第9戦ドイツGP「母国の英雄、悲願の価値ある勝利」【F1 2013 続報】
2013.07.08 自動車ニュース ![]() |
【F1 2013 続報】第9戦ドイツGP「母国の英雄、悲願の価値ある勝利」
2013年7月7日、ドイツのニュルブルクリンクで行われたF1世界選手権第9戦ドイツGP。トリプル・ワールドチャンピオン、レッドブルのセバスチャン・ベッテルが、強敵ロータスからのプレッシャーに屈することなく、うれしい母国初優勝を飾った。この1勝は、前戦リタイアに終わったことで減少したアドバンテージを取り戻す意味でも、価値ある勝利となった。
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■タイヤ・バースト騒動に揺れた1週間
前戦イギリスGPレース中に続発したタイヤ・バーストの問題に関連して、ドイツGPまでのわずか数日の間にさまざまな動きがあった。
まず一番気になるバーストの原因だが、タイヤサプライヤーのピレリは、チーム側が正しくタイヤを使わなかったことに起因するとの考えを発表した。具体的には、少しでもアドバンデージを得るために(1)リアタイヤを左右逆に履いていたこと(いわゆる「タイヤの裏組」)、(2)空気圧をかなり低く設定していたこと、(3)極端なキャンバー角だったことを挙げ、これに外的要因として(4)シルバーストーンの縁石がタイヤに負荷をかけたため、タイヤのショルダー部が耐え切れなくなりタイヤ破裂が頻発したという。
ピレリの強い勧めを受け、国際自動車連盟(FIA)は、タイヤ左右交換の禁止とピレリ推奨の空気圧・キャンバー角の厳守をドイツで各チームに通達。またピレリはドイツGP用に、カナダGPでテストした暫定仕様のリアタイヤを用意した。コンパウンドは変わらないが、今年から採用された内部のスチールベルトを、実績のある前年までのケブラーに戻した。さらに次のハンガリーGPには、前年のタイヤコンストラクションに今年のコンパウンドを組み合わせた新型を投入することも明らかになった。
一方でドライバーは揺らいだ安全性に強い危機感をあらわにした。ドライバーによる団体、グランプリ・ドライバーズ・アソシエーション(GPDA)は、ニュルブルクリンクで同じようなバーストが起こった場合、レースをボイコットする可能性もあると表明した。
原因はどうあれ、ピレリにとっては一連のバースト騒動でパブリックイメージ、企業の信頼感が著しく傷つけられたようにも思えるが、実際の事態は好転しているとみることもできる。F1タイヤを手掛ける唯一のメーカーは、チームやドライバーやFIAからの協力を受けやすくなったからだ。
タイヤを扱いづらくしレースをおもしろくするという、F1界の総意を受けてつくられたのが、2011年にカムバックしたピレリの現行タイヤである。しかし言うは易しで、多種多様なコース、マシン、天候に合った、100%狙い通りのタイヤをつくることは至難の業である。積極的に開発テストを行いたいがチームは協力的ではなく、仕様変更にも各陣営で意見がまとまらず、一部チームやドライバーからはタイヤに文句をつけられる始末。しかもシーズン中に最新型マシンで走ることは御法度とされている。
今回の騒動により、ピレリはFIAからルール面で後押しを得た。上記の左右交換禁止などに加え、7月中旬のヤング・ドライバー・テストでレギュラードライバーのタイヤテストが認められた。またチームからも、シーズン最終戦ブラジルGP後に来季のタイヤテストを行わないかというアイデアも出てきている。
タイヤの問題が発端になった最悪のケースは、2005年アメリカGPだろう。ミシュランタイヤの安全性に問題が発覚、レースにはブリヂストンユーザー6台しか出走しないという異常事態が起こったのだが、この時はタイヤメーカーやチーム、FIAで折り合いがつかず、ファンを裏切る結末を迎えてしまった。
幸いにして今回は、協調的な枠組みのなかで解決策が模索されようとしているようにみえる。実際、ニュルブルクリンクでは平穏な、しかしいつも以上の激しい、タイヤの戦いが行われていた。
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■ハミルトン、2戦連続のポールポジション
市販車の開発テストでも有名なノルドシュライフェ(北コース)を擁するニュルブルクリンクは、近年の再開発事業の失敗から昨年破産しており、一時はF1開催も危ぶまれたのだが、何とかGPが開かれるようになった。
土曜日の予選では、ポールポジション候補の一人、前戦ウィナーのニコ・ロズベルグが作戦ミスによりQ2敗退という波乱が起きたが、そのチームメイトであるルイス・ハミルトンがQ3で2戦連続、今季3度目のポール奪取に成功した。
続く予選2位にはセバスチャン・ベッテル、次いでマーク・ウェバーのレッドブル2台が並び、1週間前のイギリスGP同様、メルセデス対レッドブルという構図が浮かび上がった。しかし、メルセデスにはタイヤのデグラデーション(タレ)という不安が残っていた。
4番グリッドにはキミ・ライコネン、その後ろにはロメ・グロジャンのロータスがつけ、ここのところ調子を上げているトロロッソのダニエル・リチャルドが健闘して6番手タイムを記録した。
フェラーリは予選上位を諦め、レースに照準を合わせたようだ。今回ピレリが持ち込んだのはソフトとミディアムの2種類だが、フェラーリは多くがQ3で履いた“速いが短命な”ソフトではなく、ロングランで安定したミディアムを装着しタイムアタック。フェリッペ・マッサが予選7位、フェルナンド・アロンソは8位に着けた。この戦法でマクラーレンのジェンソン・バトンは9位。そしてザウバーのニコ・ヒュルケンベルグが10番グリッドから決勝にのぞむこととなった。
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■ベッテル首位、グロジャンは5位から2位に躍進
快晴の決勝日は、気温26度、路面温度45度と例年になく暑いニュルブルクリンクとなった。それはつまり、タイヤに厳しくマシンにとっては難しい状況であることを意味していた。
ポールシッターがそのポジションを維持できたのはわずか数秒だけ。シグナルが変わるとハミルトンのメルセデスは、内からベッテル、外からウェバーにあっという間に先を越され3位に転落した。ハミルトンは予想されたタイヤのタレがひどくペースを上げることができず、上位返り咲きならず。最終的に5位でレースを終えた。
早々に完成した首位ベッテルとウェバーのレッドブル1-2だったが、こちらも長続きはしなかった。ソフトタイヤ勢が続々とピットへ飛び込み始めた頃、60周レースの9周目にタイヤ交換をしたウェバーは、ホイールが締まり切らないうちにマシンをスタートさせて脱輪、外れたタイヤがテレビクルーに当たってしまった。ウェバーはガレージに戻されてからコースに復帰するも最後尾まで落ち、優勝戦線から脱落した。
最初のピットストップを終えた時点で、ベッテルが首位をキープ。そしてソフトを13周まで持たせたグロジャンが5位から2位へと躍進していた。ロータスが快調なラップタイムを刻んでいたものの両車のギャップは2秒程度で安定していたのだが、レース半ばに起きた“珍事”によるセーフティーカー導入で、戦況は大きく変わった。
24周目、後方集団の一員だったジュール・ビアンキのマルシャがエンジンを派手にブローさせ、火を噴きながら上り坂の途中のコース脇にストップした。ドライバーは慌ててコックピットを飛び出したが、しばらくして無人となったマシンはよろよろと坂道を下りコースへと戻っていった。幸い何事も起こらなかったが、マシン排除のためセーフティーカーが29周まで出動した。
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■ライコネン、残り11周でソフトタイヤに賭けるも時間切れ
このセーフティーカーで得をしたのはウェバー、損をしたのはグロジャンだった。まずウェバーは、1周遅れが帳消しとなりトップと同一周回となったことで、後半はオーバーテイクショーを披露してビリから7位まで挽回することができた。
一方の2位グロジャンにとっては、真後ろにチームメイトのライコネンが接近したことで命運が大きく変わった。
40周で3度目にして最後のタイヤ交換を済ませたグロジャンはミディアムを履いてコースに復帰。翌周トップのベッテルもミディアムに交換すると、その間ライコネンが3位から首位へとポジションを上げ、周回を重ねたタイヤで勢いよく飛ばし始めた。
ライコネンとベッテルの差は15秒程度。このままロータスが優勝をさらうことも夢ではなかったが、ライコネンは49周でピットへ飛び込み、最後の11周をより速いソフトタイヤでの追い上げに賭けた。
1位ベッテル、2位グロジャン、3位ライコネンの3台はやがて一団となり、55周目、ロータスはライコネンを先行させ優勝を狙いにいった。ベッテルとの差は2.5秒。このギャップが2.1秒、1.6秒、1.2秒と着実に縮まり、ファイナルラップでは1秒を切るほどにまで詰まったが、ライコネンには時間が足らなかった。
数々の記録を打ち立てているベッテルは、どうしても勝てなかった母国GP、そして7月開催のGPを初めてとった。その勝ち方は得意の「先行逃げ切り」ではなく、強敵ロータスを何とか抑えての辛勝ではあったが、この勝利により、前戦の無得点で失ったアドバンテージを取り戻すことができた。
157点でポイントリーダーの座を守るベッテル、ランキング2位のアロンソとの差は21点から34点に拡大した。苦戦続きのフェラーリのエースを尻目に、ライコネンが同41点差でタイトル争いに食い込んでいる。
次戦はサマーブレイク前の最後のレース、ハンガリーGP。決勝は7月28日に行われる。
(文=bg)
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