アウディA1 e-tronプロトタイプ【海外試乗記】
セカンドカーにいかが? 2010.12.28 試乗記 アウディA1 e-tronプロトタイプ2010年ジュネーブショーに出展された、「A1」ベースの電気自動車「e-tron」。同車のプロトタイプをドイツ本国で試乗した。
フロントにモーター、リアにエンジン
「日産リーフ」が発売されて、“自動車の電動化”の流れがいよいよ不可避である事を印象付けられる昨今。そんなリーフや「三菱i-MiEV」、トヨタやホンダのハイブリッド各モデルなどの功績で、これまでは「そうした動きは日本が世界市場をリードしている」というイメージが強かったものの、視線を海外にまで広げれば今や電動化に対する取り組みの積極度という点では、多くの欧米メーカーも決してヒケをとっていない事が明らかだ。
そうしたなか、とても興味深いモデルをテストドライブすることができた。アウディがコンセプトモデルとして2010年のジュネーブショーに出展した、「A1 e-tron(イートロン)」がそれ。「市販段階に極めて近い」とアウディ自らが紹介するこのモデルは、その名が示すようにブランニューモデルのコンパクトカーである「A1」をベースに、電動化を図ったものだ。
アウディが本社を構えるインゴルシュタットで開催した電動化技術に関するイベント「TechDay Electromobility」の中でテストドライブを行うことができたこのモデルは、三洋製リチウムイオンバッテリーに蓄えられた電力によって、フロントに置かれた最高出力75kW(102ps)を発するモーターを駆動する電気自動車、というのが基本の形態。ただし、そんなこのモデルのラゲッジスペースフロア下には、発電機と一体化された排気量254ccの1ローターロータリーエンジンがコンパクトに収められ、EV走行モード終了後にはリアシート下にレイアウトされた12リッタータンク内のガソリンを用いて、最大で航続距離を200kmまで延長するためのエネルギー発生役を務めることになる。
すなわちそれは、構造的に見れば「駆動力は必ずモーターで発生させる、プラグイン式のシリーズハイブリッドモデル」と解釈できるもの。ただしその上で、メーカー自らはあくまでもそれを「完全な電気自動車!」とアピールするのは、「シボレー・ボルト」の場合と全く同様だ。
シーンにあわせて動力源を使い分ける
まず興味を引かれたのはそんなこのモデルが、搭載するバッテリーの容量をわずかに50km走行分にとどめたこと。高価で重量もかさむバッテリーは、その搭載量を可能な限り少なくしたいというのがアウディの考え方。実際、12kWhという容量はリーフのちょうど半分。軽自動車のi-MiEVに比べても75%の容量に過ぎないのだ。もう一点、このモデルの機能で感心したのは、そうした限られたEV走行レンジを適材適所に振り分けるという考え方。具体的には、ナビゲーションシステムに目的地を設定した時点で、経路中の道路勾配や環境保護区域、市街地などを算出。その中で優先してEV走行を行うべきところとそうでないところを計算し、そのシーンにふさわしい動力源を用いるべく制御しながら走行するという。
そんなA1 e-tronで走り始めると、動力性能は「コンパクトな実用車に必要十分なもの」という印象だ。EVらしく音もなく、スルスルと走り始めるこのモデルの動力性能は、0-100km/h加速が10.2秒で最高速は130km/hというもの。後者は、「これではアウトバーンの追い越し車線に出るのはちょっと厳しいかな?」というレベルにとどまるものの、そもそも「シティカーとしてのセカンドカー需要を狙う」というのがアウディの言い分。このあたりの“潔さ”も、このモデルの開発コンセプトの見所と言っていい部分なのだ。 なお、回生ブレーキ力は、ステアリングパドルの操作によって5段階の中から任意に選択が可能。どうやら、最近の欧州メーカー製EVはこうしたロジックを用いるのが流行でもあるようだ。
すでに高い完成度
心底驚かされたのは、レンジエクステンデッドモードに移行してエンジンが作動した時だった。
そもそも、静かでスムーズという特徴を備えるロータリーユニットを5000rpmの定常で運転するという制御に加え、“リアエンジン”というレイアウトも相乗効果を生み出しているのか、ステアリングを握っていると「その作動と停止にはほとんど気がつかない」という印象を持った。加えて、アクセル操作に対するレスポンスはEV走行モードの場合となんら変わらないので、そこでも「本当に今、エンジンが回っているのか……」という感慨がひとしおなのだ。
しかも、このモデルの走りで感心できるのはそうした動力性能面にとどまらず、優れたステアリングフィールやハンドリングと、乗り心地のバランスにたけたフットワークなど、コンセプトカーでありながらも、すでに1台の自動車として完成度がとても高いこと。端的に言って、それは「もう、このまま発売してしまえばいいのに!」と思えたものでもあったのだ。
EVにだって得手と不得手な部分がある――それを十分に理解した上で、具体的な使われ方をイメージしながらさまざまなスペックを決定したという開発のプロセスが連想できるのがA1 e-tron。それは、EV界での覇権を握るべく妙に背伸びをして“万能実用車”ぶりを装うリーフなどよりも、自分にとってははるかに好感を抱ける1台でもあったのだ。
(文=河村康彦/写真=アウディジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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