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スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)

いいことばかりじゃないけれど 2025.09.13 試乗記 佐野 弘宗 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
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エクステリアデザインを刷新

今回のアルトについては、スズキの資料では「一部仕様変更」とされている。ただ、現行型デビューから3年半というタイミングとけっこう大幅な改良メニューからすると、おそらくモデルライフ折り返しの、現行アルトとしては最大の改良=マイナーチェンジということなのだろう。改良のキモは、エクステリアデザインの変更と先進運転支援システム(ADAS)の刷新、そして燃費向上だ。

エクステリアでは左右ヘッドランプ間に出現したセンターグリル(状の加飾)と上級の(マイルド)ハイブリッド車に追加されたリアスポイラーが目を引く。アルトといえば先代からセンターグリルレスフェイスが特徴だったが、ついにグリルらしきものがついたわけだ。この種のフェイスリフトは日本車で多いので「やっぱり日本ではグリルレスはウケないのか?」と思わなくもないが、2014年発売の先代アルトから数えるとグリルレス歴は10年以上におよぶ。今回はどうやら、そういう理由ではなさそうだ。

新しいアルトは、ADASが従来のステレオカメラ式から、ミリ波レーダー+単眼カメラの「デュアルセンサーブレーキサポートII」に刷新された。これは、衝突被害軽減ブレーキの自転車対応が2026年7月から継続生産車にも義務化されることを見越しての改良と思われる。他車の例を見るかぎり、従来のアルトのデザインのままでは、車体前部にミリ波レーダーを仕込むのはむずかしかったという現実もありそうだ。実際、新しいセンターグリル的な部分にレーダーが内蔵されているように見える。

さらには燃費だ。WLTCモードのカタログ燃費でいうと、今回の試乗車を含むハイブリッド車で従来の27.7km/リッターから28.2km/リッター、純エンジン車で25.2km/リッターから25.8km/リッター(ともにFFの場合)と、これまでも軽トップだった燃費はさらに向上した。

「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが発売されたのは2025年7月22日のこと。デザインのリフレッシュや先進運転支援システムの強化などが図られている。
「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが発売されたのは2025年7月22日のこと。デザインのリフレッシュや先進運転支援システムの強化などが図られている。拡大
左右のヘッドランプ間にグリル風の加飾が加わった。それに伴いスズキの「S」エンブレムはボンネット先端に移されている。
左右のヘッドランプ間にグリル風の加飾が加わった。それに伴いスズキの「S」エンブレムはボンネット先端に移されている。拡大
ツートンカラーのルーフカラーをホワイトからソフトベージュに変更したほか、ブラックルーフも選べるようになった。
ツートンカラーのルーフカラーをホワイトからソフトベージュに変更したほか、ブラックルーフも選べるようになった。拡大
ルーフエンドにはスポイラーを追加装備。ボディーサイドまでカバーする本格的なスタイルだ。
ルーフエンドにはスポイラーを追加装備。ボディーサイドまでカバーする本格的なスタイルだ。拡大
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ライバルを突き放す燃費性能

今回試乗したのは最上級グレードのハイブリッドXだ。主要オプションをほぼフルトッピングした試乗車の合計価格は、約195万円。現行アルトには発売直後にもwebCGで試乗記を書いているが(参照)、当時の試乗車は同じグレードのオプションテンコ盛りで合計が約150万円だった。両車にはナビの有無などの差があるが、それを差し引いた実質価格でも30万円以上アップしている。

……と、あらためて仁義なきインフレを痛感しつつ、運転席に座ったらステアリングホイールはなんと本革巻き。これは最上級グレードだけに追加された新装備とか。細かいことだが、シフトセレクターのボタンやドアインナーハンドルがクロームメッキ化されたのも今回からである。加えて、ADASがグレードアップし、燃費も向上しているのは前記のとおり。30万円以上の価格差といっても、全額が単純な値上げではないということだ。

それにしても、これまでも軽トップだった燃費性能を。ここでさらに引き上げるとは驚いた。とくに直接競合車である「ダイハツ・ミラ イース」のWLTCモード燃費は最良でも25.0km/リッターだから、すでに大差をつけている。もしかしたら、スズキはすでにミラ イースのモデルチェンジ情報をつかんでいて、その機先を制したのか……って、知らんけど。

今回はパワートレインには手が入っていないそうで、燃費向上は空力とタイヤの変更によるものという。なにより目立つのは、思った以上に本格的なリアのルーフエンドスポイラーだが、フロントバンパーも全体形状が少し変わり、開口面積まで微調整されている。聞けばリアバンパーも変わっているそうで、なるほど両サイドがより角ばった形状になった。リアスポイラー同様、気流の巻き込みを抑制しているのだろう。さらに床下にはエンジンアンダーカバーも追加されているとか。

新しい「アルト」の価格は114万2900円~158万9500円。2021年の現行型発売時は94万3800円~137万9400円だった。
新しい「アルト」の価格は114万2900円~158万9500円。2021年の現行型発売時は94万3800円~137万9400円だった。拡大
リアのバンバー形状も変わっている。見比べないと分からない間違い探しレベルではあるが、サイドのエッジが立っており、リアへの空気の巻き込みを抑制している。
リアのバンバー形状も変わっている。見比べないと分からない間違い探しレベルではあるが、サイドのエッジが立っており、リアへの空気の巻き込みを抑制している。拡大
タイヤは同じダンロップの「エナセーブ」でも1世代新しい「EC350+」に変更。「EC300+」よりも転がり抵抗が抑制されている。
タイヤは同じダンロップの「エナセーブ」でも1世代新しい「EC350+」に変更。「EC300+」よりも転がり抵抗が抑制されている。拡大
WLTCモードの燃費性能はマイルドハイブリッド車の場合で28.2km/リッターに到達。もともと軽ナンバーワンの低燃費を誇っていたが、2位以下をさらに突き放す進化だ。
WLTCモードの燃費性能はマイルドハイブリッド車の場合で28.2km/リッターに到達。もともと軽ナンバーワンの低燃費を誇っていたが、2位以下をさらに突き放す進化だ。拡大

見えない部分も着実に進化

続いてタイヤを確認すると、ブランドもサイズも指定空気圧も変わりないが、2022年の試乗時には「エナセーブEC300+」だった銘柄が「エナセーブEC350+」に世代交代していた。転がり抵抗が低減されているのだろう。

それにしても、もともと28km/リッター近かった燃費を、空力とタイヤだけで、さらに0.5km/リッター以上もツメられるとは、燃費とは“抵抗”との戦いなのだと、あらためて思い知らされる。スズキといえば、最新の「スペーシア」や「スイフト」の開発陣に話を聞いても、空力開発での苦労話が尽きない。そうやってスズキは空力の知見をぐんぐん蓄積して、このアルトにも活用しているのだろう。

最新のADASに換装されたといっても、アダプティブクルーズコントロールを用意しないのは「アルトの顧客はそれを欲しない」というスズキならではの見切りだ。しかし、衝突被害軽減ブレーキは前記の自転車に加えて、交差点や出合い頭の危険も検知するようになったし、車線維持アシスト機能や駐車時の低速自動ブレーキなども加わり、一気に充実した。

こうした目に見える改良に加えて、乗り味や快適性といった見えない領域にもマイナーチェンジで手を入れてくるのが、近年のスズキの美点である。このアルトでも、従来はルーフ周辺だけだった高減衰マスチックシーラーをフロアにも追加したり、ドア開口部に構造用接着剤を使ったりと、車体での静粛性や剛性アップが図られている。さらに、サスペンションを“乗り心地向上”をねらってリセッティングしたという。

こうした改良の効能は思ったより大きい。とくに路面の継ぎ目やペイントを乗り越えたときのショックは、マイチェン前よりはっきりと軽く、まるくなった。この価格を考えるとロードノイズは以前から優秀だったが、これまた即座に実感できるくらい静粛性が増した。

パワーユニットはマイルドハイブリッドのR06Dエンジン(最高出力49PS/最大トルク58N・m)。「アルト」にはターボエンジンの設定がない。
パワーユニットはマイルドハイブリッドのR06Dエンジン(最高出力49PS/最大トルク58N・m)。「アルト」にはターボエンジンの設定がない。拡大
ステアリングホイールが本革巻きになったほか、ドアハンドルがクロームメッキ化されるなど、わずかながらインテリアの質感もアップ。ステアリングが大きく見えてしまうのは軽自動車ならではの現象。
ステアリングホイールが本革巻きになったほか、ドアハンドルがクロームメッキ化されるなど、わずかながらインテリアの質感もアップ。ステアリングが大きく見えてしまうのは軽自動車ならではの現象。拡大
車格を考えると妙に立派なサイズのヘッドレスト一体型シートを装備。ヘッドレストの先端は天井との至近にまで達している。掛け心地は良好。
車格を考えると妙に立派なサイズのヘッドレスト一体型シートを装備。ヘッドレストの先端は天井との至近にまで達している。掛け心地は良好。拡大
前席に比べると後席はだいぶ割り切った設計。座面も背もたれも見事にフラットだ。
前席に比べると後席はだいぶ割り切った設計。座面も背もたれも見事にフラットだ。拡大

存在感を増した“人間の重さ”

……といった事実を羅列すると、正常進化のように思える今回の変更だが、カーマニア目線では文句なしとはいいがたい。たとえば、敏感ではないけれど軽快だったステアリングレスポンスは、よくいえばマイルド、はっきりいえば鈍くなった。また、低転がり抵抗タイヤの影響か、ドライグリップも少し低下したようだ。

さらに気になったのは、乗員の体格や人数によって、ハンドリング特性に左右でけっこう明確なちがいが出てしまうことだ。物理的に考えれば、運転席にだけ人が座れば、左右の重量バランスは変わる。まして、このクルマの車両重量はわずか710kgだから、体重八十数kgの筆者だと、車重の1割をゆうに超えるウェイトが偏在することになる。ただ、ひと昔前の軽やコンパクトカーではそれを実感することがままあったが、そういう感覚自体が本当に久しぶりだった。

筆者ひとり乗車のアルトは、運転席側がしずむ右ロール=左方向へのカーブや車線変更はペタンと素早く反応するのに、反対側は逆に粘る。また、右側に深くロールしてしまうと少し戻りにくいようで、その後の直進性が悪化するケースもあった。マイチェン前のアルトでこうした現象を感じた記憶はあまりないので、2022年当時より筆者自身が数kg肥えた自覚はあるものの、最大の理由はやはり、ソフトに振りすぎたサスペンション設定にあると思われる。

もっとも、アルトは今の国産新車でもっとも安価でシンプルな一台である。であれば、こういう少しばかりのクセも、それに合わせた運転で享受すべし……と擁護したくなるのは、その軽さゆえに相変わらず活発な走りや、グリップ限界は低いが、スーパーハイトワゴンよりは路面に吸いつく安定感があるからだ。しかも、実用燃費はカタログの数値以上に進化した感がある。マイチェン前なら19km/リッター台か……といった乗りかたをしても、20km/リッターを切る気配すらないのには素直に感心した。これなら擁護もしたくなる。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=スズキ)

衝突被害軽減ブレーキのセンサーはステレオカメラ式から単眼カメラ+ミリ波レーダー式に変更。自転車も検知対象に加わるなど、機能面でも着実な進化を遂げている。
衝突被害軽減ブレーキのセンサーはステレオカメラ式から単眼カメラ+ミリ波レーダー式に変更。自転車も検知対象に加わるなど、機能面でも着実な進化を遂げている。拡大
メーターは大型の速度計とモノクロのマルチインフォメーションディスプレイを組み合わせた質実剛健なスタイル。車載燃費計は21.7km/リッターと表示されているが、最終的には21.9km/リッターまで伸びた。
メーターは大型の速度計とモノクロのマルチインフォメーションディスプレイを組み合わせた質実剛健なスタイル。車載燃費計は21.7km/リッターと表示されているが、最終的には21.9km/リッターまで伸びた。拡大
前席の中央にはボックスティッシュがピタリと収まるフレームが用意されている。
前席の中央にはボックスティッシュがピタリと収まるフレームが用意されている。拡大
後席がフラットなつくりのため、背もたれを倒せば荷室側からもフラットな空間がつくり出せる。
後席がフラットなつくりのため、背もたれを倒せば荷室側からもフラットな空間がつくり出せる。拡大

テスト車のデータ

スズキ・アルト ハイブリッドX

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1525mm
ホイールベース:2460mm
車重:710kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49PS(36kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:2.6PS(1.9kW)/1500rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC350+)
燃費:28.2km/リッター(WLTCモード)
価格:146万9600円/テスト車=195万7350円
オプション装備:ボディーカラー<フォギーブルーパールメタリック×ソフトベージュ 2トーンルーフ>(4万9500円)/全方位モニター用カメラパッケージ・スズキコネクト対応通信機装着車(10万円)/ ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(1万8810円)/ETC車載器(2万4200円)/ドライブレコーダー(4万9940円)/スタンダードプラス8インチナビセット(24万5300円)

テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:156km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:317.7km
使用燃料:14.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:21.8km/リッター(満タン法)/21.9km/リッター(車載燃費計計測値)

スズキ・アルト ハイブリッドX
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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