第7戦カナダGP「意外性に富んだ週末」【F1 2014 続報】
2014.06.09 自動車ニュース ![]() |
【F1 2014 続報】第7戦カナダGP「意外性に富んだ週末」
2014年6月8日、カナダはモントリオールのジル・ビルヌーブ・サーキットで行われたF1世界選手権第7戦カナダGP。前半は今年幾度も見られた“メルセデス必勝パターン”で、シルバーアロー同士のマッチレース。そして後半、最速マシンにトラブルが起きると、勝負の行方はまったく分からなくなった。レッドブルのダニエル・リカルドが初優勝を飾ったレースは、カナダGPらしい意外性に富んだ展開となった。
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■フレンドシップとスポーツマンシップ
ともに1985年生まれ。かたや10代でマクラーレンに見初められこの強豪チームでF1デビュー、それから2年で世界チャンピオンになったシンデレラ・ストーリーを地で行くイギリス人。こなた1982年の世界王者ケケを父に持ち、その血筋を生かして着実に最高峰カテゴリーまでステップアップしてきたドイツ人──少年時代からモータースポーツの世界で切磋琢磨(せっさたくま)してきたルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグが、今年6戦して4点という僅差で覇を競い合っている。
王座をかけた椅子取りゲームに勝つためには、フレンドシップよりもスポーツマンシップ。スポーツである以上、たとえ友人であってもライバルはライバルだ。F1が機械のみならず人間同士の競技なら、そこに感情の行き違いがあっても何ら不思議はないし、むしろそのドラマを含めてこのスポーツの魅力ともいえる。
前戦モナコGPの予選Q3で、ロズベルグが“故意に”ハミルトンの邪魔をしようとコースオフしたのではないかという疑惑が浮上した。一歩間違えればフレンドシップやスポーツマンシップを超えて単なるゴシップに陥ってしまいがちな話題だが、今季メルセデスの独走が揺るぎないものであれば、この2人の関係性に多くの注目が集まってしまうのは仕方がない。チームメイトへ疑いの目を向けたハミルトンはモナコで2位、ロズベルグは2年連続となる勝利を収めた。
カナダGPまで、2人の緊張感を和らげようとする言動が当事者周辺から漏れ伝えられたが、それでもコースに出ればメルセデスは最速マシンで、今年この2人のどちらかが戴冠の栄誉に輝く可能性は極めて高い。つまりは、どうやっても張りつめた空気をなきものとすることはできない状況だ。
ちょうど四半世紀前の1989年、マクラーレンのアイルトン・セナとアラン・プロストが関係を悪化させ、シーズン終盤の日本GPで接触事故を招いたことがあったが、この問題で一番頭を悩ませたのは、おそらく当代きってのトップドライバーを擁するチームであったはずである。
メルセデスの首脳陣たちは、ドライバー同士の関係はドライバーたちに任せる、というスタンスのもと、引き続き両者に自由な戦いを約束した。ハミルトンとロズベルグ、三十路(みそじ)目前の当人たちの一挙手一投足が、スポーツマンシップとフレンドシップとゴシップのそれぞれの割合を決めていくことになる。
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■ロズベルグ、ハミルトンの“庭”でポールポジション
ハミルトンにとって、デビューイヤーの2007年に初優勝したカナダは特別な場所。通算3勝、ポールポジション3回を記録するモントリオールは彼の“庭”ともいえたが、そこでポールを奪ったのが最大のライバルであるロズベルグだった。フリー走行、予選Q1、Q2とトップタイムをマークしていたハミルトンを、Q3に入るとわずか0.079秒差で抑えてしまったロズベルグのアタックラップは圧巻の一言。これにはハミルトンも素直に負けを認めざるを得なかった。
今年4回目のメルセデス最前列独占の後ろには今回もレッドブルがつけたが、3番グリッドに並んだのはセバスチャン・ベッテルの方。今年これまでチャンピオンチームをけん引してきたダニエル・リカルドは予選6位に甘んじた。
ウィリアムズの健闘が光り、バルテリ・ボッタス4位、フェリッペ・マッサ5位。フェラーリのフェルナンド・アロンソはトップ6に挑めず7番手、ジャン=エリック・ベルニュのトロロッソは8位、ジェンソン・バトンのマクラーレン9位、そしてキミ・ライコネンのフェラーリが10位につけた。
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■レース前半は、いつも通りのメルセデス同士の戦い
この70周のレースは、前半と後半とでまったく違った様相を呈した。
最初のパートは、今年幾度も見られた“メルセデス必勝パターン”。スタートでこそロズベルグがもたついたおかげでハミルトンが割を食い、ベッテルのレッドブルに2位の座を奪われたが、オープニングラップ中にマルシャの2台が接触しセーフティーカーが出番を迎えると、再スタート後、早々とロズベルグ、ハミルトンのメルセデス1-2に戻った。
以降トップ2台の間には最大2秒程度のギャップが築かれたが、2ストップのうち最初のピットストップを終えた後から差は縮まり、24周目にはDRSが作動できる1秒以下まで接近した。
レースは折り返しを過ぎ、メルセデス同士の僅差の攻防戦は意外な展開を見せ始める。1位ロズベルグと2位ハミルトンが2台ともパワーロスを訴え、後続の2秒落ちというペースで周回せざるを得なくなった。
今年からERSとして進化した回生システムの不具合がメルセデスの2台にそろって発生。オーバーヒートによりこの電気ブースト機構をなくしたため、内燃機関のみの、他車より160馬力足らない状態での走行となったのだ。
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■見る見る崩れていくシルバーアローの牙城
このレースのクライマックスは後半戦に訪れた。
45周目、鈍い車速のままトップを何とか走るロズベルグが2度目のピットストップ。コースに戻ると、直前に16秒後方にいた3位マッサに先行を許した。そして翌周、暫定首位だったハミルトンがタイヤを交換すると、開幕以来守り続けてきたメルセデスのリードラップ記録が途絶え、ウィリアムズのマッサが首位に立った。
見る見る崩れていくシルバーアローの牙城。46周目にハミルトンはヘアピンほか各所でコースを外れがちになった。ストップ・ゴーを繰り返すコースで一番厳しいブレーキが音をあげスローダウン、ハミルトンは開幕戦に次ぐ今季2度目のリタイアを喫した。
マッサがピットへ飛び込んだことで再び1位の座に返り咲いたロズベルグだったが、それまでの余裕はまったくない。50周を過ぎ、1位ロズベルグのDRS圏内につけたのは、1ストップで上位に食らいつこうとするフォースインディアのセルジオ・ペレス。さらにリカルドのレッドブルが3位、ベッテル4位、そしてフレッシュタイヤで追い上げてきた5位マッサまでが数珠つなぎとなった。
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■リカルド、残り2周でトップを奪う
壁に囲まれて抜きにくいモントリオールでの超接近戦。残り5周、ブレーキに問題を抱えていたペレスをリカルドが抜き、レッドブルは2位に。勢いに乗るリカルドは、残り2周でついにロズベルグをかわし首位に立つと、自身初優勝がいよいよ間近となった。
その直後、3位にベッテルが上がると、4位を争っていたペレスとマッサが接触。2台が激しくターン1のウォールに突き刺さったことでこの日2度目のセーフティーカーが出動となり、レースはこのままチェッカードフラッグを迎えた。
かつて、このサーキットの名前にもなったカナダの英雄ジル・ビルヌーブが、またティエリー・ブーツェンやジャン・アレジ、ハミルトンやロバート・クビサがここで味わった、初めての勝利の美酒に、チャンピオンチームに移籍してきたばかりの24歳のオージーが酔いしれた。
メルセデスは開幕戦のハミルトン以来となるメカニカルトラブルを起こし、勝てるレースをふいにした。そして、ストレートスピードが遅く勝ち目がないだろうと思われていたレッドブルに突如勝機が舞い込んだ。
カナダでは何かが起こる。予想だにしなかった、意外性に富んだ展開も、またF1の魅力のひとつなのである。
次戦は2003年を最後にカレンダーから姿を消していたオーストリアGP。決勝は6月22日に行われる。
(文=bg)