万年3位脱却に向けた断捨離!? 「ホンダ・ステップワゴン」から「わくわくゲート」がなくなった
2022.01.19 デイリーコラム1世代で消えたキラー装備
6代目となる新しい「ホンダ・ステップワゴン」が公開された。ただ、正式発売は春(ネット情報によると5月)とのことなので、“まる6年ごと”という、ここ数世代の切り替えスケジュールに今回もピタリと沿ったかたちである。なのに、このタイミングで先行公開するのは、先ごろ発売されたセグメント絶対王者のトヨタ兄弟(「ノア」と「ヴォクシー」)の機先を制するためだろう。
現時点で判明している情報によると、1.5リッターターボと2リッターハイブリッド「e:HEV」の2本立てというパワートレイン構成は従来どおりで、セグメント唯一となる床下収納サードシートも継承された。エクステリアデザインはシンプルな原点回帰感をかもしつつ、ボンネットを“見える化”して車両感覚をつかみやすくする工夫が凝らされている。
そして、ある意味で今回最大のハイライトといえるのは「わくわくゲート」の廃止だろう。このセグメントは事実上の日本専用車として、トヨタ・日産・ホンダという日本のビッグスリーによる三つ巴の販売開発競争が繰り広げられた結果、パッケージレイアウト的にはもはやイジりようがないほど煮詰まっている。そうしたなかで、ホンダのわくわくゲートは他社と明確に差別化できる貴重な武器だったのだが、それをわずか1世代で廃止するというのは、開発陣にとってもむずかしい選択だったことだろう。
1つの目的に2つのアプローチ
先代ステップワゴンが2015年4月末に発売された約1年後に、現行型「セレナ」はリアガラス部分が開閉する「デュアルバックドア」を引っ提げて登場した。両車の開発担当者それぞれに、独自のリアゲート誕生のキッカケをうかがったところ「この種のクルマを日常使いする女性(=ママ)が扱いきれないほど巨大化したバックドアをなんとかしたかったから」と、まったく同じ答えが返ってきたことを思い出す。つまり、技術者がほぼ同時期に同じ思いを胸に抱いた結果として、ホンダはわくわくゲートを、日産はデュアルバックドアを生み出したわけだ。いずれにしても、酷似した条件から生まれた2つの技術に、それぞれの社風がなんとなく漂っているところは興味深い。
このセグメントはもともと初代ステップワゴンが開拓した市場だが、実際の販売成績は、低床・低全高で話題となった3代目ステップワゴンのモデルライフ後半以降「1位:トヨタ兄弟、2位:セレナ、3位:ステップワゴン」の構図が固定化されてしまった。5代目のわくわくゲートはそれを打破するキラーアイテムとなることが期待されたが、結局のところ、この構図は5代目の6年間を通じても変わることがなかった。
とはいえ、先代ステップワゴンは昨2021年には2位のセレナにもっとも肉薄した販売実績を残しているのだが、その大きな理由が2020年の一部改良で、それまでは最廉価グレード以外すべて標準装備だったわくわくゲートが、売れ筋の「スパーダ」で非装着車も選べるようになったから……だとしたら、ちょっと複雑な気持ちにもなる(本当のところは不明だが)。ちなみに、わくわくゲートの有無にかかわらず、額面上の車両本体価格は変わりなかった。
もちろん、先代ステップワゴンの販売がライバルの後塵を浴び続ける結果となったのは、わくわくゲートだけが理由ではないだろう。純粋な国内販売力ではやはりトヨタと日産がホンダより上だし、わくわくゲートに加えて、2種類のパワートレインが非常に高度なこともあってか、先代ステップワゴンは価格も全体にライバルより高かった。
好みで選べるのがベストだが
いずれにしても、良くも悪くもわくわくゲートの好き嫌いが分かれたのは事実だ。左右非対称デザインはいかにも好みが分かれそうだし、リアウィンドウの視界をピラーが邪魔するのを嫌う声もあった。また、販売現場では、運転に自信のない(主に女性の)ドライバーから「ぶつけてしまったときの修理代が高そう……」という理由で敬遠されることも少なくなかったという。
そのいっぽうで、わくわくゲートは「左右スペースがギリギリでも後方から出入りできる」とか「PAなどで、2列目に高齢者を座らせたままでも、3列目の子供がいち早く車外に出られる」、あるいは「せまい場所でも自転車やベビーカーをスパッと積める」「犬などのペット用ドアとして好適」などなど、独特の使い勝手があり、一度ハマってしまうと他車では代用が利かない依存性もある。実際、今回のわくわくゲート廃止を“悲報”として嘆くステップワゴンユーザーも目立つ。
本来であれば、先代最終期のように、わくわくゲートを継承しつつ、装着車と非装着車が選べるようにするのが、新型ステップワゴンの商品力としての理想だろう。ただ、そうやって仕様数が増えるほど生産コストは高止まりする。先代を例にとると、わくわくゲートによる重量増は10kgだが、燃費性能を突き詰める現代のクルマにとって10kgは小さくない。また、新型では2列目と3列目のヒップポイントを引き上げて、2列目では610~865mm超のロングスライド機構を実現しているというが、これもわくわくゲートを諦めたことによる空間的余裕を活用しているかもしれない。
新型ステップワゴンは春の正式発売に先駆けて、2月から先行受注を開始するという。おおよその価格は、そこで判明するだろう。これまでのステップワゴン最大のネックだった価格がどうなるかに、まずは注目したい。
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業、日産自動車/編集=藤沢 勝)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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