ボルボEX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ(RWD)
ミライへ全振り! 2024.10.07 試乗記 当初の電動化計画を調整すると発表したボルボだが、全EV化に向けての信念はゆるがない。今回は、その象徴ともいえる新世代モデル「EX30」に試乗。首都・東京から古都・京都を目指すロングドライブでの印象を報告する。新世代電動車で古都に向かう
これは……ミライだ。写真では見ていたものの、実物を目の当たりにするとボルボEX30の発するインパクトは強烈だった。フォルムは確かにクルマなのだが、時代を間違えたかのような異物感がある。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でタイムマシンとして使われた「デロリアン」がガルウイングなどの付加物で未来感を表現していたのに対し、EX30は無駄を削(そ)ぎ落とすことで時間を超えた価値を見せているようだ。今の感覚では、SF的なイメージはデロリアンより強い。
フューチャリスティックなクルマで向かうのは京都。千年の都に新世代電動車で乗り込むという趣向だ。EX30は、2024年に日本に導入されたボルボの最新BEVである。全長×全幅×全高=4235×1835×1550mmというコンパクトなサイズでありながら、272PSの最高出力で航続距離は560km(WLTCモード)という高性能を誇る。多くの立体駐車場に入る全高ということもあり、日本の道路環境に合わせて開発されたかのような仕上がりだ。
運転席に乗り込むと、SF度はさらにエスカレートする。削ぎ落とし方はさらに徹底されていて、ダッシュボードのスッキリ具合はただごとではない。目に入るのは、センターに配された縦長ディスプレイぐらい。ステアリングホイールはかろうじて残されているが、スイッチ類は見当たらないのだ。スタートボタンすらなくて戸惑ってしまう。試乗前にコックピットドリルの時間が長めにとられていたのは、そういうことだったのか。
ほとんどの操作はディスプレイ画面をタッチすることで行う。ドアミラーを調整するには、ホーム画面から「基本操作」という項目を呼び出さなければならない。面倒なようだが、オーナーは一度設定すれば変えなくてもいいのだから問題はないはずだ。この項目では、ほかにライト関連やレーンキーピングエイド、ワイパーの感度なども設定できる。グローブボックスを開けるボタンまであって驚いた。物理スイッチ復権のトレンドのなかで、潔いほどの徹底ぶりだ。ハザードランプはホーム画面に加えて天井に備わるボタンでも作動させることができ、安全に関わることに関しては2種用意することで万全を期している。
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微妙なタイミング
スタートボタンを押さなくても、EX30は無事に発進した。リモコンキーのキータグを持って入るだけでシステムが起動し、ステアリングコラムの右側にあるシフトセレクターでDレンジを選べばOKなのだ。キータグにもボタンはなく、持ったままでクルマを離れれば自動的にロックされる。目的地を設定すると、ディスプレイに距離は458kmと表示された。電池のアイコンの脇には「-18%」と記されている。つまり、無充電では到達できないということだ。
東京・青山のVolvo Studio Tokyoを出ると、すぐに首都高速に入る。東名高速から伊勢湾岸自動車道を経て東名阪自動車道を通るルートだ。長旅だが、車内空間はリラックスできるから快適に過ごせるはずだ。アクセルを踏み込んでもリアに搭載されたモーターからは大きな音が響いてくることはなく、静粛性は高い。これまでに「XC90」などでボルボのプラグインハイブリッド車で電動走行は体験してきたが、これはモーターだけで駆動するモデルだ。バッテリー残量が減ってエンジンがかかることはないので、スムーズな走りがずっと続く。
日本で販売されているボルボのピュアエレクトリックモデルはEX30のほかに「EX40」「C40」があり、7人乗りSUV「EX90」の導入も期待される。ラインナップのなかでエントリーモデルの役割を持つEX30に試乗することには重要な意義があるが、タイミングが微妙だった。ボルボは9月に電動化戦略見直しを発表し、2030年までに全ラインナップをBEVにするという計画をプラグインハイブリッド車も含めるロードマップに修正した。世界的なBEV販売減速を受けてメルセデス・ベンツやトヨタなども同様な変更を発表していて、ボルボも事情は同じである。
もちろん長期的には完全な電動化が目標となっていることに変更はなく、EX30には普及の尖兵(せんぺい)としての役割が与えられている。559万円という価格は補助金を考慮すればボルボ最安で、サブスクリプションも用意されているから次にBEVを考えているオーナーには有力な選択肢となるだろう。
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不遇な後席で至福の時間
高速道路でACCを使う際には、Dレンジ走行中にシフトセレクターをもう一段下に押すことで作動させる。スピードはステアリングホイールのスイッチで増減できるが、前車との間隔はディスプレイであらかじめ設定しておく必要がある。全車速対応なので、渋滞では楽をさせてもらった。ちょっと気になったのは、隣の車線のクルマに反応して予期せぬタイミングで減速することが何度かあったことだ。ディスプレイには走行車線と隣の車線を走るクルマがアイコン表示されていたから正確に認識しているはずなのだが、安全に寄せた調整がなされているのかもしれない。
バッテリー残量が寂しくなってきたので、伊勢湾岸自動車道の刈谷パーキングエリアで充電することにした。90kWの高速充電スタンドが4基設置されている。平日ということもあってか、すべて空いていた。残量は17%だったが、30分で68%まで回復した。京都まではあと142kmで、バッテリーは27%残る計算だ。取材陣も燃料切れを起こしていたので、スマートETCから外に出てランチでチャージ。名古屋にあった名店の味を受け継ぎ刈谷で新店舗をオープンした気鋭の板前が調理する海鮮丼を味わった。
運転を代わってもらい、後席のシートに座る。正直なところ、このクルマは前席が優遇されているように感じてしまった。座面長が短いので落ち着かず、足の置き場に苦労する。前席シートの下に足を入れるには、ドライバーに頼んで位置を上げてもらわなければならない。カップホルダーがないのは不便だし、せっかくのharman/kardonなのにオーディオ設定を全座席対応にしても聞こえが悪い。乗り心地も前席よりよくないと感じた。
いろいろ文句を並べてしまったが、後席には素晴らしい特典がある。標準装備のパノラマガラスルーフを通して見る景観が最高なのだ。まるでオープンカーに乗っているようで、美しいうろこ雲を見ながらのドライブは至福の時間である。陽光が降り注いでいて暑くなりそうなものだが、快適そのもの。このガラスは紫外線99%カット、赤外線は80%カットの機能を持っていて、暑さ対策は万全なのだ。
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京都の道でありがたい機能
思いのほか早く京都に着いたので、洛中をまわってみる。しばらくすると、EX30のミニマリズムが古都の街並みと調和していることに気づいた。簡素ななかに宇宙を現前させるのが、日本の美意識であろう。グリルレスのツルッとしたフロントでは極限まで簡素化したトールハンマーのヘッドランプが威厳を放ち、リアコンビネーションランプは計算された幾何学的ラインが品位と気品を漂わせる。内装にはリサイクル素材を多用し、形態に込められた理念を明らかにする。
気分は上々だが、市街を走るのは少々骨が折れた。牛車が最高のモビリティーだった頃につくられたままではないはずだが、京都の道は車線が狭い。2車線あっても右を選ぶと右折レーンに引っかかるし、左にはバスやタクシーが停車している。さらに拍車をかけていたのが、道にあふれる人の波だ。平安時代の京都を舞台にした大河ドラマ『光る君へ』の影響もあるのだろうか。日本人観光客とインバウンド客でごった返している観光スポットはクルマには試練となる。
こういう状況でありがたいのが、モーター駆動特有の機能だ。ワンペダルドライブである。アクセル操作だけでスピードをコントロールできるので、周囲をしっかり確認しながら走る余裕が生まれるのだ。アクセルオフ時の減速パワーはさほど強くはないが、完全停止できるので慣れるとゲーム感覚の運転が楽しめる。京都に限らず、古くからの街ではEX30は使い勝手がよさそうだ。
見た目も機構もミライに全振りしているのがEX30なのだと思う。ユーザーもインフラもまだ完全に受け入れ体制が整っているとはいえない。途上なのだから、マイナス面があるのは当然のことだ。クルマの進化に合わせ、こちら側もアップデートが不可欠になる。
『光る君へ』で、主人公の紫式部は貴族政治の改革を願うキャラクターだ。彼女は日記のなかでこんな歌を詠んでいる。
「若竹の おひゆくすゑを 祈るかな この世をうしと いとふものから」
この世を憂いながら成長を祈っている、という意味らしい。実際は娘についての歌なのだが、EX30に乗った後では電動車の普及するミライを歎(たん)じているかのように聞こえてしまった。
(文=鈴木真人/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ボルボEX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4235×1835×1550mm
ホイールベース:2650mm
車重:1790kg
駆動方式:RWD
モーター:永久磁石同期電動機
最高出力:272PS(200kW)/6500-8000rpm
最大トルク:343N・m(35.0kgf・m)/5345rpm
タイヤ:(前)245/45R19 99V/(後)245/45R19 99V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ パフォーマンスSUV)
一充電走行距離:560km(WLTCモード)
交流電力量消費率:143Wh/km(WLTCモード)
価格:559万円/テスト車=567万9650円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<フロント&リアセット>(8万9650円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:5259km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:468.8km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:16.7kWh/100km<約6.0km/kWh>(車載電費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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