第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.09.17 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。
(「フィアット600」編へ戻る)
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実はカッコいいクルマなんです
webCGほった(以下、ほった):3回にわたって送ってまいりました、ステランティスのコンパクトSUVデザイン考も、これが最終回! トリを飾りますのは、ジープ・アベンジャーです。
清水草一(以下、清水):クルマ好きの注目度は、3兄弟のなかでもいちばん低そうだね。
渕野健太郎(以下、渕野):これはEV(電気自動車)だけなんですよね?
ほった:日本ではそうですね。海外ではエンジン車や、ハイブリッド四駆の「4xe」も出てますけど。
清水:ジープなのにEVでFWDオンリー! しかも本場アメリカではラインナップされてないっていう(笑)。
ほった:webCG読者がソッポを向く要素が、全部そろってる感じですね。紹介する順番、間違えたかも。
渕野:そうなんでしょうけど(笑)、でもアベンジャーは、クルマとしてはとてもよくできていますよ。
清水:そうなんですよね! デザインだけ見たら「レネゲード」や「コンパス」よりずっとカッコいい。
渕野:スタンスもよくまとまってますよね。プロポーションがいいんですよ、フェンダーも張り出していて。
清水:レネゲードやコンパスをヨーロピアンに仕上げた感じですよね。リアクオーターの張り出しなんかも、とってもセクシー。
渕野:タイヤの強調具合を見ると、ジープというよりランドローバー系のようなデザインにも見えます。
清水:世界の自動車デザイン界をリードするランドローバーに近いと。これはスゴい! でも確かに、前後の低さとタイヤの張り出し具合、バンパーコーナーの収まり方とかを見ると、ランドローバー的なものを感じますね。
日本のファンが求めるイメージとは違う?
渕野:ただ、ジープブランドとしては、ワクワク感が乏しいかなとも思います。私は、ジープだとレネゲードが結構好きで、よくできてるなぁって思うんですよ。あれに比べると、アベンジャーはオリジナリティーが少ない。あまり存在感がないんです。もう少し過剰な“遊び”の要素があると、また変わってきたのかなと。
ほった:スタイリッシュすぎて、ジープとしてのインパクトが足りないと。
清水:ヨーロッパではそれなりにアピールできるのかなって気はしますけど、日本ではねぇ……。
渕野:それはやっぱり、日本のファンがジープに何を求めているかじゃないですかね。私が思うジープのブランドイメージは、もっと武骨でおおらかなものなんですが、これは完全にヨーロッパ的なデザインです。
清水:まぁアメリカでは売らないクルマですからね。カーマニアに言わせたら、その時点で本物じゃないわけですけど(笑)。
ほった:個人的には、ジープなのにボディーが薄く見えるのが違和感なんですが。
渕野:薄いんですよ。レネゲードに比べても背が低い。私はカリフォルニアでレネゲードが走っているのを見たことがあるんですが、割とカッコいいなと思ったんです。小さいけど存在感があって。やっぱりこういうクルマは、ある程度、背があることが重要なんだと思います。アベンジャーは方向性が違う。
“欧風デザインのジープ”という違和感
渕野:とはいえ、今のジープはブランドがすごく幅広いんですよね。アベンジャーは欧州向けのクルマですが、アメリカ本国でも、ジープはもっともっとラインナップが幅広い。
ほった:「キャデラック・エスカレード」みたいなジープもありますからね(笑)。
渕野:そうそう。「グランドワゴニア」みたいな、めちゃくちゃ大きいものもありますし、同じワゴニアでもスポーティーな「ワゴニアS」なんかもある。こっちのカクカクしたのは、新型の「チェロキー」です。
清水:ワゴニアにこんな種類があったんだ……。
ほった:日本人が思う「ジープっていったらこれだろ!」ってイメージは、実はブランドのごく一部でしかないんですよね。
渕野:だから、ジープはデザインの面でみても、すごく幅が広いんです。でも同時に、それぞれに存在感があるんですよ。アベンジャーはそこが弱いというか、いまひとつ見えない。
清水:これなら「レンジローバー・イヴォーク」を買ったほうが1000倍いいでしょう!
ほった:いや、お値段が違いますって(汗)。……というか、個人的にはランドローバーと比べてどうこうというより、デザインがあまりに欧州的なのが違和感なんですけど。
清水:だね。このヨーロピアンな雰囲気は、ジープに求められている期待感とぜんぜん違う。
ほった:よそのブランドだったら拍手ですが、これを「ジープです」って言われると……。どんなにカッコよかろうと、アメ車を愛するワタシのタマシイが、ノーと言ってます!
清水:オー、ノー!(笑)
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日本人は「ラングラー」さえあればいい?
ほった:……というのは偏屈なアメ車乗りの私見なのですが、それは脇に置くとしても、日本ではこのデザインのジープは厳しいでしょうね。
清水:ジープは、「ラングラー」さえあればいいって感じだからね。日本では。
ほった:ラングラーと、あとレネゲード。
渕野:そうなんですね……。しかしラングラーは売れるのに、なぜ「グランドチェロキー」はダメだったんだろう? 個人的には、グラチェロが日本で終売したのが、すごく残念です。
ほった:グラチェロが好きなんですか。スバラシイ!
渕野:好きですね。「コマンダー」も存在感があっていいと思います。
清水:私には見分けすらつかない……。
ほった:ラングラー以外全部同じに見えるんでしょ?
清水:そのとおり!
ほった:まぁ、孤高のラングラーと違って、グラチェロは日本車、欧州車問わずライバルがわんさかいますから、単純に競争に負けたのかなと(泣)。これについては、正直、ステランティスの采配ミスだと思います。先代まではお得な価格で売れていたのに、現行型で値上げしたもんだから、わざわざグラチェロを選ぶ理由がなくなっちゃった。同じような値段なら、ディーラーも多いし箔(はく)の付くビーエムやベンツでいいじゃないかと、そうなってしまったんだと思います。
渕野:それは一理ありますね。しかし、それにしてもやっぱり日本のファンは尖(とが)ってますね。ラングラー系はピックアップトラックの「グラディエーター」まで売られてる。
清水:いやー、グラディエーターはものすごく魅力的ですから! 最強だもん。
ほった:ラングラー系はもう、いるだけで景色が変わる舞台装置なんですよ。隣にランボルギーニがいたってかすむ。
清水:まさかぁ。
ほった:あんなの背が低すぎて隠れちゃいますよ(笑)。気づかないと踏んづけちゃうんで、牛さんはラングラーに道を開けて走ってくださいね。
清水:なんて言い草! でも、グラディエーターならスーパーカーとして認めるよ!
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これが「ジープ」を名乗る理由はどこ?
渕野:とにかく、日本ではジープはラングラーしかいらない、みたいなのが実情なわけですね。
ほった:そのうえでこのアベンジャーは、ジープ感が非常に薄いですからね。
清水:なにせ、「アルファ・ロメオ・ジュニア」や「フィアット600」と同じシャシーなんだから。なんか寂しい……。
ほった:いかにも今どきって感じですよね。ただ、製品のバリエーションを増やすためには、それもある程度やらざるを得ない。
清水:でもさ、個人的にはこの3台のうち、ジュニアさえあればいいと思っちゃうよ。あとは別になくても。
ほった:共用プラットフォームの弊害ですね。まぁ、自分は3つともあっていいとは思いますけど。アベンジャーも、本当にほかのブランドだったらよかったと思うし。
渕野:その感覚はわかります。やはりブランドごとに期待感というものがあって、アベンジャーがそれに応えられているかというと……少し方向が違いますね。
ほった:安直だけど、ミニ・ラングラーみたいなものでよかった気がするんですけどね。デザインはいいのかもしれないけど、走りも外見もジープじゃないものを、取り繕うそぶりもなく「ジープです」って言われてもねぇ。アルファでは、あんなにあがいてみせたのに(参照)。
清水:アメ車乗りとして許せない?
ほった:許せませんよ!(笑)
清水:俺たち日本人の心の狭さをナメるな!(笑)
ほった:これを売れっていわれるディーラーさんも大変だぞ!(笑)
清水:サジ投げるよね(笑)。それよりもっとグラディエーターを日本に回せ! みたいな。
ほった:ステランティスのお偉方は、全員正座で説教ですよ。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ステランティス、JLR/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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