サスペンションの減衰力調整もマニュアルで行うタイプだ。車重が13kg軽くなり、価格も40万円以上安くなるというメリットは見逃せないが、身長が175cm以下のライダーなら確実にスペシャルのほうをおすすめする。バイクというリスクのある乗り物において、安心感と走破性がお金で買えるのならそれに越したことはない。
ではウイークポイントはないのか? と問われるとひとつ思いつく。エンジン下部にアルミ(スタンダードモデルは樹脂)のガードが標準装着され、なにかがヒットしてもダメージが軽減できるようになっているのだが、不思議なことにそこからレギュレーターが顔をのぞかせ、まったく守られていないのだ。しかも、バッテリーや冷却水のキャップも隣り合って置かれていることを思えば、リスキーといっていい。ここを擦ったり、ぶつけたりするようなシチュエーションは十分考えられるため、対策を施しておきたい部分である。
とはいえ、ダート天国ともいえるアメリカで過酷なテストが重ねられ、満を持してデリバリーが始まったことに疑いの余地はない。この見た目で足つきがよく、自由度が高いことなど信じられないかもしれないが、高評価が急速に広まっていくと予想する。アドベンチャー界における勢力図は今後、どうなっていくのか。パン アメリカ1250スペシャルの登場がもたらす影響は、想像以上に大きなものになるはずだ。
(文=伊丹孝裕/写真=ハーレーダビッドソンジャパン/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250スペシャル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2265×--×--mm
ホイールベース:1580mm
シート高:830mm(アクティブライドハイト作動時)
重量:258kg
エンジン:1252cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:152PS(112kW)/8750rpm
最大トルク:128N・m(13.1kgf・m)/6750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:268万0700円~273万5700円
ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2265×--×--mm
ホイールベース:1580mm
シート高:890mm
重量:245kg
エンジン:1252cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:152PS(112kW)/8750rpm
最大トルク:128N・m(13.1kgf・m)/6750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:231万円~233万9700円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.12 トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
テスラ・モデルY Lプレミアム(4WD)【試乗記】 2026.8.10 日本でも好評を博す、テスラのSUVタイプの電気自動車「モデルY」。その6人乗り・ロングボディー仕様が「モデルY L」だ。実際に機能性や走りに触れてみると、決して「補助金頼み」とは言えない、同車の人気の理由が分かってきた。
-
アウディQ3 TFSI 110kWアドバンスト(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.8 アウディのミドルサイズSUV「Q3」の新型が日本に上陸。デザインやインターフェイスは新しくなっているが、さまざまな事情によってクルマとしての基本コンポーネンツは先代を踏襲しているのが3代目の実情だ。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。FWDのエントリーグレードを試す。
-
スズキDR-Z4SM(5MT)【レビュー】 2026.8.7 スズキ久々のスーパーモタードである「DR-Z4SM」に試乗! 最新の400cc級デュアルパーパスモデルをベースに、タイヤを17インチ化してオンロードでの機動性を突き詰めた一台は、今どき珍しいほどにアグレッシブで、強烈な個性を放つマシンに仕上がっていた。
-
NEW
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】
2026.8.15試乗記英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。 -
目指すは究極の走りと官能性 「ランボルギーニ・レヴエルトSV」の核心をキーマンが語る
2026.8.15デイリーコラムランボルギーニが「レヴエルト」の進化モデル「レヴエルトSV」を発表。強力なV12エンジンとプラグインハイブリッドシステムを搭載したフラッグシップは、いかなる進化を遂げたのか? V12モデルのディレクターを務めるキーマンが、その核心を語った。 -
ボルボのフラッグシップ電気自動車「EX90」が上陸 軌道修正された電動化戦略の今を探る
2026.8.13デイリーコラムボルボのフラッグシップ電気自動車(BEV)「EX90」と「ES90」が日本に上陸。2030年までに完全BEVブランドになるという目標は軌道修正したが、2040年までに温室効果ガス排出ゼロ企業を目指す方針に変わりはない。ボルボの電動化戦略の今を探る。 -
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う
2026.8.13マッキナ あらモーダ!ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。 -
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?
2026.8.12デイリーコラム2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。 -
第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン―
2026.8.12カーデザイン曼荼羅日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、いまにわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。


























