トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)
さすがトヨタの屋台骨 2025.09.10 試乗記 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。「Z」グレードの4WDモデルを試す。市場の要求に応じて自由自在
2025年は「クラウン」が誕生から70年の節目を迎えているが、来年は「カローラ」が60年、そして再来年は「センチュリー」が60年……と、トヨタにとっては何より大切だろう、イニシャルCのアニバーサリーが続くことになる。
とりわけカローラはトヨタの体幹そのものと言っても過言ではない。世界で最も売れた乗用車の座には長らく「フォルクスワーゲン・タイプ1(ビートル)」が君臨していたわけだが、1990年代後半にはカローラが記録を更新。その後も台数を重ねて2021年には販売累計5000万台を突破した。これほど市場が拡大するなか、仕向け地ごとに好みも多様化している背景に鑑みると、ひとつの車名でこれほど数を重ねられる事態がこの先に起こるとは想像しづらい。
そうはいってもカローラって、もはや車型的にはなんでもありじゃあございませんの?
と、おっしゃる方もいらっしゃるだろう。そのとおりで、カローラはその時々のトレンドをちゅうちょなく反映してさまざまに姿形を変えてきた。絶頂期の1980年代には2ドアクーペと3ドアハッチバックという2つの車型を備えていた「レビン」はその最も名の知れた形態だろう。初代から用意されていた5ドアの商用ライトバンは、ステーションワゴンブームに乗って乗用ワゴンとしても展開。1990年代には“カロゴン”と呼ばせたそれが、後の「フィールダー」経由で現在の「ツーリング」へとつながっている。
そして3/5ドアハッチバックは併売されたピープルムーバーの「スパシオ」などと統合されるかたちで、現在の「スポーツ」がそのニーズを踏まえているのかもしれない。でもスポーツの系譜はどちらかといえば「FX」か……と、とにかくバリエーションには枚挙にいとまがない。そういう点ではビートルの生産台数とは意味合いが違うのも確かだが、求めに応じて何にでも化ける、それがカローラの強さでもあるのだとも思う。
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「みんなの幸せ」を背負って
そして現在、カローラシリーズの主力となっているのが今をときめくSUVだ。カローラ クロスは何かの偶然か、カローラシリーズの累計販売台数が5000万台を突破した2021年にデビューし、以来、日本ではシリーズ全体の半分以上を占める大ヒットとなった。その貢献ぶりは2024年の銘柄別販売台数で、カローラの名を再び日本一に押し上げたほどだ。のみならず、ASEANや欧米など世界的にも展開しており、その年間販売台数は70万台以上とトヨタ内ではトップ銘柄の「RAV4」に次ぐスケールとなっている。
そんなカローラ クロスが初めてのマイナーチェンジを迎えたわけだが、その中身うんぬん以前のトピックとして目に留まったのが、生産がトヨタの高岡工場からトヨタ自動車東日本(TMEJ)の岩手工場へと完全移管したという点だ。トヨタは東日本大震災以降、セントラル自動車や関東自動車などを併合するかたちで東北に根を張る姿勢を明確に示して、その投資や雇用を復興の一助としてきた。今やBセグメントのあらかたはTMEJが生産を担ううえ、カローラシリーズの最量販モデルを手がけるということは、台数規模的にも車種的にもトヨタの屋台骨を背負う存在ということになる。もし勤める方が仕事にさらなる誇りを抱けるならば、それは「みんなの幸せ」を主旨とするカローラ冥利(みょうり)に尽きる話だろう。
今回のマイナーチェンジの内容は多彩だが、まず押さえておくべきは日本仕様の全グレードがハイブリッド化されたことだろう。これはカローラシリーズ全体の販売構成で86%がハイブリッドという直近の実績などから判断されたもので、四駆版はリアアクスルをモーターで駆動する「E-Four」を採用する。
そのE-Fourはドライブモードに「スノーエクストラ」モードを新設、これは後軸のモーターをスタンバイではなくフォワード化した電動フルタイム4WDとすることで、雪道での走行時やレーンチェンジ、減速回生時などの走行安定性を高めたものだ。今回は試すことができなかったが、冬の降雪地ではドライバビリティーの差が明確に表れるだろう。
華美ではないがよく練られたインテリア
ADASまわりで興味深いのは「シグナルロードプロジェクション(SRP)」の日本初採用だ。これはウインカーやハザードの作動と連動し、前方路面に向けて注意喚起のシェブロンを投影するもので、夕暮れや夜間に歩行者や自転車への認識性を高めることでの事故抑制を狙いとしている。さすがに晴れた日中は厳しいものの、薄明るいトンネルや屋内駐車場でも認識できる光量は確保されているため、出合い頭の衝突回避の一助にはなりそうだ。それにこういう装備は、カローラ クロスのように数が出てさまざまなスキルの方が乗るクルマに搭載されるほうがより効果を期待できそうだ。
そのカローラ クロスに新たに加わったグレードが“GRスポーツ”で、こちらは2リッターベースのハイブリッドパワートレインを搭載。その動力性能とGRの看板に見合った足まわりのチューニングが施され、エクステリアも異なる意匠が与えられる。駆動方式は四駆のみで、価格も今回の試乗車である最上位グレードの「Z」に対して四駆同士でも20万円余りの差に抑えられるなど、価格競争力もなかなかのものだ。
センターコンソールまわりを中心に意匠変更された内装は、機能性のみならず、若干ながら質感向上にも寄与しているようにみえるが、特筆するほどのことはない。今日びのCセグメントとしては中庸な仕立てだ。シフトレバーや空調などの操作系がメカ式であることは、今や一部のユーザーにはかえって好評価となるのではと思う。後席の広さや掛け心地、荷室の使い勝手なども特筆するようなことはないが、手堅くまとまっている。大人4人での移動も苦にならないだろうこのユーティリティーは、価格帯的にかぶってくる「プリウス」や「ヤリス クロス」には望めない。そういう点ではうまく差別化ができている。
パワートレインは1.8リッターの2ZR-FXEエンジンをベースとしたTHSだ。車格に対しての動力性能は総じて過不足ないものの、高速道路で多用するような80~120km/hの域では加速を求めるとエンジンが頻繁に稼働する。それなりにビジーさを感じる人もいるかもしれないが、音質自体はダイナミックフォース系のように耳障りな濁音成分は抑えられているから、快適さをそぐほどではないだろう。
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クラスの壁を超えた乗り心地
E-Fourは後軸側のモーターが2023年の一部改良時に最高出力41PS/最大トルク84N・mと初出時より大幅に強化されたが、注意深く観察すれば後ろ脚が蹴っている様子がみてとれるくらいの感触だ。でもインジケーターで見る限り、「ノーマル」モードでも頻繁に駆動を介入させているし、「スポーツ」モードでは明確に後軸側の蹴り出し感が強くなる。これがカローラ クロスの走りの洗練度をぐっと高めた一因であることは間違いない。もちろんスノーエクストラモードを用いるような低ミュー環境ではがぜん存在感を増すことになるだろう。
それにも増して特筆すべきは乗り心地のよさだ。四駆はリアをダブルウイッシュボーンとした四輪独立サスを採用していることもあってか、刻々と変わる路面状況に対する追従性や連続した入力時のいなし感が高まっている。全般的には柔らかめのアタリながら、軸芯の精度がしっかり出ていてバネ下のプルプルした横揺れ感が抑えられているなど、ライドフィールには清涼さも感じられた。
カローラ クロスは2023年の一部改良時にも足まわりや車台に手が加えられていたが、今回のマイナーチェンジでは製造時のサスメンバーや前後アーム類、スタビリンクなどの締結剛性をそれぞれ3~11%アップしている。これは生産現場側からの提案もあって実現できたもので、2023年の一部変更での改善効果がより鮮明に表れたということだろう。加えて骨格側ではルーフパネル接合部のマスチックシーラーの高減衰化やリアコーナー部へのウレタンブロック追加、Aピラー内への吸音材追加などで、車内のアコースティック特性をチューニングし、静粛性を高めている。
こういった熟成を進める一方で、一部グレードでは価格を据え置くなど、カローラ クロスはコスパでも他の追随を許さない。新車価格がこぞって高騰するなか、むしろ買い得にさえ感じさせるあたり、他社にとってはトヨタの巨艦ぶりを思い知る一台ということになるだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
トヨタ・カローラ クロスZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4455×1825×1620mm
ホイールベース:2640mm
車重:1500kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流誘導電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/3600rpm
フロントモーター最高出力:95PS(70kW)
フロントモーター最大トルク:185N・m(18.9kgf・m)
リアモーター最高出力:41PS(30kW)
リアモーター最大トルク:84N・m(8.6kgf・m)
システム最高出力:140PS(103kW)
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:24.6km/リッター(WLTCモード)
価格:368万9000円/テスト車=409万2700円
オプション装備:ステアリングヒーター(1万1000円)/ナノイーX(1万1000円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W/非常時給電システム付き/デッキサイド左側/外部給電アタッチメント付き>(4万5100円)/LEDリアフォグランプ<右側のみ>(1万1000円)/アダプティブハイビームシステム[AHS]<ヘッドランプオートレベリング機能付き>(5万1700円)/ブラインドスポットモニター[BSM]+安心降車アシスト[SEA]+パーキングサポートブレーキ<後方接近車両>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>+トヨタチームメイト<アドバンストパーク>+パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>パノラミックビューモニター<床下透視表示機能付き>(12万2100円)/おくだけ充電(1万3200円)/パノラマルーフ<電動サンシェード&挟み込み防止機能付き>(11万円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ラグジュアリータイプ>(2万8600円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1500km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:299.8km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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