メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)
TPOに合わせて 2026.03.04 試乗記 メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。マイバッハ初のピュアスポーツ
公式プレスリリースによると、このクルマは、マイバッハ史上もっともスポーツ性の高いモデルなのだそうだ。戦前のオリジナルマイバッハにも2座ロードスターや最高速を追求したエアロクーペが存在したが、スポーツカーとしてイチから設計されたマイバッハは、このSLが初ということか。
戦前に超高級車をつくっていたマイバッハは、メルセデスの上級ブランドとして2002年に復活。専用開発サルーンとその派生機種をリリースしたが、2012年に生産終了してしまったのはご記憶のとおり。2015年に“再復活”したメルセデス・マイバッハは、以前のような専用設計車ではなく、メルセデスラインナップの最上級機種という位置づけとなった。
今回のSLは「S680」「GLS600」「EQS680 SUV」に続く4番目のメルセデス・マイバッハである。前回のマイバッハは約10年で終わったが、こうして10年目以降にも新モデルが追加されるのだから、今のメルセデス・マイバッハはしっかり成功しているといっていい。
SL680という商品車名から、セダンのS680が搭載する6リッターV12ツインターボを想起する好事家も多かろう。しかしこの最高級ロードスターの心臓部は、残念ながら(?)同じマイバッハでもGLS600と同様の4リッターV8ツインターボのほうで、SLとしてはメルセデスAMG名義の「SL63 4MATIC+」と共通エンジンでもある。実際、585PS/800N・mの最高出力/最大トルクも“63”と寸分変わりない。車重や独特の味つけのせいか、4.1秒という0-100km/h加速は逆に控えめなくらいだ。
にもかかわらず、680とはこれいかに? ……なのだが、今のメルセデスの車名数字はおおざっぱ。今回もマイバッハではGLS600よりはエンジンチューンが高めだし、SLとしてはAMGの63より上級なので、EQS SUVとも共通の680に落ち着かせたと思われる。あるいは、今は12気筒のS680もSL同様のV8化への秒読みがはじまっている気がしないでもない……。
4度のクリア塗装と3度の研磨
マイバッハSLの車名には、さらに「モノグラムシリーズ」という文言が続く。モノグラムとは複数の文字を組み合わせた記号のことで、一般には、あのルイ・ヴィトンのように、それを規則的にならべた意匠を指すことも多い。
というわけで、このクルマには、フロントフード、ソフトトップ、ダッシュボードからドアアッパーにかけての内装レザー、そしてフルオープン時に出現するダブルスクープ形状のトノカバーパネルなどに、マイバッハ=“ダブルM”のモノグラムがあしらわれる。ちなみに、フロントバンパーグリルにもダブルMが敷き詰められるが、これは今回のモノグラムとはちょっと異なり、ひとつ前のEQS SUVから採用されたモチーフである。
ただ、もっとも目につくフロントフードのモノグラム柄は追加代金100万円のオプションあつかいで、標準では外板色を問わずに無地のブラックボンネットとなる。
フロントフードのモノグラム柄は、ベース塗装と1層目のクリア塗装をしてから職人が手作業で研磨して、そこにインクジェットプリンター方式の「ピクセルペイント」という技術で、そのまま吹きつけ印刷される。さらに、そこから2度のクリア塗装と手作業研磨を経て、最後にもう1度、クリア仕上げが施される。つまり、フード一枚に4回のクリア塗装と3回の手作業研磨がおこなわれる。しかも、一回の研磨につき数時間を要するそうで、その手間ヒマと、なんとも深みを感じざるをえない実際の仕上がりを見るに、分不相応にも「100万円は意外に安い!?」とか思ってしまう。
モノグラム以外のマイバッハ化のデザイン手法は、ほかのメルセデス・マイバッハと基本的に同じ。ランプ類も含めたフロントエンドとリアバンパー、そしてホイールが、精緻なクロームをふんだんに使った専用の意匠となる。
汚れが気になる人はほかへどうぞ
インテリアも後席が省略(されて固定式トノカバーが追加)される以外、見慣れたSLとほぼ変わりないが、全体が最上級のナッパレザーで覆われる。これ以外のSLがAMGスタイルのフラットボトム形状を採用するステアリングホイールは、このクルマだけが大径のマイバッハ専用品となる。
それにしても、ダッシュボード以外、カーペットまでほぼ純白のインテリアに、にわかオーナーの筆者は気おくれするばかりだ。メディア取材用デモカーである試乗車は、足もとのカーペットの一部がすでに少し黒ずんでいた。それを見ただけで胃が痛くなった小心者の筆者は、高額宝くじが当たっても、やはり、このクルマのオーナーになる資格はなさそうだ。
ハードウエア面でのマイバッハ化のレシピも、ほかのメルセデス・マイバッハのそれを踏襲している。クルマの絶対性能はそのままに、パワートレインやシャシーを基本的にソフトかつ上品にしつけたうえで、それを統合制御するダイナミックセレクトに、マイバッハ味を最大限に強調したマイバッハモードを用意する。また、多様な表示パターンを選べるメルセデスゆずりのメーターパネルで専用のマイバッハモードが選べるようになっているのはEQS580 SUVに続いて2例目だ。
ダイナミックセレクトを通常の「コンフォート」や「スポーツ」に設定しても、AMG SL63より明らかに乗り心地が柔らかいのは、コイルスプリングがより低いレートとなり、ダンピングもそれに合わせて弱められているからだろう。ただ、路面によってコツコツという硬めのアタリが伝わってくるのは、21インチ低偏平スポーツタイヤの影響と思われる。低中速域の乗り心地だけでいえば、サイドウォール厚めのタイヤサイズがいいのだろうが、高い動力性能への対応と、ぜいたくなビジュアルのためには、大径ホイールは欠かせない。
マイバッハモードの見どころ
マイバッハの真骨頂は、やはりダイナミックセレクトをマイバッハモードにセットしたときだ。コンフォートよりフワリと大きく上下させつつ、路面からの衝撃を吸収する。路面によってはタイヤの薄さを感じさせたり、連続するウネリに減衰が追いつかず、クルマ全体が揺すられたりすることもなくはない。しかし、ギャップはあってもウネリが少ない路面、あるいは適度なGがかかり続ける高速カーブなど、ハマったときの“優雅”な所作はタメ息が出るほどの心地よさ。ゆったりした身のこなしと、専用の大径ステアリングとのマッチングもいい。この瞬間がマイバッハだね……である。
また、同モードでは、パワートレインにも、いい意味で、奥歯にモノをはさんだようなタメがある。アクセル反応は常にゆったりとしており、変速ショックも軽減させる制御が入っているようだ。変速タイミングにもタメがつくられており、緩加速ではあふれんばかりのトルクにまかせて、あえてダウンシフトさせず、ショックレスかつ上品に速度を積み上げていく。
アクセルペダルを深く踏み込めば最大800N・mの怪力が解放されるも、4WDなので基本的には走行軌跡が揺らぐことはない。また、ステアリングにもパワートレインのタメにも、けっして不感帯がないのは、ベースがメルセデスが心血を注いだスポーツカーだからだろう。
もっとも、マイバッハモードも万能ではない。柔らかで優雅なぶん、ステアリングが鈍くなるのも事実で、山坂道や荒れた路面では、コンフォートやスポーツのほうが扱いやすく、フラットで快適なケースも多い。とくに乗り込まれたコンフォートモードの万能性は高い。
……とかいいつつ、すべてを1台で済まそうと、細かいアレコレにこだわるのは、マイバッハ本来のたしなみかたではない。これはマイバッハ初のスポーツカーではあるが、本格的なスポーツドライビングを楽しみたいなら、ガレージから別のスポーツカーを連れ出せばいいだけの話だ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=メルセデス・ベンツ日本)
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テスト車のデータ
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1915×1365mm
ホイールベース:2700mm
車重:2000kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:585PS(430kW)/5500-6500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2500-5000rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y XL/(後)305/30ZR21 104Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:7.1km/リッター(WLTCモード)
価格:3650万円/テスト車=3830万円
オプション装備:ボディーカラー<MANUFAKTURオパリスホワイトマグノ>(0円)/21インチマイバッハアルミホイール(80万円)/マイバッハロゴ入りボンネット(100万円)
テスト車の年式:2025年型
テスト車の走行距離:1976km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:297.3km
使用燃料:56.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.3km/リッター(満タン法)/5.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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