アウディA1 1.4TFSI/フォルクスワーゲン・ポロTSI【試乗記(後編)】
似ていない兄弟(後編) 2011.06.06 試乗記 アウディA1 1.4TFSI(FF/7AT)/フォルクスワーゲン・ポロTSIハイライン(FF/7AT)……386万円/298万7000円
主張する「A1」と実直な「ポロ」、2台を乗り比べたリポーターが導き出した結論とは?
クルマは見た目が9割?
(前編からのつづき)
「A1」は小さなクルマである。「ポロ」よりも幅があるとはいえ、デザインの技を仕掛けるスペースに恵まれてはいない。しかし、ポロの運転席から眺めるA1の後ろ姿は、実に陰影に富んでいて見飽きないのだ。さまざまな意匠を凝らした大きなクルマが並んでは過ぎていくが、A1の微妙な面の構成が醸しだす情動の深さに対抗できるものはほとんどない。
アクアラインから館山道へと進み、君津PAで乗り換えることにした。駐車したA1の周りを巡りながら目をやると、あらためて造形の精妙な技巧を理解することになった。後ろ姿の陰影の深さは、真横からリアの形状を見てなるほどと納得する。突き出したバンパーから上に少しずつ引っ込み、再度ふくよかな曲面を描いてからハッチガラスの潔い面に続いている。正面から見ると、こちらは迫力を強調した顔だ。目ヂカラの強さが、小顔ながらも強度を保った表情を作り上げている。
前後を結ぶのは、シンプルでてらいのないキャラクターラインだ。前後のランプ上端を結ぶ線が、ひと筆で統一感をもたらしている。試乗車はスポーツパッケージ装着車ではなかったため、「コントラストルーフ」は設定されていない。それにより、素のフォルムが際立つこととなった。
ポロと並べてみると、性格の違いは一目瞭然である。人は見た目が9割という話があるが、クルマにも当てはまるかもしれない。ポロはあくまでも実直で端正さを崩さない。丸目時代に比べれば、ずいぶん気取っておしゃれも意識するようになった。それでも、極端な冒険を試みることはない。田舎のお母さんにも安心して紹介できる誠実さが伝わってくる。
大地をつかもうとする「A1」
運転席に乗り込むと、印象の違いはさらに深まる。「A1」の内装には過剰感が充満していて、気おされるほどだ。エアコン吹き出し口の「カラードスリーブ」が妖しい光を放ち、存在感を主張する。シートやドアトリムとのコーディネートによって、きらびやかな空間が現出する。購入時に色の組み合わせを考えるのは、さぞや楽しい時間となるだろう。対して、整然と編成された「ポロ」の内装は、A1のコクピットに納まった後では細部を思い出すことができない。必要なものはすべてそろっていたと思うが、たとえばエアコン吹き出し口が何かを訴えたりはしないのだ。
エンジンフードを開けて並べると、相当見た目が違う。A1がエンジンをカバーで覆っているのに対し、ポロはもろ見えである。フード裏に防音材を張っているのはポロだけ。A1はダンパーを採用していて、ポロはステーである。リアハッチのダンパーは同じかと思ったら、サイズが違うので別の部品だった。ワイパーも長さが違う。さすがに同じメーカーの製品ではあるが。まったく同じ部品は、なかなか使われてはいないようだ。ウィンドウウォッシャーのタンクは同じものかもしれない。
もちろん違いは見た目だけではない。運転してみた感覚の違いは、見た目よりはるかに大きかった。アクセルを踏み込んでA1が動きだした瞬間に、クルマとして別モノであることがはっきりと知覚されたのだ。何より、どっしりと重い。ポロの軽やかさに比べ、圧倒的に重量感がある。実際の車両重量は、たかだか100kgほどの差に過ぎない。感覚的な差は、その何倍もある。A1は、大地をつかもうとしているかのようなのだ。腰を落とし、垂直に下に向かおうとする。
122psという出力は、水際立ったものとまでは言えない。もちろん、ポロと比較すれば、加速の鋭さは明らかに上である。しかし、実力をすべて見せている感じがしないのだ。実はとてつもないポテンシャルを秘めているのに、容易にはそれを表には出さない不気味さがある。
天上を目指す「ポロ」
本気を見せるのは、SトロニックのセレクターをDからSに変更した時である。Dモードでは6速を選んでいた状態でSモードに変えると、即座に3速までギアを落として加速態勢に入る。そのままかなりの速度に達するまで、なかなかシフトアップしようとしない。同じことをポロで試みると、わずかに5速にシフトダウンするだけで、穏健な姿勢を保っている。
大地に向かう「A1」と反対に、「ポロ」は天上を目指す感覚がある。路面はしっかりと捉えるものの、重力を意識させないように演ずるのだ。軽みを身上とし、開放的で表裏がない。機械の本性をあからさまにせず、フレンドリーなパートナーとして人間に対する。
かつて、アウディには「A2」というモデルがあった。「A8」と同様にアルミボディを採用した意欲的な設計を採用していたが、正式には日本に導入されなかった。このクルマは、どちらかというと天上を志向する気分があったように記憶している。しかし、現在のアウディのラインナップを見れば、A1の特質がその流れにふさわしいものであることがわかる。アウディの持つ安定感を重視した重厚な感覚は、いちばん小さなモデルにも見事に貫かれている。
4ドアと2ドアという違いもあり、後席の実用性などははっきりとポロに軍配が上がる。高速道路170km、房総半島の海沿いの道を中心とした一般道80kmほどを走って、燃費はA1が14.9km/リッター、ポロが14.7km/リッターだった。誤差の範囲内だが、カタログ燃費では劣るA1が若干ポロを上回った。
クルマを選ぶ際には、そういった事項が大きな判断材料になるのは当然だ。でも、それだけではない。ポロの親しみやすさとA1の近寄りがたさの間には、大きな懸隔(けんかく)がある。乗り比べてみて、自分の柄にはポロの気取りのなさのほうが合っていると思った。A1の重厚なプレミアム感の前には、萎縮気味になってしまう。でも、これはまったく好みの問題なのだ。蕎麦とうどんとどちらが美味いかを問うのが無意味なように、優劣の問題ではない。
A1とポロの違いをうまく伝えられたか、いささか心もとない。抽象的で曖昧な物言いなのは承知のうえである。ただ、数値やテクノロジーの説明では伝えることができず、このような表現でしか言いようのない真実もあるのだ。自動車とは、かくも玄妙で面妖な存在なのである。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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