■【みどころナビ】マクハリで見せつけられたニホンの現実
「世界3大自動車ショー」として数えられる、東京モーターショー。しかし、海外のショーで日本メーカーのニューモデルが発表されたり、自動車市場が芳しくない日本を後目に、活性化する中国マーケットに注目が集まるなど、東京モーターショーの立場が危ぶまれている。
40年以上もモーターショーの取材を続けている自動車ジャーナリストの大川悠が、東京ショーを見て考える。
■自動車世界の最大と最小の競演
2007年10月24日プレスデイの翌日、朝日新聞の朝刊紙面は今回のショーを見事に表現していた。「中国台頭、薄らぐ存在感」がメインの見出しだが、その横に2枚の写真がある。1枚はカルロス・ゴーン日産社長と「GT-R」、もう1枚はシングルシーターの「i-REAL」に乗るトヨタの渡辺社長である。
この紙面は2つのことを語っていた。中国の影で、国際的には年々地位が低下している東京は、今回はさらにアメリカ、ヨーロッパメーカーから以前ほどは重視されなくなり、結局は日本車中心のローカルショーの色彩が強くなったこと。そしてショーのスターはあくまでも日本車であり、しかも自動車における両極端が注目されていたことである。つまりパワーも速度も存在感も価格も最大の世界と、それと正反対にエコ、環境という命題に従ってサイズも燃費も社会的刺激も最小の世界を目指すという二つの極が、この会場を支配していたということだ。
日本企業による最大と最小的自動車像の競演、それが今回の東京モーターショーだった。
■今のニホンが炙りだされていた
この最大も最小も、当然2007年のニホンという社会状況が求めたものである。時代、社会、環境がそのときのクルマのあり方を大枠で決める。それを考えるなら、今の私たちの社会状況がマクハリという会場に、そのまま反映されていたといってもいい。
そういう目でショーを見直すと、今のニホンが多少は炙り出されてくる。高性能車、高級車と、ミニマムトランスポートにはっきり分かれたコンセプトカーは、格差社会を映したものだ。というのはちょっと短絡的発想だが、それでもなんとなく現代の日本を取り巻く状況を思わせる。
念仏や教条のようにあらゆるメディアで語られているエコや環境、地球との共生などという言葉も、特に自動車界においては無視できない。というかこれにきちんと対峙することこそ、自動車メーカーの将来を決める要件であり、サバイバル競争に勝つための絶対的条件である。
少し前までは、お金をかけて一体どこまでやるべきか、依然としてメーカーも多少の疑念があった。本当に顧客がエコを求めているのか、メーカーには自信がなかった。
だが、ここへきて世界の状況があまりにも早く変化した。もはや地球環境の将来に向けての積極姿勢を見せないことには、自動車企業には未来がないことが明瞭になったのだ。
会場を埋め尽くした無数の小さなクルマのプロジェクトや、新しい動力源のディスプレイは、各メーカーがいかにして生き残るか、それを巡る戦いを示していた。小さなクルマによる長く大きな戦争が避けられなくなったことを、マクハリの会場は語っていた。
でもそれは一自動車ファンにとって、それほど心ときめくものではなかった。
■GT-R人気が語るもの
そしてもう一つの極、これは多くを語る必要はないだろう。プレスデイ当日、会場の一角は朝から異常な数のプレスが集まっていた。そして昼近くになると人の数は怒濤のごとく増え、会場そのものが異常な熱気に包まれた。「日産GT-R」の発表である。
これまで40年以上モーターショーを取材しているが、たった1台のクルマがこれだけショーの話題を独占することなど、経験したこともなかった。
これは単にGT-Rというクルマの人気が高いからではない。「何で騒がれるのでしょうね? 高い特殊なクルマだし、普通のお客さんは縁がないのにね?」とある日産の社員も語っていたが、その見方は正しい。あくまでもスペシャルなクルマの1つに過ぎないのだし、他に見るべきクルマ、別な魅力を持ったクルマもあるからだ。ヒーローもいなければビッグスターもいない。国民的流行歌もなければベストセラー小説もない時代に、どうしてGT-Rだけが騒がれるのだろうか? しかも日産を初めとする国産車は、どんどん国内で販売が低下しているのにである。
これには様々な理由があるだろう。前述したエコ・ファッショの流れに普通の自動車ユーザーはまだ乗り切れないこと、古い自動車愛好家は道具と化した現代のクルマに飽きて、GT-Rに昔の夢を見たがっていること、さらにはクルマに興味も抱かなくなった若い世代にとって、GT-Rは自動車とは違った別の存在に映ること、などいろいろ考えられる。GT-Rをいかに読みとるか、それがひょっとしたらこのショーを理解するカギかもしれない。
いずれにしてもニホンは複雑になってしまったし、自動車もまた複雑な存在になりつつある。
世界の現実をそのまま屋内で展開しているマクハリを後にしながら、「あまり楽しいショーではなかったな」という感想が残った。
(文=大川 悠)
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