ダイハツ・ロッキーX(FF/CVT)/トヨタ・ライズZ(FF/CVT)
5ナンバー難民の救世主 2019.11.28 試乗記 全長4mを切るコンパクトなボディーサイズが特徴の新型SUV「ダイハツ・ロッキー」「トヨタ・ライズ」。小さな車体で大きな車内空間を実現したニューモデルは、機能的なSUVとしてはもちろん、今や希少な5ナンバーの実用車としても魅力的な一台に仕上がっていた。初代とは性格の異なるクルマ
東京モーターショーでダイハツブースにサプライズ展示されたモデルの販売が早くも始まった。会場では「新型コンパクトSUV(市販予定車)」とだけ紹介されていたが、発表された車名は「ロッキー」。日本では1990年から1997年まで販売されていた名前が復活したことになる。初代はラダーフレームにFRベースの4WD機構を組み合わせたライトクロカンだったのに対し、新型は都市型のクロスオーバーSUV。まったく異なる性格のクルマになった。
ダイハツが「タント」で初採用した新世代のクルマづくりのコンセプト「DNGA」に基づいて開発されている。DNGAは軽自動車からAセグメント、Bセグメントまで幅広くカバーしているのだ。最も条件の厳しい軽の規格をクリアできれば、より大きなクルマでも十分に通用するという考え方である。「大は小を兼ねる」という一般的な理屈とは正反対なのが、いかにもダイハツらしい。
トヨタにOEM供給され、「ライズ」としても販売される。「トール」と「タンク/ルーミー」の関係性と同じだ。月販目標台数はロッキーが2000台、ライズが4100台。販売店の数が多いトヨタのほうが多いのは致し方ない。実際の受注台数はロッキーが3500台、ライズが6500台で、ダイハツの健闘が光る。
試乗会には両方の車種が用意されていた。まず乗ったのは「ロッキーX」。上位から「プレミアム」「G」「X」「L」というグレードがあるが、パワートレインは同一である。98PSの1リッター3気筒ターボエンジンにCVTという組み合わせだ。エンジンはトールに搭載されるものと基本的に同じ。インタークーラーの位置をエンジンの上から前方に変更し、吸入する空気の温度を下げたという。CVTはタントで初採用された「D-CVT」で、ベルトと遊星歯車を使って変速比を拡大し、燃費向上を狙っている。
外は小さく、中は広く
試乗車のボディーカラーは「コンパーノレッド」。ダイハツが1963年から販売していた「コンパーノ」をイメージしている。ロッキーといい、コンパーノといい、過去の遺産をフル活用しているわけだが、覚えている人はあまりいないだろうから販売促進の効能は期待していないようだ。名称はともかく、マツダ、レクサス、三菱が赤いボディーカラーを推している中で、同じ赤でも趣向の違うものを投入したわけである。
立派で堂々としたSUVに見慣れているので、ロッキーのコンパクトさは際立つ。全幅は1695mmで5ナンバー枠に収まり、全長は3995mmで4mを切った。この2つの数字は開発初期から決められていたそうである。外は小さく、中は広くというのがダイハツの信念なのだ。
岩っぽいゴツゴツした感じということからロッキーという名がつけられたというが、武骨な印象はない。初代のクロカン然としたフォルムは受け継いでおらず、洗練志向の都会派なのだ。駆動方式はFFと4WDが選べるが、販売台数の7割ほどがFFになると想定されている。試乗車もFFモデルが用意されていた。4WDモデルには「ダイナミックコントロール4WD」と呼ばれる電子制御4WDシステムが搭載されており、スキーに出掛けるような状況ならば十分な走破性能を持っているという。
ロッキーは大きな六角形のフロントグリルが特徴で、かわいげと力強さが同居しているような顔つき。威圧感よりは端正で生真面目そうな印象が強い。コンパクトなサイズで最大限の室内空間を確保するため、サイドから見るとルーフはほぼフラットに後端へと続く。スポーティーであることより、SUVらしいガッシリ感が強調されている。
余裕がある後席の空間
室内空間を広くすることは至上課題で、前後席の乗員間距離を900mm確保した。運転席と助手席はもちろん、後席に座っても窮屈さは感じない。膝の前にも頭上にも余裕がある。それでいて荷室容量は369リッター。アンダーラゲッジは80リッター(FF)で、デッキボードの高さを2段階に切り替えられる。荷室幅は1000mm、荷室長は755mmだ。ファミリーカーとは考えられていないが、4人乗車で旅行に出掛けるのに不自由しないことを想定しているという。
インテリアはブラックの一択で、シルバー加飾とのコンビネーション。GとXの2グレードではレッドのアクセントが入る。ダッシュボードやドアパネルに用いられる素材は硬質だが、安っぽい感じはない。むしろ、SUVらしい道具感の演出となっているのだろう。フルデジタルのメーターパネルは、4種のテーマからデザインを選ぶことができる。
シフトセレクターはオーソドックスなストレートタイプで、やや上方に位置する。140N・mという最大トルクが2400rpmから発生することもあって、発進から力強く加速する。低速でのコントロールは容易で扱いやすい。パワフルとかスポーティーといった形容はできないが、このクルマのキャラクターにはこのぐらいが似合っている。日常で実用的に使えて、どこへでも出掛けられるクルマというのがコンセプトである。
静粛性や乗り心地は最上とは言いがたいが、不満を言うようなレベルではない。実用車なのだから、こんなものである。路面の悪いところではすぐにショックが収まらずに揺さぶられる感覚があり、ピッチングも感じられる。コンパクトで背が高いのだからある程度は仕方がない。愛嬌(あいきょう)として受け入れる雅量を持つのが大人である。
赤のロッキー、青のライズ
ライズに乗り換えると、ハンドリングがシャープになってゴツゴツした乗り心地に変わった。ダイハツとトヨタで味付けを変えている、というわけではなく、ホイールサイズが違っていただけである。ライズは「Z」という最上級グレードだったので、ロッキーが履いていた16インチより大きい、17インチホイールだったのだ。最小回転半径は16インチが4.9メートルで17インチが5.0メートルと少しだけ異なる。どちらにしても小回りがきくことに変わりはない。
ライズは「ターコイズブルーマイカメタリック」で、これはロッキーでは選ぶことのできないボディーカラー。逆にコンパーノレッドはライズには用意されない。ライズのフロントマスクはトヨタのアイデンティティーとなっているキーンルックを採用している。スケール感は違うが、「トヨタRAV4」にも通じるデザインだ。ほかの部分はロッキーとライズでほとんど共通なので、好みの色と顔つきでどちらかを選べばいい。
ダッシュボードの中央には9インチの横長ディスプレイがあり、スマートフォンと連携して使うことができる。「トヨタ・カローラ」で採用されたディスプレイオーディオで、携帯端末のアプリを車載のインターフェイスで使える「スマートデバイスリンク(SDL)」に対応しているのだ。ロッキー、ライズとも同じだが、ちょっとした違いがあった。ロッキーは「Yahoo!カーナビ」が使えるが、ライズでは使えないのだ。規格は共通でも、採用するアプリはメーカーが独自に設定することになっている。
試乗していて、懐かしい感覚を覚えた。5ナンバーサイズのクルマに乗るのは久しぶりだったからである。取りまわしのよさは感動的で、あらためてこのサイズが日本の交通事情に合っていることを実感した。小型車と呼ばれるモデルはどんどん大きくなり、制約の厳しい軽自動車との差が拡大している。カローラもグローバル化してしまい、5ナンバーサイズのセダンという選択肢は風前のともしびとなった。クルマの主流がセダンからSUVへと移行しつつある中で、ロッキー/ライズは5ナンバー難民の救世主となるかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ダイハツ・ロッキーX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1620mm
ホイールベース:2525mm
車重:970kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:98PS(72kW)/6000rpm
最大トルク:140N・m(14.3kgf・m)/2400-4000rpm
タイヤ:(前)195/65R16 92H/(後)195/65R16 92H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:23.4km/リッター(JC08モード)/18.6km/リッター(WLTCモード)
価格:184万8000円/テスト車=214万3801円
オプション装備:ブラインドスポットモニター(6万6000円)/スマートパノラマパーキングパック(14万8500円) ※以下、販売店オプション カーペットマット<高機能タイプ・グレー>(2万8226円)/ドライブレコーダー<スタンドアローンモデル>(3万4760円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万8315円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:603km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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トヨタ・ライズZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1620mm
ホイールベース:2525mm
車重:980kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:98PS(72kW)/6000rpm
最大トルク:140N・m(14.3kgf・m)/2400-4000rpm
タイヤ:(前)195/60R17 90H/(後)195/60R17 90H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:22.8km/リッター(JC08モード)/18.6km/リッター(WLTCモード)
価格:206万円/テスト車=244万4450円
オプション装備:ボディーカラー<ブラックマイカメタリック×ターコイズブルーマイカメタリック>(5万5000円)/ブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックアラート(6万6000円)/スマートパノラマパーキングパッケージ(14万7400円) ※以下、販売店オプション フロアマット<デラックスタイプ>(2万7500円)/ETC 2.0ユニット<ビルトイン、ボイスタイプ>(2万5300円)/カメラ別体型ドライブレコーダー(6万3250円)/
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:626km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。