第2戦マレーシアGP「ジャイアント・キリング」【F1 2012 続報】
2012.03.26 自動車ニュース【F1 2012 続報】第2戦マレーシアGP「ジャイアント・キリング」
2012年3月25日、マレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第2戦マレーシアGP。開幕戦を制したマクラーレンでもなければ、チャンピオンのレッドブルでもない、意外な面々による優勝争いは、読めない天候という難敵が潜むマレーシアならではのものだった。
■跳ね馬にのしかかるプレッシャー
フェラーリは勝たねばならない──。ワールドチャンピオンシップが始まった1950年から現在まで参戦を続けるただひとつのチームは、ドライバーズタイトル15回、コンストラクターズタイトル16回という輝かしい成功に裏付けされた、常勝という大きなプレッシャーを背負っている。
そのプレッシャーが、今年ほど重くのしかかったシーズンもないだろう。8勝しコンストラクターズチャンピオンとなった2008年以来、ランキング4位、3位、そして昨年も3位と頂から遠のいている。2011年はフェルナンド・アロンソが1勝をおさめたのみで、ライバルのレッドブルやマクラーレンに水をあけられた。
スクーデリアは猛省を促された。そして導き出されたのが、チームがあらゆる面でコンサバティブに過ぎたということだった。その反省から生まれたのが、昨年解任されたイタリア人のアルド・コスタに代えて、元マクラーレンのチーフエンジニア、イギリス人パット・フライに開発を任せ誕生した今季型「F2012」だ。
王者レッドブルがトレンドセッターとして導入したリアサスペンションのプルロッド化を、なんとフロントでも取り入れた唯一のマシンであり、その他サイドポッドやインダクションポッドなどと同様に、空力特性を最大限に意識した意欲作である。しかし、大胆な賭けにはリスクが伴うもの。冬のテストでは読めないマシンの挙動に、名手フェルナンド・アロンソをもってしても熟成ままならず、そのまま開幕戦を迎えた。
オーストラリアGPは、アロンソが予選12位から決勝5位、フェリッペ・マッサに至っては16番グリッドからリタイアという結果。5位10点を獲得できたのは、アロンソの力量によるところが大きい。
数日を経て行われたマレーシアGP。予選ではアロンソが無事Q3に進出するも9位、マッサは12位。先週からマシンが改善したわけはなく、フェラーリはマクラーレン、レッドブル、そしてメルセデスやロータスにも先を越されてしまっていた。
■ザウバーの厳しい事情
2009年シーズンを最後にF1から撤退したBMWは、2つの“お土産”を置いていった。ひとつは、2000年から2005年までエンジンサプライヤーとして関係を持ったウィリアムズチームの“没落”。もうひとつは、チームごと買収し2006年から主(あるじ)として振る舞いながら、2009年限りでその責務を放棄したことで、路頭に迷うこととなったザウバーの“苦悩”である。
BMWを失ったザウバーは、以前と同様、スイスに本拠を置くペーター・ザウバーのプライベートチームとして参戦を継続した。BMWザウバーだった2008年はコンストラクターズランキング3位、ドイツ・スイス連合最後の年は6位、2010年は8位とズルズル後退。昨年は小林可夢偉、セルジオ・ペレスのコンビでシーズン序盤に重ねたポイントが奏功し7位という順位で終えることができた。
しかし、このチームの台所事情は厳しい。ライバルがシーズンをかけてマシン開発の手を緩めないのに対し、ザウバーはそのキャッチアップができない。結果、素性のいいマシンをつくっても通年で戦闘力を維持できず、2011年にはシーズン終盤に6位の座をフォースインディアに奪われてしまった。
今季型「C31」は、やはり基本がしっかりしたマシンだった。開幕戦は小林6位、ペレス8位と幸先の良いスタートを切ったが、例年の失速に加え、今年はシーズンオフ中にこのマシン開発を指揮したテクニカルディレクター、ジェームズ・キーがチームを去るという事態に見舞われており、不安も残る。2012年は、ザウバーにとって、しっかりしたチームづくり=資金づくりのためにも重要なシーズンなのだ。
このように、それぞれ大きなプレッシャーにさらされるフェラーリとザウバーが、マレーシアGPの主役になるとは、レース前、誰が想像できたろうか?
フェラーリは十分に巨人だが、マクラーレンやレッドブルを打ち負かす2つのチームは、今回、見事に「ジャイアント・キリング」をやってのけた。そのきっかけは、熱帯のマレーシア特有の、予測が難しい雨だった。
■0.4秒内に8台、接戦の予選
予選Q3の結果をみれば、オーストラリアGPと同じような顔ぶれが、同じような場所に並んだことになる。
ルイス・ハミルトンがポールポジションを獲得、ジェンソン・バトンが2番手につき、マクラーレンが2戦連続でフロントローを占拠。そしてメルセデスのミハエル・シューマッハーが復帰後の予選最高位となる3位につけ、ロータスのキミ・ライコネンは5番手タイム(ギアボックス交換のペナルティーでここから5グリッド降格)と好調さを顕示し、またレッドブルはマーク・ウェバー4位、セバスチャン・ベッテル6位と勢いがなかった。
だが、1位から8位までの差が0.4秒しかないという接戦状態であることを忘れてはならない。そしてオーストラリアがそうであったように、レースではまた別の側面が顔を出すこともある。
気温30度以上、高温多湿なセパンの気候で、2年目のピレリタイヤがどれだけもつのか? そして気まぐれな土砂降りは訪れるのか否か? 不確かなファクターをはらみながら迎えた決勝日は、スタート前から雨に見舞われていた。
■ザウバーが下した「英断」
レース前のコースは、場所によりウエットな部分とそうではない部分が点在する状態。各車浅い溝のウエットタイヤ=インターミディエイトを履いてスタートが切られると、今回はハミルトンがバトンを2位に従えてトップのまま最初のターンに飛び込んだ。
3位を争う6番グリッドのロメ・グロジャンのロータスとシューマッハーが接触しスピン。かわりにレッドブルのウェバー、ベッテルが3位と4位にあがり、アロンソが5位で続いた。
徐々に雨脚が強まるなか、ザウバーは早々に英断を下す。ペレスを56周レースの2周目にピットに呼んで、より本格的なウエットタイヤに履き替えさせたのだ。これが奏功したことで、ペレスの奇跡的な2位好走が実現できたのである。
4周もするとペレスのペースは、まだインターミディエイトを履く上位よりも3秒も速いことがわかり、各車続々とピットへとなだれ込んだ。
7周目、路面状況が悪化したことでセーフティーカーが導入、程なくして赤旗が振られてレースは一時中断となり、セーフティーカー先導で再開されるまで約50分を要した。
この時点での順位は、1位ハミルトン、2位バトン、3位ペレス、4位ウェバー、5位アロンソ、そして6位ベッテル。4周してセーフティーカーがピットに戻ると、全車が装着していたフルウエットからインターミディエイトに路面が適していると判断され、バトンやロズベルグらがすかさずタイヤ交換に向かった。
翌周ピットに飛び込んだトップのハミルトンはピットアウトで出遅れて、バトンとアロンソに先行を許した。しかし程なくして開幕戦ウィナーのバトンは、HRTを抜く際に痛恨のミスをおかし、フロントウイングを壊しピットインを余儀なくされ優勝争いから脱落した。
ペレスは、アロンソやハミルトンよりも長くコースにとどまった末にインターに履き替えると、この2人を越してトップに立った。しかしすぐさまアロンソが抜き返し、1位アロンソ、2位ペレス、3位ハミルトンという、ゴールまで続くことになる序列がここでできあがった。レースはまだ序盤、16周目のことだった。
■ペレス、トップのアロンソに肉薄
荒れたコンディションがもたらした首位に、アロンソは喜んでばかりいられなかった。その後6秒ものマージンを築くことに成功したフェラーリに、ペレスのザウバーが食らいつき、路面が乾きはじめると跳ね馬の劣勢はいよいよ顕著に、そしてザウバーのペースはフェラーリのそれをしのいでいった。
ペレスはレース中のファステストラップを次々と更新し、32周目には6.7秒あったアロンソとのギャップを、39周目には1.3秒にまで縮めた。40周を前にドライタイヤにスイッチするドライバーが現れ、速いとわかると、せきを切ったように各車がドライに交換し始めた。41周目に首位アロンソが、42周目にペレスとハミルトンがピットストップを終えると、トップ3は再び同じ順位でレース終盤に突入するのであるが、3位ハミルトンは前の2台からどんどん離され、2位ペレスは1位アロンソをどんどん追いつめるのであった。
43周目に5.7秒あったアロンソとのギャップは、45周で3.9秒、47周で1.8秒、そして48周では1秒を切り、ペレスはDRSが使えるゾーンに入った。ザウバーがフェラーリをオーバーテイクするのも時間の問題か、と思われた50周目、ペレスの一瞬のミスがコースオフを起こし、両車の差は再び5.4秒まで離れた。
■「番狂わせ」を起こす方、起こされる方
最後まで諦めなかったペレスだったが、最終的に2.2秒差で2位に甘んじた。今年2シーズン目を迎えたペレスは、自身最高位を記録した後、「勝つことは可能だった」と堂々と語った。通常なら、優勝目前の重圧からより大きなミスをおかしても不思議ではなかったはず。フェラーリ入りがうわさされる22歳のメキシカンは、間違いなくマレーシアでヒーローとなった。
いっぽうウィナーのアロンソは、それほど楽観できる状況にはいない。「チームにとってすばらしい結果だった。Q3もよい結果で、今日のようなひどいコンディションでも落ち着きをキープしていた。チームに感謝しているし、彼らの働きは勝利に値するね」と振り返りながらも、「Q3進出のため、数ポイントのために戦うような、そういう“いたくはないポジション”にわれわれはいるんだ」と、ドライでは依然問題山積みであることを忘れてはいなかった。
やはりフェラーリは、ジャイアント・キリングという「番狂わせ」を起こす方ではなく、起こされる方がふさわしい。スクーデリアの精神的支柱を担うスペイン人は、その責任を誰よりも重く受け止めている、そんな表情をしていた。
次戦は、2週連続開催から少し間をあけ、4月15日に行われる中国GPとなる。
(文=bg)
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