第5戦スペインGP「混戦の要因」【F1 2012 続報】
2012.05.14 自動車ニュース【F1 2012 続報】第5戦スペインGP「混戦の要因」
2012年5月13日、スペインのサーキット・デ・カタルーニャで行われたF1世界選手権第5戦スペインGP。9月まで続くヨーロッパ・ラウンドに突入したF1は、またしても新たなウィナーを誕生させた。5戦して5人目の勝者。シーズンを混戦たらしめる要因とは何か?
■2012年、混戦の背景
序盤のフライアウェイ4戦を終え、4人の勝者が誕生した2012年シーズンは、予選、決勝を通じて毎レース接戦が繰り広げられている。
その主な要因は2つあるとされる。ひとつはここ数年レギュレーションに大きな変更がないことだ。現在のマシンは2009年に大幅なリセットがかけられてから年々熟成されてきたもので、2年連続ダブルタイトルを獲得しているレッドブルの躍進は、この大変革期に生まれた「RB5」の素性の良さをベースにしている。そのレッドブルも今年は、抜群の空力性能を「エキゾースト・ブロウン・ディフューザー(EBD)」の事実上の禁止でスポイルされ苦戦をしいられており、後方集団に吸収されてしまっているのが実情だ。
そして今年のGPを予測困難なものにしているのが、タイヤである。2年目のピレリタイヤは、初年度同様、レースをおもしろくするために“わざと”扱いづらいキャラクターを与えられており、各チーム、ドライバーは、タイヤの使い方、マシンセットアップに神経を集中しなければならなくなっている。
もちろん、そんなことは今に始まったことではないのだが、ピレリの難しいところは、パフォーマンスの低下が崖から落ちるように一気に訪れること、そしてタイヤが働いてくれる「幅」が狭いということにある。特に幅に関しては、安定して速く走れるタイヤ温度はおよそ80〜100度の間と局所的で、これより低過ぎるとグリップしなく、高くなるとオーバーヒートしてデグラデーション(タレ)がひどくなるという。タイヤに必要十分な熱を入れそれをキープする、というのは言うほど簡単ではなく、複雑なマシンセットアップに加え、レース中なら徐々に減るガソリン量や、気温や路面温度という外的要因も影響を及ぼす。
■シューマッハーのピレリ批判
このデリケートなピレリタイヤにかみついたのが、7度タイトルを取った大ベテラン、メルセデスのミハエル・シューマッハーだった。前戦バーレーンの後に「一番よくないと感じるのは、タイヤ(の性能)を維持するために、ドライバーが自らの技量やマシンのリミット以下で走らなければならないということだ」とコメント。「僕が問いたいのは、タイヤがそれほどの重要性を持つべきなのか、あるいはもっとタイヤを長持ちさせて、セーフティーカーの後ろをクルーズするような走りではなく、通常のレーシングカーのスピードでドライブできるようにするか、ということだよ」とピレリ批判をぶちまけた。
対するピレリは、「シューマッハーの発言を受けたところで、タイヤに関するアプローチを変えることはない」と明言した。
オーバーテイクが難しいという昨今のF1の悩みを、タイヤ側から解決する方法として考えられたのが今のピレリタイヤである。実際に戦うドライバーやチームにしてみたら厄介者であっても、誰が勝つかわからないという予測不能なレース展開は、見る側には魅力的に映っているはずである。
しかし、タイヤに振り回されっぱなしもどうか、という意見もいっぽうで正論に聞こえる。例えばスペインGPでは、予選でQ3に進出しながらタイムアタックをしなかったドライバーが3人いた。1人はマシントラブルで出走できなかった小林可夢偉だが、残る2人は、チャンピオンのセバスチャン・ベッテルとシューマッハー。ともにレースに向けてタイヤを温存したいがための選択だった。
レースでは、タイムもライフも異なる硬軟2種類のタイヤをめぐり、各陣営が神経をすり減らしているのも事実だ。全力で走りたいが、タイヤがいつ性能を落とすかわからない状況でペースを抑えざるを得ない、タイヤをいたわらなければならないことも多々ある。
開幕戦ウィナーのジェンソン・バトン(マクラーレン)に始まり、フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)、ニコ・ロズベルグ(メルセデス)、ベッテル(レッドブル)、そして今回初優勝を遂げたパストール・マルドナド(ウィリアムズ)。5人のドライバーと5台のマシンに共通する「勝利の法則」は見えづらい。タイヤのご機嫌いかんで1位にも10位にもなってしまう、そんなレースだとしたら、それは果たして見るに値するのだろうか?
■ウィリアムズのマルドナド、初ポールポジション
予選での“事件”は、セッション終了から数時間後に起きた。Q3でベストタイムをマークし、今季3度目のポールポジションを獲得したルイス・ハミルトンのマクラーレンがそのポジションを剝奪され、最後尾24番グリッドに降格となったのだ。
アタックを終えたハミルトンは、チームからの無線でピットへ戻る途中マシンをコース脇に止めたのだが、レギュレーション上は自力での走行で戻ることが義務づけられていた。マクラーレンは、検査用に残すべき燃料が足らなくなることを危惧して止まるよう指示を出したととられ、違法だと判断された。
これで予選2位のドライバーがポールシッターに格上げされたのだが、それが近年下降線をたどってきたウィリアムズに乗る、スポンサー付きのいわゆる“ペイ・ドライバー”と思われていたベネズエラ人、GP2年目のマルドナドだったのだから周囲は驚いた。マルドナドはフレッシュなタイヤをQ3に温存し、1発の速さで並みいる強豪を相手に自身初ポールポジションを決めてみせた。
フロントローには母国で気合の入るアロンソが並び、好調ロータスのロメ・グロジャン、キミ・ライコネンがあとに続いた。
■マルドナド、アンダーカット成功
スタートでトップに立ったのはアロンソ。マルドナドは2位に落ち、ライコネンが3位、6番グリッドのロズベルグ4位、グロジャンが5位でオープニングラップを終えた。
首位アロンソは2位マルドナドを引き離すまではいかず、序盤は1秒から3秒の間隔をキープ。3位にはライコネンがつくが、周回が進むにつれて、優勝争いはトップ2台に絞られていった。
この2台に転機が訪れたのは、3ストップのうちの2回目のピットインだった。66周レースの25周目、マルドナドは前をいくアロンソを抜くために先手を打ってピットに駆け込み、そしてアウトラップで好タイムをたたき出した。いっぽうで周回遅れに引っかかったアロンソは27周目にタイヤ交換。コースに戻ると順位は逆転していた。ウィリアムズはいわゆるアンダーカットに成功したことになる。
1位奪還に成功したマルドナドは、一時は2位アロンソに7秒もの差をつけたが、そのギャップはアロンソの踏ん張りで徐々に狭まり、49周目にはいよいよDRSが利用できる1秒内に突入した。
ウィリアムズ・ルノー対フェラーリ。1990年代に戻ったかのような対決は、DRSとKERSを駆使して襲いかかるフェラーリに、ウィリアムズが打ち勝つことで幕切れとなった。最終スティントではアロンソのペースが落ち、3秒以上のマージンを築いたマルドナドが、自身24戦目で初勝利を手にすることができた。そしてF1の表彰式で初めてベネズエラ国歌が流れた。
■予想していなかった展開
創設者フランク・ウィリアムズの70回目の誕生会が盛大に行われたGPウイークに、チーム114回目の勝利をプレゼント。ウィリアムズにとってまたとない結果となったことは言うまでもない。
BMWとのエンジンパートナーシップにピリオドが打たれた2005年末から、一気に中堅、そして下位グループの仲間に入ってしまった名門は、資金難に加え、フランクとともにチームの柱となっていたパトリック・ヘッドや、技術部門の若きリーダー、サム・マイケル、今年になって会長のアダム・パーなど主要メンバーの離脱などに見舞われ、先行きを不安視する声も聞かれた。
しかし、コンストラクターズチャンピオンシップ9位という絶不調で終わった昨シーズンから一転、今季型「FW34」は安定して速く、表彰台も夢ではないポテンシャルを秘めていた。……それでも、まさかポディウムの頂点に立つとは、誰も予想していなかったに違いない。
そして、レース後のセレブレーションで盛り上がっていたであろうウィリアムズのガレージで、火災が発生するなどということも、誰も想像していなかったはずである。
原因はまだ定かではないが、何らかの爆発で火の手が上がり、負傷者も出ているという。せっかくの祝宴に水を差すかっこうとなってしまったようだ。
次戦はモナコGP。決勝は5月27日に行われる。果たして6戦目に6人目の勝者が誕生するのか?
(文=bg)
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