クルマの専用タイヤはなぜ必要か?
2023.05.09 あの多田哲哉のクルマQ&Aよく欧州メーカーでは、☆印付き(BMW)や「MO」ロゴ入り(メルセデス・ベンツ)など純正装着のタイヤが決められていますが、日本車での専用タイヤの採用例は比較的少ないように思います。なぜでしょうか? 欧州車は専用タイヤでなければ望む性能が出せない、ということでしょうか。
日本のメーカーがそうしたマークを付けることはほとんどありませんが、実は、ごく普通のファミリーカーであっても、個別に専用チューニングを施すことは多いですね。
タイヤはクルマの性能を決めるうえで極めて重要な要素。そのため車両の開発者がタイヤメーカーに対して性能の最適化を要請し、(銘柄や見た目は市販タイヤと同じでも)コンパウンドの質や、場合によってはケーシング(構造)まで変えてもらうわけです。ちなみに初代「86」は、当時の「プリウス」用タイヤを、チューニングも何もせずにあえてそのまま使っていました。
タイヤについては、供給の安定と価格競争の観点から一車種あたり複数ブランドに装着タイヤを発注するケースが多いのですが、そのブランドの差をなくしたい、性能のバラつきを解消したいという理由もあります。
ですから、標準装着のタイヤと同じ銘柄のタイヤを量販店で買い求めても、「似て非なるもの」であるといえます。実際に乗り味がどれだけ違うかはものにもよりますが、「ディーラー経由で調達したタイヤでないと、新車のときと全く同じ性能は出ない」のは確かです。
車両開発の現実問題も理由のひとつですね。例えば、発売まで時間がないなかで「ロードノイズが社内基準を満たしていない」というトラブルが出た場合、「(タイヤメーカーに泣きついて)タイヤで直す、解決するのが一番簡単」という現実があります。もっとも、そうした調整により副作用的な“しわ寄せ”がどこかに生じることもあるわけで、総合的にいいことかどうか、疑問はありますが……。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。