第47回:「のだめ」とヴィラ・デステの意外な関係
2008.06.28 マッキナ あらモーダ!第47回:「のだめ」とヴィラ・デステの意外な関係
たとえ前は『Shall we ダンス?』でも
クラシック音楽をテーマに音大生たちの奮闘を描いた『のだめカンタービレ』。コミックがTVドラマ化されて、早くも2年経とうとしているが、レンタルCD屋さんの、いわゆるクラシック音楽コーナーはいまだに充実している。ボクの音大生時代の知人である演奏家やピアノ講師も、おかげで仕事がちょっぴり増えたようだ。
キムタクのドラマを観て総理大臣になろうとする人は少ないが、「のだめ」を観てコンサートを聴きに行ったり、子供時代に習ったピアノをもう一度、と思った人は多かっただろう。
「日本人は、すぐ流行に踊らされるんだよね」という見方もある。たしかに今必死でピアノを習っているおじさんが、実は『Shall we ダンス?』時代は役所広司になりきってダンス教室に通っていたかもしれない。
しかし全国民的ブームというものが少ないイタリアに住んでいると、日本式盛り上がりは、これまた楽しいのではないかとも思う。たとえ些細なきっかけでも、新しい事象や領域を発見できれば、本人にとってそれなりに幸せではないか。
コンセプトカーが目の前を走る
ところで、筆者は、『CAR GRAPHIC』2008年7月号でコモ湖畔ヴィラ・デステのコンクール・デレガンスをレポートした。
毎年4月に開催されるそれは79回の歴史を誇り、アメリカのペブルビーチなどと並ぶ世界屈指のエレガンス・コンクールである。今年はヒストリックカー52台が宝石のごとくちりばめられた。
「古いクルマなんて興味ない」という読者もいるに違いない。しかしコンクールの楽しみは、古いクルマだけではない。「コンセプトカー部門」というものも存在するのである。
今年のヴィラ・デステには12ブランドのショーカーやフォーリ・セリエ(一品製作車)が出展された。
その多くはここ1〜2年に各地のモーターショーで披露されたモデルだ。ターンテーブルの上でなく、陽光のもとで鑑賞すると、スタイリストがこだわったであろう面構成やディテールが浮かび上がってくる。
また、インテリアも間近で観察することができて面白い。ときにはダミーの操作類や計器もあるが、そのいっぽうでドアの開閉機構などショーカーにもかかわらず極めて精緻に作られていて驚くときがある。
したがってショーでは関心なく通り過ぎていたクルマが、限りなく魅力的に映ったりするから不思議だ。
今年のヴィラ・デステで個人的にそれに該当したのは、昨2007年の東京ショーでメルセデス・ベンツが公開した「F700」だった。ショーではバロックにしか映らなかったが、コモの陽光の下ではなんとも伸びやかかつ優雅なプロポーションだった。ちなみに同車のインテリアは地元コモにあるメルセデスのデザインセンターによる。
コンセプトカーが実走するのも嬉しい。木漏れ日を浴びながら、ハイパフォーマンスカーはエグゾーストノートを響かせ、ハイブリッドカーは滑るように走る。その姿を見られるのはモーターショーでは得られない感動である。
レクサスから参加したサイモンさん
コンセプトカーとともに、今日自動車デザイン界の第一線で、またオピニオンリーダーとして活躍する人々を間近で見られるのも嬉しいことである。
審査メンバーリストに加わっているフィアットのロレンツォ・ラマチョッティ、ルノーのパトリック・ルケマン、元オペルの児玉英雄各氏のほかに、今年はGMのエド・ウェルバーン、このほどリタイアしたダイムラーのペーター・ファイファーといった人たちもコンセプトカーとともに登場した。
日本ブランドで唯一参加したレクサスからも2008年デトロイトショーで公開された「LF-Aロードスター」とともに、サイモン・ハンフリーズ・デザイン本部グローバルデザイン統括部部長がやってきた。
英国の大学でデザインを専攻していたサイモン氏は、ソニー主催のデザインコンペティションで優勝。卒業と同年の1988年、東京のソニーでインターン生活を送るべく来日する。英・日のデザイン会社を経て1994年トヨタ自動車に入社。2001年にグローバルデザイン統括部でレクサス/トヨタデザインブランド戦略のプロジェクトマネージャーなどを担当し、2007年から現職に至る。
「トヨタは外から眺めると固い会社のイメージがあります。しかし実際には、どんなことにもトライさせてくれる会社です」と筆者に明かすサイモン氏の語りは、実に流暢かつきわめて正確な日本語であった!
気のおけないイベント
なおヴィラ・デステには来場者投票があって、一般ビジターも気に入ったコンセプトカーに票を投じることができる。
またイベントのクライマックスであるパレードも盛りあがる。進行役の司会者は博識に富んだ車両解説の合間にユーモラスなコメントを、それも平然とした顔ではさむので愉快だ。
たとえば、ドアの下までグラスエリアが広がるヒュンダイのコンセプトカーが滑り込んでくると「ミニスカートの女性をエスコートするとき、ちょっと困りますねえ」と言い、007映画を観て考案したという水中走行可能車「リンスピード・スキューバ」が登場すると、「今、コモ湖で試してもらえますか?」と迫って場を盛り上げる。
かくもコンクール・デレガンスの一般公開日は、イメージよりもずっと気のおけないものである。
古いクルマが苦手な人もショーカーを鑑賞しているうち、傍らに佇むご先祖様のようなクルマたちに、やがてその原点を見いだして興味を抱き始める。
だから「のだめ」でクラシック音楽に興味をもつのと同様、コンセプトカー見たさにコンクール・デレガンスを訪れてみるのも、けっして悪くないと思うのである。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)
拡大
|

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。