フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/6AT)【試乗速報】
一家に一台 2009.08.25 試乗記 フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/6AT)……395万4000円
先代モデルでも完成の域にあると思われた「ゴルフGTI」は、モデルチェンジでどのような進化を遂げたのか?
優等生の憂鬱と矜持
6代目の「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に「GTI」が追加されると聞いて「おおっ!!」と色めきだつクルマ好きは、実はそれほど多くないと推測する。みなさん、「あっそう」とか「そりゃそうだろう」と冷静に受け止めるのではないか。1970年代、80年代ならいざ知らず、いまやゴルフシリーズにGTIがラインナップされるのはあたりまえ。日清カップヌードルにカレー味があるのと同じで、特に新鮮な出来事ではない。
先代を例にとれば、日本におけるゴルフの販売台数の約4分の1がGTI。特別なモデルというよりは、ひとつの車種といってもいいかもしれない。
そして何世代かのGTIにふれてきた身としては、「ゴルフGTI」はいいクルマに決まっているという思い込みがある。いつの時代もゴルフGTIは優等生。英数国理社体美の7科目のうち、「5」が4つで「4」が3つぐらいの成績を安定して残してきた。だから新しいゴルフのGTIにも、それぐらいの成績が当然のように期待される。
でも、そんなクルマを作るのはかなり大変だ。「5」と「4」で揃えるのがフツー、もしひとつでも「3」なんか取ろうものなら晩ゴハン抜きだ。いっそのこと、髪を染めて学ランのボタンを3つ開けるぐらいのイメチェンを図るほうが話は簡単かもしれない。けれども、「新型ゴルフGTI」はそういった奇策に逃げずに、あくまで文武両道の優等生で勝負している。
劇的な変化をしていないという意味では、地味な“鉄板”のモデルチェンジだという言いかたもできる。そこがツマランという意見もあるかもしれないけれど、「新型ゴルフGTI」が「5」の数を確実にひとつ増やしているのは間違いない。そして、実はそっちのほうが「オール3」から3科目を「5」にすることより難しいのではないだろうか。あえて難易度の高い正攻法を貫き、結果を残した。それが新型ゴルフGTIを試乗しての感想だ。
洗練のパワートレーン
乗り込む前に、ゴルフGTIの周囲をぐるっとひとまわり。ノーマル仕様から大きくかけ離れるようなメイクは施していないものの、よくよく見ればノーマルとはひと味違うスパイスが利いている。格子状になったラジエターグリル、左右ヘッドランプの間に走る2本線の赤い挿し色、縦長になったフォグランプ、左右両出しのマフラー、リアスポイラー……。
このあたりの、控え目でありながらドライバーのヤル気をかき立てる演出はうまい。「安心」と「斬新」のさじ加減が絶妙なのは、インテリアも同じ。ノーマルに準じた落ち着いた意匠をベースに、専用のステアリングホイールやシフトノブ、随所に施した赤いステッチ、チェック柄のスポーツシート、ギラッと鈍く光るペダル類などが、特別なモデルだという雰囲気を盛り上げる。
エンジンスタート、駐車場を走り始めてまず気付くのは、発進や微低速域でのマナーが滑らかになったことだ。エンジンとトランスミッション(6段DSG)の連係プレーが洗練された。先代でもシフトは充分に素早くてスムーズだと思っていたけれど、上には上があった。発進時に少し荒っぽくアクセルを踏んだり、コーナー出口で加速するような場面でも、一粒のパワーも余さずに路面に叩きつける感触がある。
2リッターの直噴ターボエンジンは、排気量こそ先代GTI用エンジンと同じだけれど、中身は別物。先代の200psから211psへとパワーアップすると同時に、ユーロ5の厳しい排ガス基準をクリア。CO2排出量も先代の190g/kmから173g/kmへと低減している。ぴったりと息が合った新エンジンと6段DSGのコンビネーションは、スポーティさとともに“いいモノ感”を伝える。
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切れ味と安定性を両立したシャシー
しなやかな乗り心地と軽快な操縦性がバランスしていることから、足まわりからもスポーティさと“いいモノ感”の両方が伝わってくる。ただしサスペンションにはひとつ注釈が必要。標準の17インチタイヤのほかにオプションで18インチ仕様が用意され、後者にはアダプティブシャシーコントロール“DCC”が備わるのだ。
あたりがやわらかく、コーナーで穏やかにロールする17インチ仕様はなかなか味わい深い。その一方で、「ノーマル」「スポーツ」「コンフォート」の3つのセッティングを切り替えるDCCを備える18インチ仕様は、楽ちん仕様から瞬時にヤル気仕様に変身する。この贅沢さも捨てがたい。DCCは18インチアルミホイールとセットで21万円のオプション。自分だったら、「うーん」と5秒ほどうなった後に、10年乗るからという言い訳をつけてオプション装着しちゃいそう。
軽快なハンドリングの陰には、XDSというハイテク新機軸の存在もある。これはEDS(エレクトロニック・ディファレンシャルロック・システム)の機能を拡張したもの。EDSが低速での低μ路などのトラクション確保が主目的であるのに対し、XDSは高速コーナーでのニュートラルステアと安定した挙動を目的に作動する。
具体的には、コーナーで内輪の荷重不足を察知するとそのタイヤにブレーキをかけて空転を防止する。結果としてトラクションを確保、アンダーステアが弱まってすばしっこいコーナリングが可能となる。今回の試乗セクションはワインディングロードの高速コーナーが主体だったこともあり、新型ゴルフGTIの切れ味の鋭さは心に残った。
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競合するのは、もしかすると……
シャープな切れ味とともに、「ゴルフVI」の標準仕様で評価の高かったどっしりした安定感も健在。コーナリング中に路面の凸凹といった外乱要因と出くわしても、懐の深いシャシーが丸め込む。あまりに安定しているので、ひらひらとスポーツドライビングをしているつもりでも実はお釈迦様の手のひらで遊んでいるにすぎないのかも、と思えるほど。
試乗を終えてからお金の計算。1台でファミリーカーから休日の早朝箱根エクスプレスまでこなすゴルフGTIは、いつの時代も“一家に一台だったら”的選択肢の最右翼だ。こんなクルマがガレージに1台あったら、家庭の平和もドライビングのわくわく感も所有する喜びも、すべてがまとめて手に入りそう。
正札366万円。標準装備のチェック柄ファブリックシートのほうが好ましいから27万3000円のレザーシートは要らないし、12万6000円のスライディングルーフも個人的には必要性を感じない。でも18インチとDCCのセットオプション21万円はほしいし、そこに29万4000円のカーナビ+リアビューカメラも付けるとなると、416万4000円。結構いくなあ……。
もちろん贅沢な買い物だけれど、一家にこれ一台で10年乗ると思えばアリかとも思える。あと、ゴルフGTIを試乗しながら思ったのは、標準仕様を含めたゴルフVIというモデル全体がよく練られている、ということ。もしかすると、ゴルフGTIと競合するのは他社のホットハッチやスポーティモデルではなく、ノーマルのゴルフVIかもしれないと思った。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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