ホンダ・クロスカブ110ライト(4MT)
ああ二段階右折 2026.06.08 試乗記 125ccクラスなのに原付一種扱いとなる、世にいう新基準原付。そのニューモデルである「ホンダ・クロスカブ110ライト」に、普段の道で試乗した。厳しい環境規制と、それに対するある種の救済措置が生んだ数奇なマシンの、ちょっと不思議な使用感を報告する。新基準原付の第1陣
「せっかくなので実際に使って、その体験も織り込んでください」との編集部の厚意で、東京はお台場から恵比寿までホンダ・クロスカブ110ライトに乗っていくことになった。恥ずかしながらワタクシ、二段階右折というものをやったことがない。というか、最後に原チャリこと原動機付自転車に乗ったのがいつだったのかも思い出せない。大丈夫でしょうか? 「大丈夫ですよ。いざとなったらエンジン切ってバイクから降りれば”歩行者”ですから」とフォトグラファー氏。アドバイス、ありがとうございます。
2025年12月11日に登場したクロスカブ110ライト(参照)は、いわゆる「新基準原付」である(詳しくは写真キャプション参照)。排気量109ccの空冷単気筒エンジンはじめ、停車時にはロータリー式になる4段ギアボックス、サスペンション、タイヤサイズやABS付きブレーキ、タンク容量など、ハードウエアの構成はオリジナルの原付二種モデルと変わらない。ただしエンジンのアウトプットは、最高出力が8.0PS/7500rpmから4.8PS/6000rpmに絞られ、最大トルクは8.8N・m/5500rpmから6.9N・m/3750rpmに落とされている。つまり、「クロスカブ110」にソフトウエア等の仕様変更によるリストリクターを施したモデルが、クロスカブ110ライトというわけだ。価格は、原二バージョンより1万1000円安い40万1500円。
外観上の違いは、ライトでは原付二種を示す白帯や三角マークがなく、ヘッドランプの上に「Lite」ロゴがあしらわれるくらいだが、地上高784mmと思ったより高いシートにまたがると、メーターパネルの速度表示が60km/hまでしかないことに気がつく。加えて、30km/hを超えると点灯する速度警告灯が設けられている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
走りに不満はないのだが……
いざ走り始めると、4.8PSのパワー……というより6.9N・mのトルクは107kgの車重に必要十分。頼りがいのある力強さや押し出し感には欠けるが、プルプルと軽く回るシングルユニットを駆使して街なかを走りまわるのには、独特の楽しさがある。春の晴天下、心地よい風を受けながら「これで十分じゃね」といささか短絡的な結論を出す。出足は過不足なくスムーズで、走行中の加速に実用上の不満はない。ただシートが小さく柔らかいので、体格のいいライダーは自分の体(と体重)を持て余すように感じて、少々落ち着かないかもしれない。
いきなり想像以上の好感を得たクロスカブ110ライトだが、実際に公道で使用すると、もとより原チャリが持つ不便さが顔を出す。普段から原付をアシにしている人にとっては「何をいまさら」だろうけれど、セカンド原チャリ初心者として、クロスカブ110ライトにまつわる「3つの制約」をまとめておきたい。
ひとつは、言うまでもなく「社会的・法的な制約」だ。法定最高速度は30km/h。3車線以上の道では交差点での二段階右折が義務づけられ、原付不可のトンネルやバイパスなどは走行できない。正直に告白すると、自分、レインボーブリッジが“下道”でも原付では走れないとは知りませんでした。さらに、事前に注意されていなければ、都心部で頻出する原付NGの立体交差点にも進入していたと思う。注意散漫なライダー(←ワタシです)に、原チャリツーリングは厳しい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
制約が多すぎる!
次に「メカニカルな制約」がある。ギア比や減速比が原付二種モデルのままなので、30km/h付近で巡航しようとすると、サードではギアが高すぎていささか頼りなく、かといってセカンドではエンジンが回りすぎる。原付一種に求められる速度域とギア比の相性が、いまひとつ悪いのだ。とはいえメーカーは、このバイクのためだけに新たにギアを切り直すコストはかけられまい。「ホントは30km/hでなんか走らないでしょ」という黒いささやきが……ワタシには聞こえません(笑)。ちなみに、メーター内には各ギアのカバーする速度域が速度表示に沿って指定されているが、黄色いラインは3速60km/hで終わっていて、4速の記載はない。
最後に、「ライダーの精神的制約」を挙げたい。本家よりデチューンされているとはいえ、クロスカブ110ライトはスロットルを軽く開けただけで30km/hに達し、超えてしまう。もし気を抜いて走っていたなら、メーター内の速度警告灯はつきっぱなしになるはずだ。法定速度内での動力性能には余裕があるゆえ、30km/hに至らない定速走行は、精神的にかなりの忍耐と自制を強いられる。
身もフタもないことを言うならば、60km/h超のポテンシャルを持ちながら30km/hで走らなければならないバイクが、クロスカブ110ライトである。遊び心あふれるクロスカブのキャラクターにほれ、かつアナタが被虐趣味の持ち主でないならば、小型限定普通二輪免許(以上)を取得して原二のクロスカブ110を購入したほうが、結局は幸せになると思う。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=本田技研工業)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1935×795×1110mm
ホイールベース:1230mm
シート高:784mm
重量:107kg
エンジン:109cc 空冷4ストローク単気筒OHC 2バルブ
最高出力:4.8PS(3.5kW)/6000rpm
最大トルク:6.9N・m(0.7kgf・m)/2750rpm
トランスミッション:4段MT
燃費:67.5km/リッター(WMTCモード)
価格:40万1500円

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)【試乗記】 2026.10.19 トヨタの「ランドクルーザー“300”」にハイブリッドパワートレイン搭載モデルが登場。環境負荷低減のために牙を抜かれた……どころか、電気の力を味方に、さらに力強さを増しているから面白い。愛知県のオフロードコースで乗った印象をリポートする。
-
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】 2026.10.17 三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
NEW
ニュルブルクリンクでテストする一番の理由とは?
2026.10.20あの多田哲哉のクルマQ&A高性能車の宣伝において、しばしば「ニュル(ドイツのニュルブルクリンク北コース)で鍛えた」「ニュルで〇秒を記録した」という言葉が使われる。では、ニュルで車両を開発する最大のメリットとは? 元トヨタの多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.10.19試乗記トヨタの「ランドクルーザー“300”」にハイブリッドパワートレイン搭載モデルが登場。環境負荷低減のために牙を抜かれた……どころか、電気の力を味方に、さらに力強さを増しているから面白い。愛知県のオフロードコースで乗った印象をリポートする。 -
フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む
2026.10.19デイリーコラム「日本上陸60周年」を祝うファン感謝イベントを開催したフェラーリ。自動車界に燦然と輝くハイブランドは、いま何を目指しどこに行こうとしているのか? 経営トップの談話を交えながら推察してみよう。 -
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。



















































