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ホンダ・ステップワゴンe:HEVエアーEX(FF)

「三方よし」の心を 2025.08.06 試乗記 渡辺 敏史 ホンダの「ステップワゴン」に「エアーEX」が登場。詳しくは本文でご確認いただきたいが、既存の「エアー」の最大の弱点だった装備の貧弱さを解消した待望の新グレードだ。ロングドライブに持ち出してあれこれと試してみた。
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売れ行きが芳しくないステップワゴン

日本のローカル銘柄のひとつである5ナンバー級3列シートのミニバン。トヨタは「ノア/ヴォクシー」、日産は「セレナ」、そしてホンダはステップワゴンと、これらがそのニーズに応えているわけだ。

……といっても、最近はセレナの一部グレードを除いて軒並み3ナンバー化されており、ガチの5ナンバー3列シートミニバンといえば「シエンタ」や「フリード」のシマとなっている。まぁ今回は一応前者の縄張りのお話ということでご容赦いただきたい。

で、この3社4モデル、いずれも2022年にフルモデルチェンジを迎えており、順当にいけば6~7年のモデルライフのなかでマイナーチェンジ的な動きがあってもおかしくない、2025年はそんなタイミングにあたる。おそらくはつぶし合いのために計算された惑星直列でもないだろうが、コロナ禍もあってのさまざまなタイミングのズレがちょっとしたいたずらになったところもあるのだろう。図らずも電動パーキングブレーキの部品滞りで「フィット」が「ヤリス」とほぼ同期になってしまった、そんなハプニングと事情は似ているのかもしれない。

そのなかで、真っ先にマイチェンの札を切ったのはステップワゴンだ。理由はよく分かる。その事情を察してしまうくらい、販売が振るっていない。ちなみに直近の2025年上半期のデータをみると、ステップワゴンの販売台数は2万8850台。セレナの3万8921台には結構な差をつけられている。そしてノアヴォクはピンでも4万、コンビでざっと8万台のステージゆえ、今年の阪神ではないが他を完全に圧倒している状況だ。

同時期にデビューしたライバルに先んじてマイナーチェンジを果たした「ホンダ・ステップワゴン」。今回の試乗車は新規設定された「e:HEVエアーEX」の7人乗り仕様。
同時期にデビューしたライバルに先んじてマイナーチェンジを果たした「ホンダ・ステップワゴン」。今回の試乗車は新規設定された「e:HEVエアーEX」の7人乗り仕様。拡大
「エアーEX」はこれまでの「エアー」の上位グレードという位置づけ。マイナーチェンジでエアーEXが主力になっており、ただのエアーで選べるのは純エンジン車のFFモデル・7人乗りのみになってしまった。
「エアーEX」はこれまでの「エアー」の上位グレードという位置づけ。マイナーチェンジでエアーEXが主力になっており、ただのエアーで選べるのは純エンジン車のFFモデル・7人乗りのみになってしまった。拡大
フロントマスクの迫力で勝負しないデザインは、ライバル車とは一線を画すポイントだ。
フロントマスクの迫力で勝負しないデザインは、ライバル車とは一線を画すポイントだ。拡大
6代目となる現行の「ステップワゴン」は2022年5月に登場。初代の発売は1996年のことだった。
6代目となる現行の「ステップワゴン」は2022年5月に登場。初代の発売は1996年のことだった。拡大
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装備が足りなさすぎたエアー

言うまでもなく、このカテゴリーのパイオニアといえばステップワゴンだからして、ホンダの悔しさはいかばかりかと察してしまう。が、ステップワゴンの側にも非がなくはない。それはクルマそのものの能力というよりも、売り方や見せ方といった販売側の問題だ。

グレード構成自体はすっきりしているが、メーカーオプションの選択肢が少ないため、お客さんのコンフィギュレーションに制約がある一方で、大多数のユーザーが選択すると目されるものを標準化しているため、結果的に表向きの値札がライバルよりひと回り高いものになってしまっている。この傾向はステップワゴンはもとより、フリードや「シビック」にもみてとれる。

ホンダとしてはお客さんを迷わせない親切のつもりでやっていることなのかもしれないが、これで商機の取っかかりを逸しては元も子もない。トヨタはその辺をうまくやっていて、ノアヴォクではシンプルなディスプレイオーディオを標準化する一方で、アップデートを求める向きには駐車機能などのADASを合盛りにして供するなど、がっちりお金を頂戴する仕組みもつくっている。

それがホンダときたら、お財布を開くつもりがあっても、ブラインドスポットアシストや革巻きハンドルやUSB端子さえ選べないんですよ……。というのがステップワゴンのエアーの泣きどころだった。せっかくミニマイズされたデザインや明るいインテリアでトヨタや日産とすっきり差別化できた存在感も台無しにしてしまうほどの丸腰装備に、かつてこちらの試乗記(参照)でも謎オプションとツッコミを入れさせていただいた。

ハイブリッドパワートレインは最高出力145PSの2リッター4気筒エンジンと184PSの駆動用モーターの組み合わせだ。
ハイブリッドパワートレインは最高出力145PSの2リッター4気筒エンジンと184PSの駆動用モーターの組み合わせだ。拡大
内装は無印良品のような素材とカラーの組み合わせで、居心地のいい空間だ。「エアーEX」では3ゾーンコントロール式のフルオートエアコンを装備する(「エアー」のリアはマニュアル式のクーラーのみ)。
内装は無印良品のような素材とカラーの組み合わせで、居心地のいい空間だ。「エアーEX」では3ゾーンコントロール式のフルオートエアコンを装備する(「エアー」のリアはマニュアル式のクーラーのみ)。拡大
ダッシュボードにはUSB-AとUSB-Cが並んで1つずつ。「エアー」はキャビン全体でここに1つしかないので、さすが「EX」と感じられるポイントだ。
ダッシュボードにはUSB-AとUSB-Cが並んで1つずつ。「エアー」はキャビン全体でここに1つしかないので、さすが「EX」と感じられるポイントだ。拡大
ステアリングホイールは本革巻き。回生ブレーキの強さを任意にコントロールできる「減速セレクター」(ステアリングパドル)が備わっている。
ステアリングホイールは本革巻き。回生ブレーキの強さを任意にコントロールできる「減速セレクター」(ステアリングパドル)が備わっている。拡大

乗れば分かる「いいミニバン」

そんな声は発売当初から上がっていたと聞くが、ようやくそれが反映されたのが今回追加されたエアーEXグレードだ。「スパーダ」のトップグレードに準拠するかたちで、2列目シートのオットマン機能とか全列相当分のUSB-C充電端子とか、とにかく載せられるものは全部標準装備とし、謹製ナビやそれに連動するごく一部のADAS機能のみをオプション扱いとした。一方で、エアー+ハイブリッドの組み合わせはEXグレードのみの設定になったりと、やることがちょっと極端だよなあと思う一面も相変わらずある。

クルマの中身に変化はないから当たり前といえばそうだが、乗れば相変わらずいいミニバンだなあと思う。Cセグメントを中心にカバーするプラットフォームは、拡張性はともあれ動的質感においてはトヨタの「GA-K」に負けず劣らずの総合力を持つが、ステップワゴンにもその素養が十分に生かされていて、舗装の補修やマンホール周辺の経年劣化や橋脚ジョイントやと、いかにも日本的な路面段差も寛容に受け止めてくれる。静粛性もとにかく侵入音量を抑え込むというよりは、全体最適で程よく心地よい空間づくりを意識しているのだろう。それは内装のデザインからも感じられることで、ホンダはピープルムーバーをいち早く手がけてきたその歴史の資産と、つくり手の間では無意識のうちに明朗さや爽快感がホンダのセンスとして共有されてきたのではないかと思う。

先進運転支援機能の「ホンダセンシング」にブラインドスポットインフォメーションが含まれるようになった。これは「エアーEX」だけでなく「エアー」も同様だ。
先進運転支援機能の「ホンダセンシング」にブラインドスポットインフォメーションが含まれるようになった。これは「エアーEX」だけでなく「エアー」も同様だ。拡大
シートは見た目どおりの柔らかなかけ心地がいい感じだ。「エアー」にはないシートヒーターが搭載されている。
シートは見た目どおりの柔らかなかけ心地がいい感じだ。「エアー」にはないシートヒーターが搭載されている。拡大
2列目のキャプテンシートにはオットマンを装備。これはベンチシートとなる8人乗りには備わらない。
2列目のキャプテンシートにはオットマンを装備。これはベンチシートとなる8人乗りには備わらない。拡大
2列目シート用のUSB-Cは左右の前席背面の肩の部分に備わる。ベンチシートにフル乗車だと1人分が足りないことになるが、ホンダの説明によれば全席ではなく全列に装備とのことである。
2列目シート用のUSB-Cは左右の前席背面の肩の部分に備わる。ベンチシートにフル乗車だと1人分が足りないことになるが、ホンダの説明によれば全席ではなく全列に装備とのことである。拡大

もはやホンダ党だけの選択肢なのか……

もちろんハンドリングも悪くはない。そういうことを言う車型ではないのは分かっているが、乗員のことに鑑みればGの管理はドライバビリティーにおける重要な性能だ。横方向、つまりロールもコントロールしやすいが、それ以上にピッチ側の調整がやりやすい。それはパドルで回生ブレーキを微細に使い分けるファンクションによるところも大きいと思う。自分がもし箱根駅伝五区の監督車の運転手なら、このパドルこそが山の神だろうと思うが、残念ながら現在それはトヨタハイブリッドシステムのBモードの役割になっている。

個人的にはこの手のクルマを要する場面は少なくて購入の対象にはならないが、前やら後ろやらに座ったり荷室をつくったりと、いろいろ試せば試すほどに、選ぶならステップワゴン一択じゃね? と思うのが正直なところだ。でも、フィーリングやパフォーマンスだけで選ばれるものではないのがこのカテゴリーの重要なところなのだろう。そしてそれを最もよく知るのはトヨタだと、客観的にみても伝わってくる。何よりノアヴォクは実燃費でぐうの音も出ないスコアをたたき出してくる。

もはやステップワゴンを選ぶのは粋やこだわりのような感情論なのだろうか。そう片づけるのはちょっともったいない気がする。繰り返しになるが、ホンダはつくる人と売る人と決める人の三方よしを今一度精査したほうがいいのではないだろうか。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=本田技研工業)

ホンダの「e:HEV」は基本的にシリーズハイブリッドであり、通常時の駆動のほとんどをモーターが担当(エンジンは発電に専念)。エンジンがタイヤに直接トルクを供給するのは、高速巡行時などの限られたケースのみだ。
ホンダの「e:HEV」は基本的にシリーズハイブリッドであり、通常時の駆動のほとんどをモーターが担当(エンジンは発電に専念)。エンジンがタイヤに直接トルクを供給するのは、高速巡行時などの限られたケースのみだ。拡大
1列目より2列目、2列目より3列目と順にヒップポイントが高くなっていくので、後ろに座っても閉所感がない。3列目は大人でもそれほど不満のない空間だ。
1列目より2列目、2列目より3列目と順にヒップポイントが高くなっていくので、後ろに座っても閉所感がない。3列目は大人でもそれほど不満のない空間だ。拡大
3列目用のUSB-Cは両サイドの壁にある。ここも定員3人に対して2口が備わっている。
3列目用のUSB-Cは両サイドの壁にある。ここも定員3人に対して2口が備わっている。拡大
「ステップワゴン」の3列目シートは床と一体で格納できるタイプ。開口部の高さは1195mmもある。
「ステップワゴン」の3列目シートは床と一体で格納できるタイプ。開口部の高さは1195mmもある。拡大

テスト車のデータ

ホンダ・ステップワゴンe:HEVエアーEX

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1750×1840mm
ホイールベース:2890mm
車重:1810kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6200rpm
エンジン最大トルク:175N・m(17.8kgf・m)/3500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(31.2kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H/(後)205/60R16 96H(ブリヂストン・トランザER33)
燃費:19.8km/リッター(WLTCモード)
価格:393万8000円/テスト車=456万7970円
オプション装備:ボディーカラー<フィヨルドミストパール>(3万8500円)/マルチビューカメラシステム+後退出庫サポート(10万0100円) ※以下、販売店オプション フロアマットカーペット プレミアム(6万7100円)/Gathersナビ(31万0200円)/ナビアタッチメント(4400円)/ナビパネルキット(5500円)/ETC(2万3100円)/ETCアタッチメント(7700円)/ETCサブハーネス(1870円)/ドライブレコーダー(7万1500円)

テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1221km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:307.7km
使用燃料:19.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:15.8km/リッター(満タン法)/15.3km/リッター(車載燃費計計測値)

ホンダ・ステップワゴンe:HEVエアーEX
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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