第88回:日本に残る「氷河の足跡」、木曽駒ヶ岳
その10:吹雪のなか、無事に下山……できるか?(矢貫隆)
2006.09.08
クルマで登山
第88回:日本に残る「氷河の足跡」、木曽駒ヶ岳その10:吹雪のなか、無事に下山……できるか?(矢貫隆)
■中高年の登山ブーム、問題あり!
「天候は回復しないと思うよ」
木曽駒ヶ岳の天候を熟知したおやじさんが言うのである。彼の判断は間違いないだろう。仕方がない、予定は変更だ。
氷河期にできたといわれる濃ケ池を見たかったし、岩塊斜面をもっと歩いてみたかった。けれど天候が悪い以上、無理は禁物である。僕たちは早々に尻尾を巻いてロープウェイ駅へと逃げ帰ることに決めたのだった。
だが、どこにでも無謀な輩はいるもので、大多数の登山者が帰途についたというのに、たった1人だけが「スケジュールを強行する」と言い張って山小屋のおやじさんのアドバイスを聞き入れない。
60年輩と思しき彼は、ロープウェイ駅には向かわず、下山までに8時間以上はかかると思われるコースを歩くのだという。何の根拠もないくせに、しかもアイゼンも持っていないくせに、自信たっぷりなのである。こういう連中が遭難騒ぎを起こすのだ。
小屋をでると「肌を刺すような」ではなく、肌に突き刺さる雪まじりの強風。しかも濃いガスが視界を遮っていた。
冬山の怖さを実感しながら昨日の道を逆戻り。中岳を登るあたりで先に山小屋をでた数人の中高年グループに追いついた。彼らもまたアイゼンを用意しておらず、そのために雪の急斜面に難儀していたのだった。
「まったく山を舐めた連中が多いですね。中高年の登山ブーム、問題あり、ですよ」
A君が憤慨するのはもっともだ。雪を想定してアイゼンを持つのは当然だし、悪天候であれば予定を変える勇気も必要だ。
山での安全は自己責任で確保する。そのための最大限の努力が必要なのに、その意識に欠ける登山者が多いように見受けられてしまうのである。遭難や遭難救助のニュースを見聞きするたびに、その何割かに意識の低い登山者が含まれているようにも思う。
「そのとおりですよ」
というような会話をしているうちに中岳の頂に到着。斜面の向きが変わったとたん、そこには、それまでの天候が嘘のように穏やかな秋晴れが広がっていた。
行きに難儀したカールの登山道を下りていく。登ってくる軽装のハイカーたち。
「こんにちは〜」
「いい天気ですねェ」
何を呑気なことを言っているんだ。そんな軽装で登ったら、中岳あたりでとんでもない目にあうぞ。
とか言っているうちにロープウェイの千畳敷駅に到着。我々「クルマで登山隊」は、今回も無事に下山したのだった。
「無事に? 今回もハラハラしましたよ」
すまん。
(この回おわり)
(文=矢貫隆/2006年7月)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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