第8戦イギリスGP「新たなタイヤ問題」【F1 2013 続報】
2013.07.01 自動車ニュース ![]() |
【F1 2013 続報】第8戦イギリスGP「新たなタイヤ問題」
2013年6月30日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第8戦イギリスGP。メルセデスのニコ・ロズベルグが今季2勝目を飾ったレースは、頻発する左リアタイヤのバーストに各陣営が戦々恐々とする異様な展開となった。
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■極秘タイヤテスト、玉虫色の決着
その裁定は、政治的にもっとも無難な道が選ばれたことを示唆していた。
5月にメルセデスとピレリが極秘に行ったとされるタイヤテストを受け、6月20-21日の2日間にわたって開かれた国際法廷は、今季型マシンを使ったメルセデスのレギュレーション違反を認め、同チームを戒告処分とするとともに、7月のヤング・ドライバー・テストへの参加禁止を通告。そしてピレリにも、戒告というおとがめを与えた。
F1に参戦し続けている数少ない自動車メーカー、メルセデスの機嫌を損ねるわけにはいかないし、多大な労力とコストを負担としながら何かと難しい立場に追いやられている唯一のF1タイヤサプライヤー、ピレリを怒らすことも避けたい。レッドブルやフェラーリといったライバルチームの不満は無視できないが、一方で国際自動車連盟(FIA)の仕切りの悪さも否定はできない……さまざまな思惑が交錯した結果、「カタチだけは懲罰する」という着地点が用意されたということだろう。
この玉虫色の裁定に、ライバルチームも納得のいかないコメントを出してはいたが、メルセデスが裁定を受け入れたことで、ひとまずケースは閉じることとなった。しかし、透明性を守りながら重要なタイヤ開発をどう進めていくかという課題は、引き続きF1界に残されている。
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■ベッテル契約延長、ウェバーはF1に別れ
メルセデスの一件が落着したところに、今度はチャンピオンチームからのビッグニュースが待っていた。
過去3年間の全タイトルを獲得しているレッドブルは、6月11日、セバスチャン・ベッテルとの契約を1年延長し2015年末までとすることを発表した。現在4連覇に向けてまい進中のワールドチャンピオン残留は意外なことではなかったが、5年もの間ベッテルとタッグを組み、レッドブルの躍進に貢献してきたマーク・ウェバーが今季限りでF1を去るというニュースは、パドックに衝撃を与えた。
イギリスGP目前の6月27日、ウェバーは来季からポルシェに移り、ルマンを中心とした世界耐久選手権に参戦することを明らかにした。
レッドブルのなかでは、ベッテルとの関係性から度々難しいポジションに置かれていたウェバー。今季第2戦マレーシアGPでのベッテルのチームオーダー無視をはじめ、ベッテル、ウェバー、チームの三者には難しい場面も見られたが、一方で3連覇の陰には“マシン開発にたけた、勝てるドライバー”としてのベテラン、ウェバーの存在が欠かせなかった。
レッドブル(F1)に残るも、そこから出るも、ウェバーの決断次第といわれていたが、チームとの関係以外にも、今年8月に37歳となることや、来季からF1が新レギュレーションとなること、「純粋な速さだけでは勝負できない」という昨今のレーススタイルなど、ウェバーの背中を押した要素はいくつか思い当たる。
もちろんポルシェのルマン挑戦にも大きな魅力はある。2014年からルマン最上位クラスLMP1に復帰する名門チームには、F1におけるレッドブルがそうであったように、開発能力と強さを兼ね備えたドライバーが必要なのだ。
これまでGP9勝、ポールポジション11回という記録を残しているオーストラリアン。メディアへの率直な物言いと豪快なドライビングは、F1ではあと12戦しか見られなくなった。1つ空いた常勝チームのシート争いとともに、目を離すわけにはいかなくなった。
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■メルセデス、今季3回目のフロントロージャック
話はサーキットに移る。高速コースであるシルバーストーンで奮起したのはメルセデス勢。土曜日に行われたトップ10グリッドを決める予選Q3では、今季最速マシン(ただしタイヤに厳しく1勝どまり)の実力を如何なく発揮し、ハイスピードターンを削り取るように走り抜け、今年3回目のフロントロー独占に成功した。
今回の最速ドライバーは、地元で息巻くルイス・ハミルトン。僚友ニコ・ロズベルグに0.452秒という大差をつけ、2010年に改良されたレイアウトでのコースレコードを塗り替えて、自身今季2回目のポールポジションを獲得した。
2列目にはレッドブルの2台が並び、ベッテル3番グリッド、前年のウィナー、ウェバーは4位。好調フォースインディアのポール・ディ・レスタが5番手タイムを記録したが、セッション後に重量違反で予選失格が言い渡され最後尾となってしまった。かわって5位には、来季のレッドブル入りを狙う、姉妹チームのトロロッソのひとり、ダニエル・リチャルドが入った。
フォースインディアのエイドリアン・スーティルが6番グリッド、苦しむロータス勢が続き、ロメ・グロジャン7位、ウェバーの後釜最有力候補といわれるキミ・ライコネンは8位からレースを組み立てることとなった。
一番の苦境に立たされたのがフェラーリだ。選手権でベッテルに36点もの先行を許しているランキング2位のフェルナンド・アロンソ。タイトルを争う宿敵の前でゴールしギャップを切り崩したいはずが、9番グリッドという後方からの追い上げを余儀なくされてしまった。今季「中団グループの一員」というポジションが定着してしまったマクラーレンは、母国の声援を受け、ジェンソン・バトンが10番グリッドを得た。
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■相次ぐタイヤの破裂
ピレリは「新型タイヤを少なくともハンガリーGPまでは投入しない」と決めており、ここイギリスでも従来と変わらぬ(ただし剥離[はくり]の問題には対処した)ミディアムとハードの2種類が持ち込まれた。タイヤがレースの行方を左右するということは何も今回に限ったことではないが、レース中これほどまでタイヤが破裂した例が今まであっただろうか。
スタートでトップの座を守ったポールシッターのハミルトンは52周レースの8周目、マッサはその2周後、トロロッソのジャン=エリック・ベルニュは15周目、そしてマクラーレンのセルジオ・ペレスはゴール目前の46周目に、まるで腕利きのスナイパーに狙われたかのように、同じ左リアタイヤをバーストさせた。ベルニュのバーストの後に最初のセーフティーカーが導入され、派手に破裂し飛び散ったパーツの清掃が行われた。
原因はレース後の詳細な検証まで待たなければならないが、高速コース特有の高負荷や温度といった条件、さらに縁石でタイヤが傷ついたことなどが疑われており、あまりのバースト頻発に各チーム「縁石を踏むな」との指示を出したほどだった。
ハミルトンの脱落でトップに立ったのが、スタートで2位にジャンプアップしていたベッテル。ロズベルグが2位からチャンピオンを追ったが、両車の間には2~3秒程度の適度なギャップが築かれ、ベッテルがレースをコントロールしているかに見えた。
だが41周を終えようとした時、ベッテルのレッドブルは突如失速。ギアボックスのトラブルでリタイアをきっしたのだった。
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■ウェバー、アロンソのスリリングな猛追劇
コース途中に止まったベッテルのマシンを排除するため、再びセーフティーカーの出番となった。ここでアロンソ、ロズベルグ、ウェバーが3度目にして最後のピット作業に向かったのだが、最適なタイミングでタイヤを換えたのは首位を守れたロズベルグだけ。ウェバーは3位から5位、アロンソは4位から8位に落ちてしまった。
46周目にレースが再開し、残り7周のスプリントレースが始まった。ウェバーはすかさずリチャルドを抜き4位となると、程なくしてスーティルをかわし3位、そして作戦ミスにより3度目のタイヤ交換ができなかったライコネンからは2位の座を奪った。いよいよ照準はトップのロズベルグに向けられたがそこでタイムアップとなった。
わずか0.7秒差で2位に甘んじたウェバーだったが、鈍いスタートとその直後の接触で15位まで落ちたのだから、この挽回には及第点以上があげられるだろう。
一方のアロンソも、ベッテル無得点という絶好のチャンスを逃すわけにはいかないとばかりに奮闘。鬼気迫るオーバーテイクで見事3位表彰台を獲得した。また首位走行中にタイヤ・バーストの最初の餌食となったハミルトンも4位まで復活することができた。
ポイントリーダーのベッテルが無得点となったことで、ランキング2位のアロンソとの差は21点にまで減り、ベッテルに傾きかけていたタイトル争いは幾分接戦状態に戻った。サマーブレークまでの残り2戦のうちにこのギャップをできるだけ縮め、後半戦に希望をつなげたいアロンソ&フェラーリ陣営だが、今回はライバル脱落の末の“あまりに幸運なポディウム”だっただけに、この先の展開に不安は残る。
しかし、不安といえばピレリタイヤの方だ。タイヤにまつわるこの新たな問題は、最優先されるべき安全性を揺るがす。250~300km/hの速度で走るマシンが突如制御不能になる危険性を鑑みれば、今回重大事故が起こらなかっただけ幸運と思った方がいい。原因を早急に突き止め、対策を取ることが求められている。
次戦は7月7日に行われるドイツGP。2つのサーキットで隔年開催の同GP、今年の舞台はニュルブルクリンクだ。
(文=bg)