第12戦ベルギーGP「勝ち方を覚えたリカルドと、メルセデスの難題」【F1 2014 続報】
2014.08.25 自動車ニュース ![]() |
【F1 2014 続報】第12戦ベルギーGP「勝ち方を覚えたリカルドと、メルセデスの難題」
2014年8月24日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたF1世界選手権第12戦ベルギーGP。夏休みを挟んでの2戦でレッドブルのダニエル・リカルドが連勝。その一方で最速メルセデス勢は、実現できたはずの1-2フィニッシュを“同士打ち”という最悪の事態で逃した。
![]() |
![]() |
■王者の不調と、新参者の好調の背景
パワーユニットが自然吸気エンジンからターボ・ハイブリッドへと代わり、メルセデスが独走状態。ニコ・ロズベルグとルイス・ハミルトンがタイトル獲得をかけて激しい火花を散らし、その後方ではウィリアムズがフロントランナーとして復活……今季すっかり様変わりしたF1にあって、もうひとつ大きな変化を挙げるとすれば、チャンピオンのセバスチャン・ベッテルが不調にあえいでいることであろう。
2013年に4年連続のチャンピオンとなったベッテル。昨季後半戦の破竹の9連勝は、ベルギーGPから始まった。誰にも止められなかったその勢いは、しかし2014年シーズンに入ってから見る影もなくなり、過去11戦でいまだ勝利なし。一方でメルセデスに対しパフォーマンスのハンディを背負いながらも、レッドブル新加入のダニエル・リカルドは2勝。この時点で、ドライバーズチャンピオンシップでリカルド3位(131点)、最高位が3位のベッテルはそれから43点も離されて6位に沈んでいた。現在コンストラクターズランキング2位のレッドブルが集めたポイントの6割はリカルドがもたらしたものだ。
ベッテルの4連覇には、レッドブルの技術面のトップ、エイドリアン・ニューウェイが手がけた「RBシリーズ」の特徴が大きく影響しているといわれる。ニューウェイはエキゾーストの流れを上手に使い、ボディー後方で強力なダウンフォースを発生させるコンセプトを追求。ベッテルはリアがしっかりと路面に押しつけられたマシンをアグレッシブにコントロールすることで速さをものにしていた。
レギュレーションが変わった今季は、排気口の高さが制限され路面から遠ざかり、さらにリアのビームウイングも禁止されたため、後部のダウンフォースが大きく削られた。さらに電気ブースト機構「KERS」は今年「ERS」に進化し、より積極的に減速時に発電する仕組みを採用したためブレーキングの感覚が変わったこともある。これらのマシンの変化に順応できないでいるのがベッテル、逆にうまく手なずけ、さらにパフォーマンスを引き出せているのがリカルドというわけである。
リカルドや、ランキング5位のバルテリ・ボッタスら、新たな勢力の台頭を前に存在感が薄まるチャンピオン。ベルギーGP前には、来季レッドブルのジュニアチームであるトロロッソからマックス・フェルスタッペンが17歳でGPデビューすることも発表された。多くの最年少記録を塗り替えてきた27歳のベッテルだが、世代交代を認めるにはまだまだ早すぎる。
過去2勝しているベルギーで復活の糸口を見つけたい王者だったが、結果は皮肉にも、勝ち方を覚えつつあるチームメイトの優勝というカタチになった。
![]() |
■ロズベルグ、4戦連続のポールポジション
サマーブレークを終えいよいよ後半戦に突入したF1は、屈指のドライバーズ・サーキット、スパ・フランコルシャンにやってきた。
土曜日の予選は、変わりやすい天候“スパ・ウェザー”のおかげでセッション開始前に1周7kmのコースが一瞬雨雲に覆われ、ウエットコンディションの中行われた。
予選Q3で最速だったのはメルセデス駆るポイントリーダーのロズベルグ。最初のタイムでトップ、2回目のアタックでもそのポジションを守り切った。これで今季7回目、4戦連続でポールポジションを獲得したことになる。
2番グリッドは、11点差でロズベルグを追うハミルトン。1回目のフライングラップでラインを外すミスをおかし、最後の1周に賭けたが、ポールには0.228秒及ばなかった。ブレーキに問題を抱えてのアタックだったという。
メルセデスがフロントローを占めることは大方の予想通りだったが、パワーコース、スパで強力なメルセデス・ユニットの恩恵を受けられたはずのウィリアムズが苦戦。ボッタス6位、フェリッペ・マッサ9位と期待はずれのポジションに収まった。
一方でベッテルが3位、フェルナンド・アロンソ4位、リカルド5位、キミ・ライコネン8位と、非力なルノー・ユニットのレッドブル勢とフェラーリ勢がメルセデスの後ろにつけた。だが1位ロズベルグと3位ベッテルの間には2秒以上もの開きがあり、ウエットとはいえシルバーアローの独走っぷりがうかがえた。
ケビン・マグヌッセン7番グリッド、ジェンソン・バトン10番グリッドと、マクラーレン・メルセデスの2台がトップ10に名を連ねた。
![]() |
![]() |
■メルセデスの同士打ちで予想外の展開に
決勝はドライながら、日の光と弱い小雨が混在した、まさにスパならではといった天候で始まった。シグナルが変わると、2番手のハミルトンがトップを奪い、ベッテル2位、ロズベルグは一気に3位に落ちた。パワーのないルノーにむち打ち、ベッテルが今度はトップのハミルトンに襲いかかるが、長いケメル・ストレートを過ぎてレ・コームで止まり切れずコースアウト、再び3位に戻った。
44周レースの2周目に、早くも決定的な出来事が起きる。名物コーナーのオールージュから長いストレートを駆け抜け、トップのハミルトンの背後についたロズベルグだったが、直後にハミルトンのリアタイヤとロズベルグのフロントウイングが接触。首位走行中のハミルトンはパンク、トップに返り咲いたもののロズベルグもウイングにダメージを負ったままの走行をしいられた。
ハミルトンは長いコースの大半を3輪で走りピットへ。フロアにもダメージを負い、思うようにペースが上がらないまま、ポイント圏外であってもコースに残り続けた。ハミルトン自身は、エンジンの寿命を考え再三リタイアすることをチームに申し出たが、ピットの首脳陣はゴール目前までそれを許さなかった。ハミルトンが胸中穏やかでなかったことは想像に難くない。
6周目、1秒前後でロズベルグを追う2位ベッテルを、僚友リカルドがオーバーテイク。8周を終えメルセデスがノーズ交換のためピットに飛び込むと、リカルドが首位、2位ベッテルとレッドブルが1-2、ボッタスが3位、アロンソ4位、ロズベルグとハミルトンはポイント圏外と序盤から予想外の展開となった。
おおかたが2ストップと見られた今回、10周を過ぎると各車続々と最初のタイヤ交換に飛び込んだ。
15周目の上位5台は、1位リカルド、2位ライコネン、3位ベッテル、4位ロズベルグ、5位ボッタス。16周目の最終シケインでロズベルグがベッテルに仕掛けるがタイヤをロックさせ抜けずじまい。その直後、今度はボッタスがストレートで勝負に出てロズベルグをあっさりとかわした。ロズベルグはバイブレーションに悩まされ20周目に2度目のピットイン、3ストップへと作戦を変更。メルセデスの受難は続いていた。
その間、リカルドは敵なし状態でトップを快走し、レースの折り返し時点で、2位を走るボッタスに15秒近くのマージンを築いた。
![]() |
■勝ち方を覚えたリカルド
30周目、2度目のタイヤ交換を終えたリカルドが1位、3秒強離れて2位ロズベルグ。メルセデスは35周目に、ロズベルグに速いソフトタイヤを与えて終盤の猛チャージに備えさせた。4位でコースに戻ったロズベルグは、ボッタスとライコネンを立て続けにオーバーテイクし2位の座に戻り、いよいよ20秒前のトップ、リカルドを追いかけた。
38周で17.7秒あった2人のギャップは、39周で15.4秒に。以後、40周13.1秒、41周10.8秒、42周8.4秒、43周6.2秒、そしてファイナルラップでは4.3秒。結局3.3秒差でリカルドが逃げ切り、前戦ハンガリーGPから2連勝を飾った。
予選5位スタートから、メルセデスの混乱という好機を逃さず首位へ。ミスなく、タイヤも上手に扱い、そしてロズベルグからの猛追を受けながらも最終周ではしっかりパーソナルベストタイムをたたき出すこともできる。リカルドは勝つ方法を着実に身につけているようである。
一方、ここ2戦でレッドブル&リカルドにお株を奪われてきたメルセデス勢は、友軍相撃という最悪の結果で、十分実現可能だった1-2フィニッシュをふいにし、ロズベルグとハミルトン、さらにはチームとしての関係性が悪化しそうな気配に包まれている。(当然のことながら)ハミルトンはロズベルグのドライビングを「理解できない」と非難。ここにきてチーム首脳も、今回のロズベルグに対しては「軽い警告では済まされない」と強いメッセージを発し、2人に自由な戦いを許すポリシーを見直す可能性も示唆している。チャンピオンまっしぐらだったメルセデスで、極めて政治的な難題が顕在化しつつある。
次戦イタリアGP決勝は9月7日。その後はヨーロッパを離れ、シンガポール、日本とアジアを経て新開催地ロシアへ。アメリカ、ブラジル、そして11月23日の最終戦アブダビまで、今年残るは7戦となる。
(文=bg)