ヤマハYZF-R1M ABS(6MT)
“人機官能”を体感せよ 2020.12.20 試乗記 国内外のバイクメーカーが開発にしのぎを削る、リッタークラスのスーパースポーツモデル。このジャンルで、長きにわたりヤマハの“顔”として活躍していたのが「YZF-R1」だ。日本でもついに正規販売が開始された、最新モデルの走りを報告する。ヤマハが誇るサーキットウエポン
1000cc級のスーパースポーツの性能争いは熱い。もはや200PSは当たり前で、最新の電子制御によるマネジメントシステムがライダーの走りをサポートする。国内4メーカーにBMW、アプリリア、ドゥカティ、KTMなどが加わり、切磋琢磨(せっさたくま)を続けている。今回試乗したのはその中のヤマハYZF-R1(以下、R1)。全日本ロードレースやスーパーバイク世界選手権などで大活躍しているマシンだ。
国内4メーカーのスーパースポーツは、すべて直列4気筒エンジンを採用しているが、R1がライバルと異なるのは、クロスプレーン式のクランクシャフトを採用していること。通常の直列4気筒は等間隔爆発だが、クロスプレーンでは不等間隔爆発となる。ピストンの慣性トルクを打ち消すべく採用されたこの方式のため、R1の排気音とフィーリングは、ライバルのどんな直4エンジンとも異なるものになっている。
今回はこのR1をストリートと高速道路で試乗してみることにした。ここまで高いパフォーマンスのマシンを詳細に分析するのはサーキットでないと不可能だ。しかし、だからといってストリートのインプレッションが無意味なわけではない。スーパースポーツの進化でスゴいのは、ここまで高いパフォーマンスを発揮しながら、ストリートでの扱いやすさや楽しさがキチンと考えられているところだからだ。
回転数で表情を変えるクロスプレーンの妙味
R1に限ったことではないが、このクラスのスーパースポーツはシートが高い。マシンの運動性能を最大限に発揮させるためで、身長178cmのテスターでも踵(かかと)が浮いてしまう。ストリートでの扱いやすさを考えたミドルクラスのスポーツバイクとは異なり、サーキットを速く走るうえで一切妥協がない。前傾もきつく、スパルタンなライディングポジションである。
クロスプレーンのエンジンは、低回転でツインのようなパルスを感じる排気音を奏でる。低回転からトルクがあって扱いやすく、2000rpm程度からでもスロットルを開ければ力強く加速する。一方で、不等爆発によるパルスは回転が上がっていくにつれて弱まり、4000rpmぐらいからはクロスプレーンの効果によって、エンジンが滑らかになっていく。トルクも力強さを増し、スロットルを開ければマシンは十分過ぎるくらいの加速をする。ストリートなら、ここまでの回転域でもキビキビと走ることが可能だ。
しかし、本当にパワーが盛り上がってくるのは8000rpmぐらいから。クロスプレーンによって慣性力を打ち消しているため、回転が上がるほどにエンジンの回転は滑らかになる。9000rpmを超えたあたりからは200PS級の強烈な加速が始まり、それがレッドゾーンの1万4000rpmまで続く。高回転域での伸びとパワーの盛り上がり感は素晴らしい。普段、散々ビッグバイクに乗って慣れているつもりではいたのだが、それでも圧倒されてしまうほどだった。
サスペンションはストリートを少し走っただけで、素晴らしい動きをしていることが分かる。サーキット走行を考えたサスは、高荷重域で本来の性能を発揮するのだが、同時に性能を追求するべくフリクションが徹底的に低減されている。結果として感動的なくらいスムーズに動き、細かなショックも見事に吸収してくれるのである。
スーパースポーツというと、足まわりが硬くて乗り心地が悪いように想像されるかもしれないが、サスペンションの動き始めの、柔らかい部分を使って走る限り、R1にそうした感覚はない。大きなギャップを乗り越えたりすると、さすがにお尻を突き上げられるが、それは仕方ないことだ。
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本領はやはりサーキット
ハンドリングは市街地のような低速域でもニュートラルで乗りやすい。交差点などで曲がるときもフロントの舵角のつき方が自然で違和感もなく、タイヤの接地感も高い。街なかでも楽しめるセッティングだ。
試しに、ほんの少しペースを上げてコーナーを攻めてみるとこれが面白い。素晴らしいタッチのブレーキを使って減速。ブリッパーを使ってクロスしたギアをシフトダウンしていけば、これだけでテンションが上がる。立ち上がりでは中速からトルクのあるエンジンのおかげで、リアタイヤにトラクションをかけて加速していける。大したスピードは出ていなくても、サスペンションがキチンと動いてくれるのが分かる。ストリートレベルでもMotoGP譲りのフィーリングを楽しむことができてしまうのである。
R1は、国産スーパースポーツの中でも乗りやすいほうだと思う。前傾姿勢が問題ないのであれば、ちょっとしたツーリングにも使えるフレキシビリティーがある。回転数によってエンジンの表情が変わる、クロスプレーンの魅力も楽しむことができるだろう。ライダーの意思に忠実に反応するR1の素晴らしさは、ストリートでも健在である。
しかし、このバイクの本当の素晴らしさを知るのであれば、やはりサーキットだ。本気で攻め込んだとき、ヤマハ独自の開発思想であり、このマシンの開発にあたっても掲げられた“人機官能”というコンセプトが、どんなものか体感できるはずである。
(文=後藤 武/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2055×690×1165mm
ホイールベース:1405mm
シート高:860mm
重量:202kg
エンジン:997cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ
最高出力:200PS(147kW)/1万3500rpm
最大トルク:113N・m(11.5kgf・m)/1万1500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:15.2km/リッター(WMTCモード)/21.6km/リッター(国土交通省届出値)
価格:319万円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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