第203回:「驚き」こそがランボの流儀
ランボルギーニの開発責任者、マウリツィオ・レッジャーニ氏に聞く
2013.09.27
エディターから一言
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300万ユーロ(約4億円)の限定モデルを発売したり、翼のない戦闘機を思わせるモノポストのスーパースポーツカーを披露したりと、このところランボルギーニの創造性は、向かうところ敵なしといった感じだ。新型「ガヤルド」(車名は「カブレラ」か?)の登場が近いとウワサされるなか、同社の研究・開発部門でディレクターを務めるマウリツィオ・レッジャーニ氏に、猛牛が荒ぶるワケを聞いた。
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パワー・ウェイト・レシオこそがカギ
――早速ですが、われわれは次期「ガヤルド」について関心があります。
お話しできることはごくわずかですよ。
――ありがとうございます(笑)。では、まずエンジンについておうかがいします。いま、V型10気筒エンジンについてどうお考えですか? 2003年にガヤルドが発表になった当時、フォーミュラワンのエンジンもV10で、ある種のファッションでもありました。
問題はシリンダーの数ではありません。スーパースポーツカーに関する現在の問題は、排ガス、税制、CO2排出に関するルールに従いながら、どうやってブランドのDNAを守っていくかです。
理想を言うなら、スーパースポーツカーにとってベストの選択は自然吸気エンジン。それも、シリンダーの数は可能な限り多いほうがいい。これは本音です。しかし将来、規則が厳しくなればなるほど、おそらくターボチャージャーが装着されたり、気筒数が減らされたり、場合によってはハイブリッドカーになるなんてことがあるかもしれません。でもわれわれは、“スポーティヴネス”とベストの妥協を図らねばならない。可能な限り、パフォーマンスとエモーションというランボルギーニのDNAを守らねばならないのです。
――ランボルギーニにとって、キーテクノロジーのひとつはカーボンです。次のスモールランボはどうなりますか?
次のスモールランボについてはコメントできませんが、言えることはパワー・ウェイト・レシオはランボルギーニのすべてのモデルにとって基本だということ。車重を可能な限り低く抑えなくてはなりません。
数年前に、われわれはマニフェストを発表しました。パワー・ウェイト・レシオは将来のスーパースポーツカーのカギであり、重量はパワーよりも重要です。このマニフェストがわれわれの柱であり、すべての車両開発の基本となっています。
――ギアボックスについてはどうですか? 現在、依然としてシングルクラッチのシーケンシャルトランスミッションが使用されています。次のステップはデュアルクラッチということになりますか?
新型車についてはお答えできませんが、われわれはマーケットでベストの技術を追いかけています。クラッチがシングルであるか、デュアルであるか、あるいはトリプルであるかどうかは問題ではありません。スーパースポーツカーの将来にとってベストの解決策を採用します。
そして、エモーショナルなシフトスピードを実現し、重量、そして車両レイアウトやパッケージを考慮しなければなりません。重要なことは、車両全体で見てベストはなにか、ということです。
「驚き」を与えなくてはならない
――ポルシェがフォルクスワーゲン・コンツェルンに加わりました。同じコンツェルンに属するランボルギーニにとって、なにか影響はありますか?
われわれは技術、生産、品質にとどまらず、あらゆる観点について、なにが世界で最高のやり方かを議論しており、異なる経験からくるすべてのものを歓迎します。また同時に、ポルシェとはコンセプトについての議論を共有することになります。その理由は、正しい戦略や“正しい違い”というものを、異なるブランド間で維持するためです。こういったことはスーパースポーツカーの世界では、今後ますます重要になるでしょう。
――それは、あなたにとって良いことですか?
イエス。ほかのブランドとの競争に勝てなければ、生き残ることはできません。内部での競争のおかげで、外部のスーパースポーツブランドとランボルギーニとの違いがくっきりとします。
――ところで、ランボルギーニの創立50周年記念、あらためて、おめでとうございます。パーティーの席でステファン・ヴィンケルマンCEOは、「ランボルギーニはエクストローディナリー(extraordinary)であり続けます」とスピーチしました。この「エクストローディナリー」とはなんですか?
私にとってエクストローディナリーとは「ワオ!」、すなわちランボルギーニを見たときに、世界中で発されなければならない言葉です。だれも思いもかけなかったものを提供する。だれも予想していなかったものでショックを与える。これまで「アヴェンタドールJ」「エゴイスタ」などのコンセプトカーや、スペシャルモデルの「ヴェネーノ」を発表しましたが、これらはすべての人々がランボルギーニに期待しているものから、ある意味で“遠いもの”だったのではないでしょうか。
――美的観点からはどうですか? これはあなたの責任範囲ではありませんか?
いや、私の責任です。デザインは車両開発にとって重要です。デザインはブランドがどうあるべきかにかかわるからです。未来のトレンドを予測することにもなります。デザインは、ランボルギーニとって最も重要な側面のひとつです。
ランボルギーニの新しいデザイン言語は、あらゆる面で“ランボルギーニであり続けるもの”でなくてはなりません。すでに誰かが決めたものの後追いであってはならない。サプライズをあたえなければならないのです。
例えば、4ドア4シーターの「エストーケ」、あるいはSUVの「ウルス」といったコンセプトカーを発表したとき、われわれはできる限り、デザイン言語を変えました。エクストローディナリーであるためにです。エストーケやウルスのようなクルマはだれも期待していなかったはずです。ランボルギーニのデザイン言語の新しい翻訳に、だれもが驚いたことと思います。
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グループの相乗効果を活用する
――SUVのウルスのプラットフォームは、「フォルクスワーゲン・トゥアレグ」や「ポルシェ・カイエン」と同じものでしょうか?
プラットフォームは問題ではありません。フォルクスワーゲングループのプラットフォームを使うとしても、ウルスはほかのブランドのSUVとは違う能力を持っています。ウルスのようなSUVは誰もが製造したい。でも年産は3000台から4000台という少量です。こういうクルマをつくるには、フォルクスワーゲンのような大グループのハイレベルな経験をできる限り使うべきでしょう。もちろん、そのプラットフォームの上に、われわれのスペックで車両を構築するので、オリジナルも同然になります。こうなると、そもそもプラットフォームとはなにか、という問題にもなってきます。
――ずばり、次に何が起きますか?
明日、なにかが起きるとしても、それには4年の歳月が必要です。本日からはじめてもパイプラインから出るのは4年後になります。いま言えるのは、パイプラインには、将来に向けて非常にたくさんのアイデアとコンセプトが詰まっている、ということだけです。
――最後の質問です。好きなクルマを教えてください。
もし1台だけ選ぶのであれば、「ミウラ」ですね。魅力的でセクシーで、しかも革新的なエンジニアリングがある。まさに傑作です。これ以上の内容をもつクルマを見たことはありません。
――私はミウラを運転したことがないのですが、「ミウラは美しいけれど、運転するとそれほど良くない」という声もありますね。
それは現代の目で見ているからでしょう。1960年代のクルマを運転すると、なんてむずかしいんだと、あらためて驚きます。ステアリングにもクラッチにもブレーキにも、アシストシステムは使われていません。すべてが純粋なメカニカルアクションです。一方で、現代のクルマだと、どんな操作をしてもサーボアシストがついています。いまのクルマは“60年代の現実”からは、まったくもって遠いのです。
ですからいま、当時のクルマに乗ると、「なんだこれは!?」となるのも無理はありません。ミウラは、キーをスタートしてからエンジンを止めるまで、自分自身で扱うクルマ。顔を洗って、あらためて乗ってみれば、こう思うはずです。「これぞミウラだ」と!
(インタビュー=今尾直樹/写真=ランボルギーニ)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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