オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ
2025.09.11 デイリーコラム強力なイメージリーダーが必要だった
2025年9月4日に正式発表となった新型「プレリュード」については、案の定(?)、「本体価格617万9800円は高い」から「かっこいい」あるいは逆に「かっこ悪い」、そして「昔のプレリュードに似ても似つかない」などなど、仁義なき議論が沸騰している。ちなみに、新型プレリュードの国内販売計画は、月販わずか300台。そもそも量販を見込んだ商品ではないから、こうして国民的な話題になるだけで、そのねらいの半分以上は達せられたといっていい(かもしれない)。
ホンダといえば、四輪車販売の45%(2024年度の場合)を北米市場に依存する。しかも、北米は世界最大のスポーツカー/スポーツクーペ市場でもあり、この新型プレリュードも、寄居工場での生産数の大半を北米市場でさばく予定という(昨今のトランプ関税でちょっと不透明ではあるけれど)。そのいっぽうで、「今回の(プレリュードの)企画のキッカケはあくまで日本だった」と開発担当者は語る。実際、この新型プレリュードは世界に先がけて日本で発売となった。これは近年のホンダのグローバル商品では異例といっても過言ではない。
中高年の皆さんならご承知のとおり、昭和から平成初期までのホンダは、トヨタや日産より若々しく、スポーツイメージが強く、そして常識にとらわれない商品企画でならしたメーカーだった。しかし、近年は“ミニバンと軽(自動車)の会社”と皮肉られることも少なくなく、とくに2022年に「S660」や「NSX」が生産終了して以降は、販売現場でも「なぜやめたのか?」と迫られることも少なくなかったとか。もちろん、ミニバンや軽は日本社会にとって欠かせない存在であり、そういう土着的な乗り物を大真面目につくるのもホンダの伝統の一面ではあったものの、「面白い商品をつくっている会社と見られなくなりつつあるという危機感はありました」と前記担当氏。
北米市場でのホンダは「シビック」「CR-V」そして「アコード」と、各セグメントでベストセラー争いを繰り広げる揺るぎない定番がそろう。そう考えると、なるほど、ホンダには今の日本でこそ、強力なイメージリーダーが必要なのかもしれない。
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中高年に刺さる往年のネーミング
そんな新型プレリュードのもうひとつの特徴は、往年を知る中高年層ほど「これのどこがプレリュードだよ?」という声が大きいことだ。かくいう筆者も、今回の新型に歴代プレリュードの面影はまるで感じない。
それもそのはずである。このクルマは前記のように、最初はあくまで新規のスポーツカー/スポーツクーペとして企画された。こうした新規商品の場合、商品名を決める権限は、開発チームにはないのが通例である。実際、このクルマが最終的にプレリュードと決定したのは、開発担当氏によると「開発が3分の1ほど進んだ時期」だそうで、その時点で内外装の基本デザインは確定していた。つまり、このクルマはもともと、プレリュードとしてデザインされたわけではないのだ。
ただ、当の開発チーム内部では、クルマが具体的なカタチになるにつれて、自分たちにその権限はないながらも「これってプレリュードだよね」という空気が流れていたそうだ。その車格やコンセプトからすると、完全な新規ネーミングでなければ、ふさわしい名前はプレリュード以外になかった……というのは、そのとおりだろう。
新型プレリュードは、ホンダの新しいイメージリーダーとして若い顧客層も多分に意識しつつ、少なくとも日本での購買層は、2、3代目プレリュードが一世を風靡(ふうび)した時代を肌で知る中高年層がボリュームゾーンになるであろうと予想される。プレリュードという名に、そうした中高年層への神通力も期待されたことは容易に想像がつく。
ただ、今回の命名の背景には、もうひとつ理由がある。この新型ホンダクーペの導入が正式に明らかにされている市場は、日本、北米、欧州だが、将来的にはさらなる拡大も見込んでいる。そして、近年のグローバル新商品で、非常にむずかしいのが名前である。とくにクルマのような長い歴史があり、しかも世界が相手の業界では、奇をてらわず、世界共通で使えて、しかもまったく新しい商品名など現実にはほぼ残っていない。
ホンダにしても、アコード、シビック、CR-Vといったグローバルで使える名称は20世紀=25年以上前からあるものばかりだ。21世紀に入ってから発売された「フィット」もホンダ屈指のグローバル商品ではあるが、世界統一名ではない。プレリュードも50年近く前からグローバルで使われた商品名であり、5代目が2001年に生産終了してからも、ホンダはまさにこの日のために(?)、商標権をキープしていたという。
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土壇場でイメージカラーを変更?
新型プレリュードといえば、発表と同時にテレビやYouTubeなどで流れはじめたCM動画も、往年をほうふつさせる中高年感涙のデキと(一部で)評判だ。その内容は、真っ赤(正確には「フレームレッド」)な新型プレリュードが、フランス映画『地下室のメロディー』のテーマソングをバックに、ニューヨークとおぼしき街を走る……というものだが、その車体色といい、BGMといい、そして途中で挿入されるタイトルバックといい、歴代プレリュードでもっとも多く売れた3代目のテレビCMをモチーフとしているのは明らかだ。
しかし、2023年秋のジャパンモビリティショーでの世界初公開から、2025年4月のインテリア公開、そして同年7月のホームページ公開にまつわる各種イベントにいたるまで、新型プレリュードの実車が姿を現す節目で前面に押し出されていたのは、いつも新色の「ムーンリットホワイト・パール」だった。複数の企画・開発担当者、技術者、デザイナーに聞いても、新型プレリュードのメインカラーはムーンリットホワイト・パール……というコンセンサスができているように感じられた。
しかし、ふたを開けてみれば、このCM動画である。このように少なくとも日本市場では定番色のフレームレッド推し……という最終決定は、一説には、ホンダ役員の鶴のひと声が大きかったとか。まあ、そこには賛否両論あるのだろう。ただ、3代目が発売された1987年当時、女の子にモテたくて仕方ない大学1年坊だった筆者も、市街地を走る赤いプレリュードの姿や当時のCMは鮮明に記憶している。今回のCM動画に理屈ぬきでグッと込み上げるものがあったのはウソではない。
というわけで、今回は話題沸騰中の新型プレリュードについて、複数回の取材で筆者が見聞きしたなかから、まだあまりメディアで語られていないエピソードをいくつか並べてみた。SNSなどによると、新型プレリュードもひとまず争奪戦になっているようで、めでたく購入できた人は素直にうらやましいかぎり。しかし、そうでなくても、賛否両論、なんだかんだ好き勝手にイジり倒すのが、イメージリーダーたる新型プレリュードの正しい楽しみかたというものだ。
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業、webCG/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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