ヤマハYZF-R25 ABS(6MT)/YZF-R3 ABS(6MT)/YZF-R1M ABS(6MT)
ハンドリングに一家言あり 2022.01.10 試乗記 ヤマハのスーパースポーツ「YZF-R」シリーズのなかから、「YZF-R25」「YZF-R3」「YZF-R1M」の3機種にサーキットでイッキ乗り! ターゲット層もパフォーマンスも異なる3台だが、その走りからは一貫してヤマハならではのファン・トゥ・ライドが感じられた。似ているようで……やっぱり似ている
新型「YZF-R7」の試乗会場である袖ケ浦フォレストレースウェイには、兄弟モデルも用意されていた。YZF-R25、YZF-R3、YZF-R1/R1Mがそれで、排気量やエンジン形式による違いを体感することができた。
もっとも、そのすみ分けは明確だ。R25/R3はエントリーユーザーに優しく、R1は超高速域に特化。R7には両者の最大公約数的な懐の深さがあり、その登場はYZF-Rという共通の名のもとでスポーツライディングを楽しむための選択肢が広がったことを意味する。
R25とR3の差異は極めて少ない。エンジンのボア(R25:60.0mm/R3:68.0mm)と排気量(R25:249cc/R3:320cc)、タイヤの構造(R25:バイアス/R3:ラジアル)程度にすぎず、サイドカウルの車名ロゴがなければ、見分けることは困難だ。細かく観察してもヒールガードの意匠の違いを挙げられる程度で、穴あけ加工が施されているのがR25、されていないのがR3である。いずれもグローバルモデルの役割を担い、国や地域のニーズに応じて最適なモデルが投入されているなか、日本はどちらも選べる数少ないマーケットだ。
端的に表現すると、R3はR25のチューニングバージョンと言っていい。ボアアップによって最高出力は35PS/1万2000rpmから42PS/1万0750rpmに引き上げられ、もちろんトルクも増強。ストップ&ゴーを多用する街なかでは楽にライディングすることができる。
エンジンが変われば走りも変わる
今回の試乗コースはサーキットゆえ、排気量の違いがそのままパフォーマンスの差として表れるかと思いきや、意外と好印象だったのはR25のほうだ。速い遅いで評価すればもちろんR3に分があるものの、こちらはエンジン回転の上昇が速く車速ものるため、R25ならスロットル全開でまだ引っ張れる箇所でシフトアップすることになる。袖ケ浦フォレストレースウェイの場合、ストレートエンドのギアはR25が4速、R3は5速だ。つまり、R25のほうがギアチェンジの回数が少なくて済み、1段ごとにカバーするエリアも広くなる。下手をするとトルクバンドから外れてしまうので、まめにシフトアップするより適正なギアからひとつくらいズレていても引っ張り気味に走らせたほうが、マシンにも合っている。
気軽にスポーツ走行を楽しみたいライダーにとっては、これくらいのアバウトさがちょうどいい。R25の“使える回転域”は7000rpmから1万4000rpm近くまでとかなり広く、ギアを操作する手数が少ないぶん、ライン取りに意識を集中できるからだ。ストレートでしっかりとスロットルを開け、コーナーの入り口ではブレーキングでしっかりと車速を落とす。スポーツ走行の“キホンのキ”が身につくよき教材であり、一気にふたつみっつとギアダウンするような操作は、R7を手にしたときの楽しみとして残しておくといい。R7にはスリッパークラッチ(=エンジンブレーキによるリアタイヤのホッピングが緩和される)が標準装備されているため、そういう操作をしても挙動を乱すことなくクリッピングポイントに向かえるはずだ。
一方、ビッグバイクに移行する予定はなく、街乗りやツーリングをメインに楽しみたいライダーにとっては、R3のトルクが生きる。6速・100km/h巡航時のエンジン回転数はR25より1000rpmほど低く、振動も少なめ。タイヤの違いからくる乗り心地もわずかながら良好だ。
いずれステップアップを考えているのなら、まずは維持費を抑えられるR25でしっかりと学び、普通自動二輪免許のなかで完結するつもりなら、余力のあるR3を選ぶ。どちらか迷ったときは、これがひとつの判断材料になると思う。
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コーナリングにみるヤマハ製スーパースポーツの特性
さて、最後に試乗したのはYZF-Rシリーズのフラッグシップであり、世のリッタースーパースポーツのレベルを大きく引き上げたR1だ。2015年にデビューし、2020年にはエンジンの内部パーツの変更、サスペンションのリセッティング、ブレーキの制動力とコントロール性の向上、電子デバイスの追加といった多岐にわたる改良が施され、今に至る。
それにしても手ごわい。当日はR7、R25、R3の順番で乗ってきたわけだが、これらのモデルに共通するのはコーナリングスピードの高さだ。ブレーキを遅らせて深いところまで突っ込むよりも、フワッと飛び込んで重力と遠心力をバランスさせながら、車体の鼻先が出口へ向かうのをしばし待つ。そういう走り方を得意とする。
なので、低速コーナーよりも高速コーナー、浅いバンク角での機動性よりも深いバンク角での安定性に優れ、例えば「パワーのホンダ」に対して「コーナリングのヤマハ」と評されるのは、こうした基本特性がひとつのゆえんとなっている。
ヤマハのバイクはそれを実現するため、とりわけパーシャル前後の過渡特性が綿密につくり込まれている。スロットルを開けるか開けないか。その微妙な領域でのトルクレスポンスが制御しやすく、いよいよ右手を大きくひねればリニアに追従。その“手の内感”がコーナリングに高い自由度をもたらしている。
R1はその極地にあり、強大なパワーをコントロール下に置くために進化してきた。クロスプレーン型クランクシャフトがもたらす270°→180°→90°→180°という不等間隔爆発はその象徴だ。等間隔爆発にはない不規則性がスキップのようなリズムを生み出し、スロットルの開けやすさとトラクションのつかみやすさにつながっている……はずだが、200PSの最高出力と202kgの軽さがもたらす瞬発力は、やはり普通ではない。
扱いやすさにも限度があり、いくらパーシャルをつくりやすいといってもタイトコーナーでは敏感に反応。そういうコーナーを3回通過すれば1回はスロットルを開け切れず、もう1回はアウトにはらみ、人機一体の感覚が得られるのは1回あるかないか。最も穏やかなエンジンモードに切り替えても、これはほとんど変わらない。トラクションコントロールやスライドコントロール、リフトコントロールといった制御によってなんとかスタビリティーが保たれていることを忘れてはいけない。
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“R”の文字に宿るもの
いかにエキスパート向けなのかは、2020年型から採用されたEBM(エンジンブレーキマネジメント)の設定に表れている。名称の通り、エンジンブレーキの特性を3段階のなかから選択できるデバイスだが、プリセットの状態を基準にして弱める方向にしか調整できない。
なぜこうした制御が採用されたのかといえば、スリックタイヤの装着を前提にしているからだ。タイヤのグリップ力が高くなると摩擦が増え、それ自体が一種のブレーキになる。だったらエンジンブレーキを利かなくして相殺すればいい。そんな実戦ありきのデバイスであり、事実2サイクルエンジンさながらの抵抗のない減速を可能にしている。
これらが組み合わさった結果、コーナーの曲率が大きくなればなるほど、もっと言えばツインリンクもてぎ、鈴鹿サーキット、富士スピードウェイの順にアベレージスピードが高くなればなるほど、R1は本領を発揮。フルバンク中のパーシャル時に車体の前後荷重がきれいにバランスし、クリッピングポント前後では美しい軌跡を描くことができる。
減速時にフリクションを感じることなく車体をリーンさせ、旋回中はパーシャル+αのスロットル操作で安定。クリッピングポイントを過ぎれば、不等間隔爆発ならではのトラクションのよさで鋭く立ち上がっていく。それがR1の走らせ方だ。コーナリングスピードに特化しているからこそ、低速域には少々我慢しなければならない点はあり、ヤマハもそれを隠そうとしていない。
R25/R3は「Ride the “R” anytime」(毎日乗れるスーパースポーツ)というキャッチコピーを掲げているのに対し、R1は「Full control evolution of track」(トラックを極める)と宣言。快適性や利便性を求めるなら他のモデルをどうぞ、という姿勢がむしろすがすがしい。ちなみに、R7のそれは「Fun master of Super Sport」(楽しさを極める)だ。この文言からもR25/R3とR1の間を埋める存在であることが分かる。自身のスキルや走るステージを見誤らなければ、YZF-Rシリーズを通じて誰もがヤマハハンドリングの神髄に触れることができる。
(文=伊丹孝裕/写真=峰 昌宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ヤマハYZF-R25 ABS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2090×730×1140mm
ホイールベース:1380mm
シート高:780mm
重量:170kg
エンジン:249cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:35PS(26kW)/1万2000rpm
最大トルク:23N・m(2.3kgf・m)/1万rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:27.2km/リッター(WMTCモード)
価格:65万4500円
ヤマハYZF-R3 ABS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2090×730×1140mm
ホイールベース:1380mm
シート高:780mm
重量:170kg
エンジン:320cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:42PS(31kW)/1万0750rpm
最大トルク:29N・m(3.0kgf・m)/9000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:27.6km/リッター(WMTCモード)
価格:68万7500円
ヤマハYZF-R1M ABS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2055×690×1165mm
ホイールベース:1405mm
シート高:860mm
重量:202kg
エンジン:997cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:200PS(147kW)/1万3500rpm
最大トルク:113N・m(11.5kgf・m)/1万1500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:15.2km/リッター(WMTCモード)
価格:319万円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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