第112回:【Movie】「うしろ指さされ組」と呼ばせない! 地味系フィアット大集会
2009.10.10 マッキナ あらモーダ!第112回:【Movie】「うしろ指さされ組」と呼ばせない! 地味系フィアット大集会
「フィアット・スティーロ」
フィアットに「スティーロ」というモデルがあった。欧州でちょうど「フォルクスワーゲン・ゴルフ」とガチンコ勝負する「セグメントC」というクラスに属するモデルだった。日本にはついぞ導入されなかったので、ご存知の方は少ないと思う。
スティーロは、「先代モデルである初代『ブラーヴォ/ブラーヴァ』の不振挽回」というフィアットによる使命を一身に背負い、2001年ジュネーブショーでデビューした。
まず3ドアと5ドア版が登場し、しばらくしてからワゴンも追加された。しかしタイミングが悪かった。折りしも当時のフィアットは経営危機の只中にあったからだ。フィアット製というだけで、多くのイタリア人はクルマも見ずに「時代遅れ」と決め付けたのだ。
当時フィアット車全体の初期品質が不安定だったのも災いした。国外では「FIATって何の略か知ってるかい? 『Fix It Again! Tony(トニー、もう一度直せ!)』だぜ」という、往年の頭文字ジョークがにわかに復活した。
ちなみにトニーとは、アングロサクソン圏でメカニックを表現するときに多く使われる名前だ。結局スティーロは年間20万台という目標販売台数の、半分にも達しなかった。
エンジニアリングを他社に委託できる部分まで自社内で行ったことによる開発コスト高も、後になってみると重荷となった。そのようなことが重なって、「うしろ指さされるフィアット」になってしまったのである。
かくして2007年に新型ブラーヴォ(エンジニアリングの大部分をオーストリアのマグナシュタイアに委託していた)が誕生すると、まずは3/5ドアモデルが、続いてワゴンが、静かにフィアットの車種ラインナップから消えていった。
フォーラムは4000人超!
そんなスティーロだが、イタリアにはちゃんとオーナーズクラブがある。
「フィアット・スティーロ・クラブ」というその会は、日頃はインターネットを通じて交流している。開設6年で会員数1500人、サイトのフォーラム登録者に至っては4100人という数を誇る。
新車当時カタログにあったアバルト仕様も、もちろんウエルカムである。さらにその後継車である新ブラーヴォも対象だ。
彼らは毎年夏、オフ会的ミーティングを開催しているという。そこで2009年6月、トスカーナの景勝地モンタルチーノで開かれるというので、ボクは覗いてみることにした。会費は昼食・記念品込みで30ユーロ(約3900円)である。
当日参集したのは30台、約70名。動画をご覧いただくとわかるように、彼らはスティーロというクルマに、ライバルのドイツ車勢とはひと味違った個性に魅力を感じている。また、「あのモデルは、このモデルよりエラい」といった序列抗争から解き放たれた自由さが溢れている。なかには、スティーロばかり3台乗り継いだ熱烈ファンもいた。
しかしながら微笑ましいのは、古いクラブのように堅苦しい上下関係や先輩・後輩関係が微塵もないことである。
オーガナイザーのマッテオ君は、ミラノで機械工学を勉強中の大学生だ。いっぽうで参加者には、40代、50代のおじさんもいる。にもかかわらず年齢を超え、みんな和気あいあいとクルマ談義を繰り広げているのだ。
なんて民主的なんだ、フィアットというクルマは! ボクは身震いしてしまった。その空気を、皆さんもビデオから感じていただければと思う。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
|
【Movie(その1)】「フィアット・スティーロ」が続々集まってきた!
【Movie(その2)】参加したオーナーにインタビュー
(撮影と編集=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
ニュルブルクリンクでテストする一番の理由とは?
2026.10.20あの多田哲哉のクルマQ&A高性能車の宣伝において、しばしば「ニュル(ドイツのニュルブルクリンク北コース)で鍛えた」「ニュルで〇秒を記録した」という言葉が使われる。では、ニュルで車両を開発する最大のメリットとは? 元トヨタの多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.10.19試乗記トヨタの「ランドクルーザー“300”」にハイブリッドパワートレイン搭載モデルが登場。環境負荷低減のために牙を抜かれた……どころか、電気の力を味方に、さらに力強さを増しているから面白い。愛知県のオフロードコースで乗った印象をリポートする。 -
フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む
2026.10.19デイリーコラム「日本上陸60周年」を祝うファン感謝イベントを開催したフェラーリ。自動車界に燦然と輝くハイブランドは、いま何を目指しどこに行こうとしているのか? 経営トップの談話を交えながら推察してみよう。 -
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。