トヨタが将来へ向けたグループのビジョンを発表 豊田章男会長が不正問題への対応を説明

2024.01.30 自動車ニュース 鈴木 真人
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記者会見に臨むトヨタ自動車の豊田章男会長。
記者会見に臨むトヨタ自動車の豊田章男会長。拡大

トヨタ自動車は2024年1月30日、愛知県のトヨタ産業技術記念館で豊田章男会長の記者会見を実施。将来へ向けたトヨタグループのビジョンを表明した。

トヨタ産業技術記念館の会場の様子。
トヨタ産業技術記念館の会場の様子。拡大
将来へ向けたグループのビジョンについて語る豊田会長。
将来へ向けたグループのビジョンについて語る豊田会長。拡大

グループ3社の不正を受けて記者会見を前倒し

今回の記者会見は、その会場ともなったトヨタ産業技術記念館にトヨタグループ17社のリーダーが集まり、新たなビジョンについて話し合ったことを受けて行われた。

進むべき方向として掲げられたスローガンは「次の道を発明しよう」で、英語表記では「inventing our path forward, together」。さらに「誰かを思い、力を尽くそう」「仲間を信じ、支えあおう」「技を磨き、より良くしよう」「誠実を貫き、正しくつくろう」「対話を重ね、みんなでうごこう」という標語も添えられている。

豊田会長は1895年の豊田商店設立からのトヨタグループの系譜図を示し、豊田佐吉が母親に楽をしてもらいたいとの思いで豊田式木製人力織機をつくったことからトヨタは始まったと語った。それが豊田紡績、豊田自動織機製作所の設立につながり、1930年代からは豊田喜一郎によって自動車の製造が開始される。そういった縦の歴史が進んでいくと、鉄やゴムなどの資材や部品を製造する会社との横の関係が広がっていく。自動車産業が縦糸と横糸で織り上げられているとの説明は、繊維産業にルーツを持つトヨタらしい表現である。

続いて豊田会長が述べたのは、グループが直面している危機について。原点を忘れて規模や収益を優先したことの反省である。リーマンショックで創業以来初の赤字に転落したこと、そして世界規模のリコール問題が発生して信頼を失ったことを指摘した。「このとき、トヨタは一度つぶれた会社だ」という強い言葉を使い、トヨタの責任者として現在、過去、未来のすべての責任を負う覚悟を決めたのだと心情を吐露する。

豊田氏は2023年に14年間務めたトヨタ自動車社長の座を退き、会長に就任した。トヨタ自動車に関しては後継の佐藤恒治社長にバトンが引き継がれたが、トヨタグループ全体の責任者は自分であると認識しているという。しばらくは表舞台から去っていたのに、あらためてトヨタの顔としてビジョンを語ったことには理由があった。グループの日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機が不正に手を染めていたことが、相次いで発覚したことである。

当初、この記者会見は豊田佐吉が生誕した2月14日に行われるはずだったが、グループのこの状況を受けて前倒しすることになったという。豊田会長は「お客さまをはじめ、ステークホルダーの皆さまにご迷惑、ご心配をおかけしておりますことを深くおわび申し上げます」と頭を下げたが、質疑応答では厳しい質問が飛んだ。

トップとして不正を見抜けなかった責任をどう考えるのかとの質問には、「ゆとりがなくてトヨタ以外を見る余裕がなかった」と答えた。「リーマンショックに始まり、リコール問題、東日本大震災、タイの洪水などが連続して精いっぱいだった」というのは正直な感想なのだろう。

トヨタグループの3社もが不正を行った原因については複合的なものだとの考えを示し、本来生産販売してはいけないクルマをユーザーに届けたという極めて重い行為だと発言。「信頼を裏切り認証制度の根幹を揺るがすことと受け止めている」としてあらためて謝罪した。

信頼を取り戻すには時間がかかるとしながら、その道筋についての指針を示した。ガバナンスに問題があったのではという質問に対しては、「ガバナンスは支配管理と考えられているが、本来の意味は船の舵を取ること」と説明。社長時代に「もっといいクルマをつくろうよという単純なビジョンに基づき、現場が自ら考え、動くことのできる企業風土をつくった」と語り、「主権を現場に戻すことで誰もが自ら考え動くことができる企業風土の構築」を進めることができたという。

改革のゴールについて問われると、ゴールはないと答えた。「カイゼン後はカイゼン前」というのはトヨタの企業理念なのだ。それでも具体策をと促されると、グループ17社すべての株主総会に出席することを表明した。各社の総会の日程をずらすように要請し、イチ株主の立場で臨むという。

会長になってビジョンを示す立場ではあるが、今もマスタードライバーであることは変わらないと自負している。そして、グループ各社がそれぞれマスタードライバーを持つ必要があり、最後のフィルターとして機能しなくてはならないと強調した。自分のことを「社長を辞めて普通の自動車好きのおじさんになった」と言いながらも、会見では今も変わらぬトヨタの顔としての重い存在感が浮かび上がる結果となった。

(文=鈴木真人/写真=トヨタ自動車/編集=堀田剛資)

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