ジープ・グランドチェロキー・リミテッド(4WD/5AT)/リミテッド5.7(4WD/5AT)【試乗記】
荒野のプライド 2005.07.21 試乗記 ジープ・グランドチェロキー・リミテッド(4WD/5AT)/リミテッド5.7(4WD/5AT) ……525万円 /588万円 3代目となった「ジープ・グランドチェロキー」が日本に上陸した。プレミアム路線を歩み始めたアメリカンSUVを、オンロード/オフロードの両方で試乗した。サスペンション、エンジンに大きな変更
4月に行われたイタリア・トスカーナの国際試乗会では、「プレミアムSUV」としての新しい姿に触れたことが記憶に残っている。葡萄畑やオリーブ林の中を、「グランドチェロキー」で駆け抜けていくのは楽しい体験だった。ピュアオフローダーとしての伝統を受け継ぎながらも、内外装の高級感を増し、オンロードでの走りに磨きをかけたのがこのモデルである。
1992年の初代から数えて3代目となるグランドチェロキーには、前モデルから大きな変更点がある。前後リジッドだったサスペンションがフロントのみ独立懸架に換えられ、ステアリングシステムはリサーキュレーティングボールからラック&ピニオンに変更された。これは、明らかにオンロードでのハンドリングと乗り心地の向上のために行われた措置である。
新たに投入されたエンジンも、大きなトピックだ。「クライスラー300C」に搭載されて好評を博しているHEMIエンジンが、グランドチェロキーにも採用された。半球型燃焼室を持つ5.7リッターOHVで、かつてレースシーンで活躍したエンジンの名を継いでいる。これもやはりハイパワー競争が激しくなるばかりのヨーロッパSUVへの対抗策となっている。
プレミアムでも穴の底へ
明らかに都市型SUVへと舵を切ったグランドチェロキーなのだが、試乗会は富士山麓の本栖湖近くにあるオフロードコースで行われた。プレミアム路線を目指しても、「ジープ」の名を持つクルマは荒野で真価を発揮しなくてはならない。これは、伝統を背景にしたプライドであり、守らねばならないアイデンティティでもあるのだ。
特設のステージで、3輪がスリップしている状況で自動的にデフロックがかかり、1輪のトラクションで脱出するデモンストレーションが行われた。丸太を敷いて設えられた坂道を、2トンを超える巨体が1輪で登っていくのは壮観である。小雨で路面が濡れていてミューが低い中をなんとかクリアしていくには、さすがにテクニックがいる。続いて大きな穴ぼこが左右にうがたれた道を前後左右に傾きながら抜けていくのも、なかなかの見物だった。あり得ない角度で、クルマが天を仰いだり地中に突っ込もうとしたりする。
このあたりはデモンストレーションのためだけのものだと思っていたら、次に自分が試乗する際にもそこを通る設定になっていたことには驚いた。トスカーナでは優しいコース設定だったのに、日本では楽をさせてくれないらしい。意を決して穴の底めがけて下っていくと、地面から1輪、そして2輪と離れていくのがわかる。しかし、普段経験しない角度の運転姿勢さえガマンしていれば、クルマが勝手にトルクを配分して前へと進んでいくのだ。
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迷わずクォドラドライブ?
いい忘れたが、このとき乗っていたのは「リミテッド」というグレードで、4.7リッターエンジンに「クォドラドライブ?」という4WDシステムを組み合わせたモデルである。このクォドラドライブ?は新しく設定されたフルタイム四駆システムで、電子制御式リミテッド・スリップ・デフ(ELSD)をセンター・フロント・リアの3か所に装備しており、車輪が45度空転した段階でそれを感知し、適切にトルク配分を行うというもの。いつ、どのようにシステムが作動したか全然気がつかない。
このシステムの力をようやく理解したのは、後で別のモデルで同じコースを走ってみてからである。「ラレード」というグレードでは同じエンジンに「クォドラトラック?」という4WDシステムを組み合わせている。これにはELSDがついておらず、ブレーキ・トラクション・コントロール・システムでトルク配分を行う。クォドラドライブ?に比べると、どうしてもタイヤが空転する時間が長くなってしまうので、ある程度アクセルを吹かし気味にしてやらないと立ち往生してしまう。もし本気でグランドチェロキーを荒野に乗り入れるつもりがあり、かつ四駆の操縦にそれほど習熟していないならば、迷わずクォドラドライブ?を装備したモデルを選んだほうがいいと思う。
4.7はアメリカンな香り
オンロードでは、リミテッドとリミテッド5.7に乗ってみた。5.7HEMIエンジンは、300Cに搭載されるものとは若干チューンが変えられていて、オフロード走行にも対応したものになっている。車重が300キロほど重いとはいえ、50kgmを超えるトルクを利した加速は圧倒的だ。これならば、最近のハイパワーSUVに慣れたドライバーでも不満を覚えることはあるまい。硬めの足まわりだがゴツゴツした感覚ではなく、落ち着いた高級感のある乗り心地を得ている。
4.7リッターV8エンジンは、先代モデルでも使われていたもの。5.7HEMIよりは若干パワー、トルクともに劣るものの、特に不足はない。乗って感じるユルさは従来からのグランドチェロキーイメージを色濃く残していて、アメリカンな香りを味わいたい人にとってはこちらのほうが好ましく思えるだろう。
サイドブレーキの素材があまりにもプラスチッキーだったりとか、プレミアムへの道を踏み出したばかりのモデルゆえに改善点はまだまだある。しかし、ハイ/ロー切り替えレバーが電子式スイッチになったり、シートの素材や形状がソフィスティケートされたりして、ずいぶんモダンなSUVに生まれ変わった。そして、価格を見ると、欧州のライバルに比べて明らかにリーズナブルな設定となっている。エントリーモデルのラレードは451万5000円と、500万円を大幅に下回っているのだ。良きアメリカのライフスタイルにシンパシーを持つ人にとっては、うれしい選択肢が新たに加わった。
(文=NAVI鈴木真人/写真=清水健太/2005年7月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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