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パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く

2026.10.09 デイリーコラム 鈴木 真人
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理にかなった決断ではある

「パナソニック、カーナビやめるってよ」と知らされて、そういえばメールが来ていたっけ、と思い当たった。調べてみると、2026年8月18日付の<「COCCHi」サービス終了のお知らせ>を発見。スマホにはいろいろなカーナビアプリを入れてあって、LINEカーナビやTCスマホナビはとっくに使えなくなっている。COCCHiのサ終も仕方ないなと思いながらニュースを探ってみたら、そんな軽い話ではなかった。「市販市場向けカーナビゲーションおよび専用オプション品の生産を、2027年3月までに終了」と書いてあるではないか。

パナソニックはカーエレクトロニクスの有名ブランドであり、かつてはギラギラのスペアナで飾り立てたカーステレオが人気を博した。CDやMD、もっとさかのぼってカセットテープの時代からの老舗である。1993年からカーナビを販売し、2003年に「ストラーダ」が登場。2011年にポータブルナビの「ゴリラ」も加わった。カー用品店では堂々たる存在感を示していたのに、カーナビとドライブレコーダー、リアビューカメラの市販を終了するという。

冷静に考えれば驚くことではない。カーナビという独立したハードウエアが成立しがたい状況になって久しいからだ。現在は自動車メーカーが独自のシステムを用意するのが普通になっている。カーナビはもちろん、オーディオや車両設定、エネルギーマネジメント、運転支援システム、OTAによるソフトウエア更新までを統合し、パッケージとして提供する。単品のカーナビが入り込む余地はない。

パナソニック オートモーティブシステムズのプレスリリースをさかのぼると、最後にリリースされた市販市場向けカーナビは、2024年9月発表の「つながるナビ」シリーズ6機種の様子。恐らくは、これがパナソニックの手がける最後のナビとなりそうだ。
パナソニック オートモーティブシステムズのプレスリリースをさかのぼると、最後にリリースされた市販市場向けカーナビは、2024年9月発表の「つながるナビ」シリーズ6機種の様子。恐らくは、これがパナソニックの手がける最後のナビとなりそうだ。拡大

ゆるやかに続いていたマーケット消滅の流れ

もっとも、それは新車に限った話である。10年前、20年前につくられたクルマもまだまだ現役だ。徐々に数は減っていくだろうが、後付けカーナビの需要はそれなりにあるように思える。しかし、このジャンルにも強敵が現れた。ディスプレイオーディオである。Apple CarPlayやAndroid Autoに対応し、スマホと接続してカーナビや音楽再生、ハンズフリー電話などの機能を利用できるモニターだ。

最近試乗した「BYDラッコ」には純正カーナビが用意されておらず、スマホ連携が前提のシステムだった。初めてディスプレイオーディオを見たのは、2019年の「ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ」の試乗会だったと思う。トヨタ独自のインターフェイス「スマートデバイスリンク(SDL)」を介してスマホと接続するもので、使い勝手はあまりよくなかった。純正カーナビも選べるようになっていたのは、完成度が高くないことをメーカーも自覚していたからだろう。

Apple CarPlayとAndroid Autoが登場したことでユーザビリティーは格段に上がり、ポータブルのディスプレイオーディオが発売された。電源さえあれば、どんな古いクルマでもOKだ。Bluetoothを使って接続すれば、タッチパネルでさまざまな機能を使える。クレードルにスマホを置いて操作するのに比べて、はるかに使いやすい。価格低下が進んでおり、ネット通販なら1万円以下で購入できる。ポータブルカーナビと値段は変わらないのだ。スマホのさまざまなアプリを使えるディスプレイオーディオが選ばれるのは致し方ない。

webCGでは2011年から「カーナビの達人」を不定期連載していた。新製品を紹介し最新の技術を解説する商品ガイドだったが、2017年を最後に記事はつくられていない。この頃から後付けカーナビのマーケットは消滅へと向かっていったのだろう。

2019年の「ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ」の試乗会より、試乗車に装着されていたオプションのディスプレイオーディオ。スマートフォンとの接続を前提としており、カーナビなどの機能は端末側のアプリに依存していた。(写真:向後一宏)
2019年の「ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ」の試乗会より、試乗車に装着されていたオプションのディスプレイオーディオ。スマートフォンとの接続を前提としており、カーナビなどの機能は端末側のアプリに依存していた。(写真:向後一宏)拡大

カーナビが変えた私たちの移動体験

『話を聞かない男、地図が読めない女』という本がベストセラーになったのは2000年である。「男が運転し女が助手席で地図を読む」というステレオタイプが疑問を持たれることなく受け入れられていた時代だった。道案内の行き違いからケンカに発展するという体験をしたカップルが多かったと思われる。カーナビは人間関係の摩擦を減らす効果もあったわけで、クルマ文化を変える画期的な製品だった。

ただ、初期はGPSの精度が低く、道案内は不安定だった。1990年代にバッタ屋で買った安物は、画面を見ると自分のクルマが海の中を走っていて困惑したものだ。21世紀になっても、信頼度はなかなか上がらない。海外試乗会ではカーナビ搭載車は用意されず、ラリーで使うようなコマ図を渡されるのが普通だった。2001年に鹿児島で行われた試乗会で、「カーナビは通れない道を案内するので、紙の地図に従ってください」と指示されたことがある。

性能は低くても、自分が地図上のどこにいるのかがリアルタイムで表示されるのは新鮮だった。カーナビはただの道案内機ではなく、それまでになかった位置情報体験という未来感覚をもたらしたのだ。精度が向上して渋滞情報まで示されるようになり、実用性の面でも格段の進歩を遂げる。移動そのものを支援するサービスへと発展し、カーナビはクルマに不可欠な要素になった。

世界初のカーナビは1981年にホンダが実装した「ホンダエレクトロジャイロケータ」で、1990年にはマツダがGPSで自車位置を測位する「CCS」を採用する。その直後に、パイオニアから世界初の後付け式GPSナビ「AVIC-1」(写真)が登場。市販市場向けカーナビの普及が始まった。
世界初のカーナビは1981年にホンダが実装した「ホンダエレクトロジャイロケータ」で、1990年にはマツダがGPSで自車位置を測位する「CCS」を採用する。その直後に、パイオニアから世界初の後付け式GPSナビ「AVIC-1」(写真)が登場。市販市場向けカーナビの普及が始まった。拡大

時代の終焉からカーエレクトロニクスの未来を思う

カーナビを含め、さまざまな機能がクルマの統合システムのなかに組み込まれると、全体を制御するOSが必要になる。自動車メーカーがそれぞれ独自に開発するのは簡単ではない。そこで重要な役割を果たすことになるのが、GoogleやAmazonなどの巨大プラットフォームだ。ボルボは2019年に、Google Assistant、Google Maps、Google Playを車載システムに組み込む構想を発表し、2021年にはGoogleと「Android Automotive OS」を使ったインフォテインメントを統合する、最初の自動車メーカーだとアピールした。一方で、そうした巨大プラットフォームとは距離を置く流れも根強い。テスラの「テスラOS」やメルセデス・ベンツの「MB.OS」、フォルクスワーゲンの「VW.OS」、「Arene(アリーン)」を使ったトヨタの車載OSなどが好例で、“ビッグテック”に主導権を握られることを警戒し、核心となる技術を内製化しているのだ。

いずれにせよ、ハードウエアがそれ自体で価値を持つ時代は終わりを告げ、ソフトウエアがクルマを定義するという流れだ。後付けカーナビが存在意義を失うのは必然である。パナソニックが市販製品の製造をやめるのはクレバーな判断だと言っていい。市販市場向けのハードウエア事業から撤退するだけで、カーエレクトロニクスの開発は継続している。「トヨタRAV4」のインビークルインフォテインメント(IVI)や、「マツダCX-5」のコックピットドメインコントローラー(CDC)などを手がけていて、OEM向けの車載電子システムを提供する方向へと重心を移したのだ。

市販カーナビの生産が終了すると、パナソニック オートモーティブシステムズはモビテラに社名変更する。「Mobilityに道を表すラテン語 Iterと未来を “照らす” という想いを重ねた言葉」だという。カーナビを選ぶ楽しみがなくなってしまうのは寂しいが、これも時代の流れである。クルマが道を外れて海のなかを走っていた頃を懐かしむのは老人のノスタルジアだ。ドライブがはるかに楽しく便利になったことを素直に喜びたい。

(文=鈴木真人/写真=パイオニア、パナソニック オートモーティブシステムズ、向後一宏/編集=堀田剛資)

「トヨタRAV4」に搭載されるパナソニック オートモーティブシステムズ製のIVI。トヨタのソフトウエアプラットフォーム「アリーン」と連携するソフトウエアを搭載しており、運転支援システムを含む車載機能の通信アップデートにも対応している。
「トヨタRAV4」に搭載されるパナソニック オートモーティブシステムズ製のIVI。トヨタのソフトウエアプラットフォーム「アリーン」と連携するソフトウエアを搭載しており、運転支援システムを含む車載機能の通信アップデートにも対応している。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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