第851回:「シティ ターボII」の現代版!? ホンダの「スーパーONE」(プロトタイプ)を試す
2025.11.06 エディターから一言2026年発売の「スーパーONE」にいち早く乗る
ホンダは秋口になるとほぼ毎年、「技術ワークショップ」を開催してくれる。ホンダの開発分野におけるさまざまな進捗(しんちょく)状況を公開してくれる催しで、われわれにとっては情報のアップデートの場として大変重宝する。2025年はジャパンモビリティショー(JMS)の会期中だったにもかかわらず栃木の試験場に招いてくれて、JMSで初公開したばかりのモデルの試乗まで用意してくれた。
JMSのホンダブースは、「ホンダ0シリーズ」の3兄弟や再使用可能な「ホンダ・サステイナブルロケット」など、多彩な出展物で埋め尽くされていたが、「Super-ONE Prototype(スーパーONE プロトタイプ)」も注目を集めたモデルのひとつだった。これは軽自動車の「N-ONE e:」をベースに前後のオーバーフェンダーを架装したもので、2026年から日本のみならずアジアや英国での販売を予定しているという。往年の「シティ ターボII」をちょっと想起させるこれが本当に発売されるの? という市場の疑心暗鬼を払拭させる目的もあったのかもしれない。ワークショップのプログラムには「試乗」が組み込まれていた。
スーパーONE プロトタイプのオーバーフェンダーはオプティカルチューンではなく、前後トレッドの拡大による操縦安定性の向上という機能性も備えている。また、電気自動車ならではの、ソフトウエアによるパワートレイン特性の改変により、専用の「BOOST」モードを設定。出力をアップしてBEVのパワートレインのポテンシャルを余すことなく引き出すという。加えてこのモデルの最大の特徴は、仮想有段シフト制御とアクティブサウンドコントロールの連動による、トランスミッションを備えたエンジン車を運転しているかのような演出にある。
BEVであることを忘れてしまう
仮想と現実の融合は最近のホンダが積極的に取り組んでいる技術で、「プレリュード」に搭載される仮想有段シフト制御の「S+シフト」もそのひとつ。プレリュードのハイブリッド機構はトランスミッションを持たないがエンジンはあるので、“エンジン回転数”の制御はリアルだが、スーパーONE プロトタイプはBEVなのでエンジンは存在しない。にもかかわらず、メーターパネルには仮想のエンジン回転数やギア段が表示されるようになっている。
運転してみると、これが単なる視覚的演出だけではないことが分かる。ギアチェンジ時の軽いシフトショックやダウンシフト時のブリッピング、あるいはレブリミットに当たった際のフューエルカットまで見事に再現されていた。だから運転しているうちにこのクルマがBEVであることをいつしか忘れてしまい、室内ではドライバーがキャッキャしながらドライビングに没入してしまう。けれど、室外から見ると1台の電気自動車(BEV)が静かにスーッと走っているだけという、なんともシュールな光景となる。
これらはすべてギミックであり、通常の走行よりも(楽しくてアクセルペダルを必要以上に踏んでしまうため)バッテリーの減り具合は早いだろうから、BEVのそもそもの存在意義と照らし合わせるとそこに矛盾が生じていることは否めない。ただ、クルマから享受される「運転を楽しむ」は確かにそこにあって、ここまで見事にだましてくれるなら、こういうのもアリだなと思ってしまった。サイズは軽自動車規格外となるし、そこそこの価格にもなるだろうけれど、一定の需要は見込めるかもしれない。
次世代ホンダ車はボディー剛性を“落とす”
もう1台、試乗が許されたのは次世代の中型プラットフォームとハイブリッドシステムを使ったテスト車だった。これらは2024年のワークショップでお披露目された技術だが、試乗するのは今回が初めてとなる。ちなみに、ホンダが言う「中型」とは「シビック」や「アコード」クラスのサイズを指すそうだ。
このプラットフォームは、軽量化(現行のハイブリッド車比で約90kgの減量)のみならず共用化が容易なモジュラーアーキテクチャーになっているなど、将来的にさまざまなホンダ車に流用できる点が特徴だが、「新操安剛性マネジメント」と呼ばれる新しい発想が採用されている。これは簡単に言えば、特にフロントのボディー剛性を部分的にあえて落とす(=軽量化にもつながる)ことで、コーナリング時にボディーがしなってタイヤへの荷重をコントロールし、接地性の向上を図るというもの。実際に運転してみて、ターンイン時にフロント部がしなやかに動きながらロール、そしてヨーが発生する感触はあったものの、それがどれくらいボディーのしなりに起因しているのかは正直よく分からなかった。エンジニアによれば、ボディーは基本的にいつも狙いどおりにしなるそうだが、例えば経年変化にも対応できるのかどうかなど、未知数の部分もある。
個人的にはそれよりも、ステアリングとペダルの位置がより最適化された点に興味を引かれた。特にステアリングは、これまでよりもドライバーに正対する角度になっていて、操作性が向上していた。分かりやすい技術革新も重要だけれど、こうした地味な改良がクルマにとっては必要不可欠だったりもするのである。
(文=渡辺慎太郎/写真=本田技研工業/編集=藤沢 勝)

渡辺 慎太郎
-
第875回:キモは氷上性能! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「ウインターマックス アイスプロ」を試す 2026.7.1 違いは氷の上で表れる! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX ICE-Pro(ウインターマックス アイスプロ)」に、冬の北海道で試乗。氷上性能を徹底的に追求したという新製品の、パフォーマンスの一端に触れた。
-
第874回:自動運転からワイパーまで! 自動車を支えるメガサプライヤー ボッシュのあくなき挑戦 2026.6.27 世界屈指のメガサプライヤー、ボッシュが開発中の新技術を披露! 市街地での高度な運転支援技術に、日本の方言にも対応した対話型AI、サーキット走行のノウハウを教えてくれるコーチング機能等々……興味深いその中身をリポートする。
-
第873回:ウエット路面に強み ミシュランの新タイヤ「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」を試す 2026.6.19 2026年1月29日に導入が発表されたミシュランの新製品「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」。これまでの特徴に加え、低燃費性能や耐摩耗性、ウエットグリップ性能のアップをうたう両モデルの走りを、クローズドコースで確かめた。
-
第872回:「フォレスター」がJNCAPで最高評価を獲得! “安全”に対するスバルの不断の取り組みに迫る 2026.6.6 相対速度100km/hの衝突後でも、普通にドアが開く!? 人気のSUV「スバル・フォレスター」が、日本の自動車アセスメントで最高評価を獲得した。安全なクルマづくりを第一とするスバルの取り組みを、群馬製作所で行われた衝突試験デモの様子とともにリポートする。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
NEW
アウディA6 TDIクワトロ150kW(4WD/7AT)【試乗記】
2026.8.5試乗記歴史的にも車格的にも、アウディの中核に位置している「A6」。その最新モデルが日本に導入された。往年の「100」から数えて9代目となる新型は、いかなる走りを備えているのか? 既存の車種とは一味違う、新時代のアウディのドライブフィールを報告する。 -
NEW
16年ぶりのフルモデルチェンジ 新型「日産エルグランド」の価格は妥当か?
2026.8.5デイリーコラム実に16年ぶりのフルモデルチェンジで登場した新型「日産エルグランド」。その価格は「X e-4ORCE」の689万7000円からとなっているが、はたしてこの設定は買い得なのだろうか。グレード間の装備差やライバル車との比較を通じて検証した。 -
NEW
第123回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(後編) ―ライバル比較で浮き彫りになる日産デザインの底力―
2026.8.5カーデザイン曼荼羅日産ひさびさの話題作となっている新型「キックス」だが、盛況なコンパクトSUV市場は競合ひしめくレッドオーシャン! ライバルと比較しても、キックスのデザインは埋もれない逸品と言えるのか? カーデザインの識者とともに、日産デザインの実力に迫る。 -
「売れるクルマ」と「いいクルマ」にズレがあるとき、開発者がつくりたいのはどっち?
2026.8.4あの多田哲哉のクルマQ&A「いいクルマが売れるとは限らない」などといわれるが、「売れるクルマ」と「いいクルマ」が一致しないとき、エンジニアが目指したいと思うのはどちらなのか? 元トヨタの車両開発者である多田哲哉さんに聞いてみた。 -
第341回:「スカイアクティブZ」は大丈夫か
2026.8.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「マツダCX-5」で出撃した。マイルドハイブリッドのパワートレインと進化したシャシーが織りなす走りを確かめつつ、ディーゼルエンジンがラインナップから消えた3代目CX-5について考えた。 -
MINIクーパーSEポール・スミスエディション(FWD)【試乗記】
2026.8.3試乗記人気のプレミアムコンパクト「MINI」に、特別なデザインが魅力の「ポール・スミスエディション」が登場。著名なファッションブランドがコーディネートしたMINIは、クルマに疎い人も、ブランドに疎い人も魅了する、説得力のある装いの一台に仕上がっていた。






































