プジョー206XTプレミアム(4AT)【ブリーフテスト】
プジョー206XTプレミアム(4AT) 2001.03.28 試乗記 ……199.5万円 総合評価……★★★鬼に金棒
1.6リッターエンジンが、ヘッド載せ替えでツインカムになった。従来型のSOHCはハッキリと中低速重視の性格だったが、今度のは上の回転域に対してもいささか積極的だ。またそれとともに、1.6はこれまでMTのみだったがATも選べるようになった。「5ドア+AT+1.6リッター」という、すなわち日本におけるこのクラスの“ズバリ売れセン”仕様が、ようやく登場したわけだ。絵に描いたような右肩上がりの業績を続けるプジョー・ジャポンにとって、鬼に金棒的な追加モデルだ。
206は目下日本におけるプジョー隆盛の牽引役であり、そのうちの主役となるのがこのXTプレミアム(AT)だろうと彼らは考えている。
結論としてはしかし、「5ドア+オートマ」で乗る206としては、既存の1.4リッターモデルの方がベターだと思った。パフォーマンスは1.4で十分だ。それと、206の、なかでも特に走り志向の強くない仕様に特徴的な「軟体動物風のシャシーセッティング」に対しては、エンジン性能は控えめなほうが相性がいい。ヘタに強力な分、1.6ではとっちらかりそうなコワさが前面に出てくる。
余談ながら、2001年モデルとして追加された仕様のうちで注目すべきは、3ドア「XS」の5段MT車だろう。既存の2リッター「S16」とほぼ変わらないパフォーマンスが、58万円安の価格(187.0万円) で手に入るのだから。
【概要】 どんなクルマ?
(シリーズ概要)
プジョー206は、1998年にデビューしたハッチバック。106と306に分かれる前の大ヒット作「205」の後継モデルにあたる。3ドア、5ドア、それに電動で開閉可能なハードトップをもつCC(クーペカブリオレ)がラインナップされる。日本には、1.4、1.6、2リッターモデルが輸入される。
(グレード概要)
XTプレミアムとは、1.6リッターエンジンを積む5ドアモデルのこと。1.4リッターの5ドアが「XT」である。2001年3月に、1.6リッターユニットがツインカムになり、また4ATモデルが加わった。9つのプログラムから、走行状態に合わせてシフトスケジュールを選ぶインテリジェント機能をもつトランスミッションである。
【車内&荷室空間】 乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
従来のプジョー車とは対照的に、206シリーズはスカットル(エンジンルームと客室とを隔てる壁の上端位置)が高い。ミニバン風な全体の造形手法からくる当然の帰結ともいえるし、また高いボディ剛性を比較的低いコストで実現するのに手っとり早い方法であるともいえる。同じようなカタチをしたヴィッツの場合、ダッシュボード全体が見た目にボヨンと肥大してしまった。206では、前後というか上下に二分割風のデザインを採ることで、そうなることをまあ効果的に防いでいる。少なくとも、意図は理解できる。操作パネルの使い勝手も、特にこれといって大きな問題なし。ただしこのクルマ、右ハンドル仕様のことはさして重視されていないようだ。すなわち、ネガがわりと顕著に出ている。ペダルに合わせるとハンドルが遠すぎるし、逆にハンドルに合わせるとペダルが近すぎる。せめてハンドル軸に延長ボスでもカマせばとも思うが、そうなると今度はただでさえ離れ気味なハンドルとウィンカーレバーの間隔がさらに遠くなってしまう。206登場時以来のこれは難点だが、やはり直っていなかった。
(前席)……★★
まず、座面が前下がりであるのが気になる。ペダルおよびハンドル関係の違和感もあって、運転姿勢はよくない。“フランス車といえば”のかけ心地もイマイチ。簡単にいって安っぽい。第一印象こそそれ風にソフトだが、すぐに底が割れる。ことにルノーと較べると、最近のプジョーはシートに対するコスト上の割り切りが目立つ。
(後席)……★★★
全高は1440mmもあるが、肝心の頭上空間が苦しい。いうまでもなく、その部分のルーフが低いから。ファンシー志向の外観デザインがもたらしたデメリットだ。見た目のカッコよさと実質の空間との妥協点のレベルは、新型オペル・ヴィータやフィアット・プントと較べて明らかに低い。イージーなクルマづくり、といわざるをえない。「短時間用」と割り切るなら、いっそ従来路線のまま全高からして低くてもよかった。
ただし、新しくなったヘッドレストは加点要素。引っ込めた状態で座ると低い位置のヘッドレストが背中に当たって、明らかに違和感あり。アタマの位置まで引き上げざるをえない。で、自然と安全。日本車見習うべし。
(荷室)……★★★
スペアタイヤをトランク内から追い出して、フロアパネルの下側、つまり地面に対して露出したところに配置するのはプジョーのよき伝統。当然汚れはするが、これだったら荷物満載状態でパンクしてもタイヤ交換に手間取ることがない。
【ドライブフィール】 運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
1.4リッターや2リッターと較べるとうるさい。ただし活発。従来型SOHC比でスペック向上は明らか。値段差を考えれば「2リッターは不要」ともいえる。全体として「マア元気のいいことで」で済ませない範囲ではないが、しかし「XT」にはイキな高性能だという気もする。オートマはイイ。変速マナーも、またトルコンの特性もドライバーの気持ちをよくわかっている。イチイチ手元を確認することなしに思いどおりの操作ができるゲートのデザインもイイ。最近流行のヘタな「+−シフト」より何倍もベター。とはいえ、ATのありがたみは、1.6リッターモデルのインプレ文脈では“非力”ということになってしまう。1.4リッターとの組み合わせでこそいっそう光る。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
攻めていくとわりと唐突にリアがスパッと出るのがこれまでのプジョー流だったが、206は少々違う。「スパッ」と、ではなく「ツーッ」と出る。アンダーステアがキラいなのは同じだが……。XTプレミアムに乗って思ったのは、1.6リッターの動力性能に対しては、すくなくともXSなみの“スポーティ”なタイヤが必要ではないかということ。ちなみに、XSは、185/55R15 82VのピレリP6000。XTプレミアムは、185/65R14 86HのミシュランEnergy、つまりエコタイヤだった。
(撮影=難波ケンジ)
【テストデータ】
報告者:森 慶太
テスト日:2001年3月6日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2001年型
テスト車の走行距離:--
タイヤ:(前)185/65R14 86H/(後)同じ(いずれもMichelin Energy)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):山岳路(8)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

森 慶太
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】
2025.12.17試乗記「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。 -
NEW
人気なのになぜ? アルピーヌA110」が生産終了になる不思議
2025.12.17デイリーコラム現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。 -
NEW
第96回:レクサスとセンチュリー(後編) ―レクサスよどこへ行く!? 6輪ミニバンと走る通天閣が示した未来―
2025.12.17カーデザイン曼荼羅業界をあっと言わせた、トヨタの新たな5ブランド戦略。しかし、センチュリーがブランドに“格上げ”されたとなると、気になるのが既存のプレミアムブランドであるレクサスの今後だ。新時代のレクサスに課せられた使命を、カーデザインの識者と考えた。 -
車両開発者は日本カー・オブ・ザ・イヤーをどう意識している?
2025.12.16あの多田哲哉のクルマQ&Aその年の最優秀車を決める日本カー・オブ・ザ・イヤー。同賞を、メーカーの車両開発者はどのように意識しているのだろうか? トヨタでさまざまなクルマの開発をとりまとめてきた多田哲哉さんに、話を聞いた。 -
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】
2025.12.16試乗記これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。 -
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。


















