ホンダ・ステップワゴン モデューロX 8人乗り(FF/CVT)/ステップワゴン モデューロX 7人乗り(FF/CVT)
屈指のチューンドミニバン 2016.11.11 試乗記 ホンダのミニバン「ステップワゴン」に、純正カスタマイズブランド「モデューロ」のパーツを組み込んだスペシャルバージョンが登場。その走りや乗り心地は、ふつうのステップワゴンとどう違う? 8人乗りと7人乗りの2車種に試乗した。カッコだけではないモディファイ
モデューロX――それは、ホンダの純正アクセサリーの開発を担当するホンダアクセスがチューニングを手がけ、ディーラーで新車として販売されるコンプリートモデルの名称だ。
ここに紹介する「ステップワゴン モデューロX」は、モデューロXとしては、2012年12月に誕生した「N-BOX モデューロX」、2015年7月にローンチされた「N-ONE モデューロX」に次ぐ、第3弾となるモデル。「軽自動車以外では初となるモデューロX」ともいえる。この先、発売直後から受注も好調と伝えられる新型「フリード」についても、早々の追加設定が期待できそうだ。
こだわりや個性を重んじるユーザーを対象に、そのニーズに応えるというコンセプトにのっとって開発されたモデューロXで、まず手が加えられたのはエクステリアデザインである。
そもそも、メーカー純正のボディーキットを得意としてきたホンダアクセス。その作品だけに、施されたモディファイの質感、そしてベースとなるボディーへの後付け感のなさは文句ナシだ。その上で、専用デザインの前後バンパーは、揚力バランスを計算し、“空力操安”をも意識したという仕上げ。さらに、専用のエンジンアンダーカバーも加えることで、フロア下面の中央に速い空気の流れを作り出し、直進安定性を高めたという。
このように走行性能の向上も織り込んだ専用のデザインを、見た目の上でより強くアピールしたい場合、設定された3つのボディーカラーの中から選ぶべきは、最も明度の高い「ホワイトオーキッド・パール」だろうというのが個人的感想だ。残るダーク系2色の場合には、開口部の大きさを強調したフロントマスクや、ステップワゴンシリーズで唯一となるリアディフューザーのせっかくの造形が、ボディーカラーの中に埋没してしまうからだ。
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もっとパワーが欲しくなる
インテリアに目を移すと、「Modulo X」のロゴが刻まれたフロントシートや、ピアノブラック仕上げのダッシュボードパネル、レザー仕上げのステアリングホイールとシフトレバー、さらにはフロアマットなど専用デザインのアイテムに気がつく。
とはいっても、それらはいずれも「標準仕様のステップワゴンと見比べれば違いが分かる」という程度で、いわゆる改造車風のテイストは一切香ることがない。そもそも純正用品を扱うブランドであるホンダアクセスならではの仕上がり、と評するべきか。
当然ながら、ファミリーミニバンとして各部の使い勝手については、もとのステップワゴンのポテンシャルを下回るようなところはひとつも見当たらない。むしろ、15mmのローダウンサスペンションが採用されたことによって、わずかながら乗降性が向上しているくらいである。標準車から一切変わらないのは、パワーユニットに関しても同様だ。すなわち、1.5リッターのターボエンジンに、パドルシフトを備えたマニュアルモード付きCVTの組み合わせというのが、このステップワゴン モデューロXの心臓部である。
モデューロXの場合、他のすべてのグレードに用意される4WD仕様は設定されていない。動力性能については、とりわけ活発と言いにくいのが実情で、実際に不満を覚えるというわけではないが、1人乗りの状態ですらこうした印象があるだけに、多人数で乗車した際には「もうちょっと力強さが欲しいな……」と思えるシーンもありそうだ。
それよりも気になるのは、CVTならではの“ラバーバンド感”である。昨今、出来のいい多段ATが、ステップATならではの滑らかさに加えて、DCTに匹敵するダイレクトな駆動力の伝達感を実現させていることを知ってしまうと、「やっぱりCVTはツマラナイな」という思いを新たにしてしまう。ミニバンとはいえ、そんなところは「ホンダ車らしくないよネ」と感じてしまう。もちろんそれは、「モデューロXだから」ではないのだが。
驚きのフットワーク
一方、「これは期待以上だ」と留飲が下がったのは、そのフットワークのテイストだった。
ベース車よりも自由自在に操れるハンドリング感覚を手に入れつつ、コンフォート性もベース車をしのぐ仕上がりは、実はN-BOX/N-ONEという既存のモデューロXでの実績からも、ある程度予想がついたことだ。
だが、ステップワゴンの場合は、そうしたモデューロXならではのテイストに加え、全体的な走りの上質さという点でもベース車両をしのぐところが、“期待以上”という表現を用いる根拠となっている。ピッチングの挙動がしっかり抑えられ、路面を問わずフラット感が高い乗り味は、決してソフトというわけではない。足まわりは全体的に引き締められた感覚が強く、補強の類いがない“素のまま”のボディーに対して、「ドラミングノイズが発生するギリギリの線まで強化されたナ」とイメージできる乗り味でもある。
それでも、同じ205/55R17サイズのシューズを履いた「スパーダ クールスピリット」と直接比較した場合でも、「こちらの方が快適」と感じる人は少なくないように思う。
ミニバンゆえに過度に敏感にすることのないまま、ハンドリングの正確性と走りの自由度を確実に引き上げ、さらに優れた快適性も確保したモデューロXのフットワークは、恐らく世界でミニバンとカテゴライズされるモデルの中にあっても、最上級の妥協点を探り当てた一台であろうと紹介できる仕上がりなのだ。
みんなで乗るなら7人乗り仕様
今回はそんなミニバンの試乗ということもあって、同行の編集者をショーファーに仕立て、セカンドシートの乗り心地もチェックした。
オプション扱いとなる8人乗り仕様、すなわち2列目ベンチシートモデルから試乗をスタートすると、まずフロントシートでは感じられなかった振動が気になってしまった。取り付け剛性そのものがフロントシートに及ばない印象で、ボディーの振動とは質の異なる、シート全体の細かな揺れが認められるのだ。
8人乗り仕様の2列目は、クッション部分が平板なデザインであるゆえに、前後左右へのわずかなGに対しても、乗員の姿勢は崩れやすくなる。今回も、ドライバーがイジワルして荒っぽい運転をしていたわけではないのだが、「これでスポーティーなドライビングでもされたら、同乗者はたまらないな」というのが率直な印象だった。
一方、2列目がキャプテンシートとなる7人乗り仕様に乗り換えると、体のおさまり具合はだいぶ向上する。左右のアームレストを前方に出してそこに腕を下せば、それだけで自然とホールド性をアップさせるカタチにもなってくれるのでなおさらだ。
3列目の乗り心地も試してみようかとも考えたものの、結局、それは遠慮することにした。同じベンチタイプの2列目よりもシートバックが短く、2列目のベンチシート以上に平板に見える3列目は、このクルマでは末席であり、最もコンフォート性に劣るであろうことは明らかだったからである。
実際のところ、こうしたモデルを手に入れたところで、「ではワインディングロードを攻めてやろう」などというユーザーは多くないだろう。そのサスペンションのチューニングについては、むしろ、15mmのローダウンがもたらすドレスアップ効果に魅力を感じる人の方が多いかもしれない。とはいえ、いざスタートしてみて「このクルマ、ミニバンにしてはなかなか走りの味が上質だナ」と感じる人は少なくないはず。そう受け取られてこそ開発者冥利(みょうり)に尽きる! というのが、モデューロXを名乗るモデルの真の価値ではないだろうか。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ホンダ・ステップワゴン モデューロX 8人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1695×1825mm
ホイールベース:2890mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:150ps(110kW)/5500rpm
最大トルク:20.7kgm(203Nm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)205/55R17 91V/(後)205/55R17 91V(ブリヂストン・トランザER33)
燃費:--km/リッター
価格:368万6600円/テスト車=368万6600円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:657km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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ホンダ・ステップワゴン モデューロX 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1695×1825mm
ホイールベース:2890mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:150ps(110kW)/5500rpm
最大トルク:20.7kgm(203Nm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)205/55R17 91V/(後)205/55R17 91V(ブリヂストン・トランザER33)
燃費:--km/リッター
価格:366万5000円/テスト車=366万5000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1063km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。