第17戦アメリカGP「ポイント差24点で残り2戦へ」【F1 2014 続報】

2014.11.03 自動車ニュース bg
F1第17戦アメリカGPの表彰台。優勝したのはメルセデスのルイス・ハミルトン(右から2番目)で、9月のイタリアGPから5連勝。2位にはハミルトンのチームメイトでランキング2位のニコ・ロズベルグ(一番左)、3位は同じくチャンピオンシップ3位につけるレッドブル駆るダニエル・リカルド(一番右)が入った。(Photo=Red Bull Racing)
F1第17戦アメリカGPの表彰台。優勝したのはメルセデスのルイス・ハミルトン(右から2番目)で、9月のイタリアGPから5連勝。2位にはハミルトンのチームメイトでランキング2位のニコ・ロズベルグ(一番左)、3位は同じくチャンピオンシップ3位につけるレッドブル駆るダニエル・リカルド(一番右)が入った。(Photo=Red Bull Racing)
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【F1 2014 続報】第17戦アメリカGP「ポイント差24点で残り2戦へ」

2014年11月2日、アメリカはテキサス州オースティンにあるサーキット・オブ・ジ・アメリカズで行われたF1世界選手権第17戦アメリカGP。7月以来遠ざかっていた優勝を、ポールポジションから目指したメルセデスのニコ・ロズベルグだったが、またしても宿敵ルイス・ハミルトンに完敗、佳境を迎えたタイトル争いはハミルトン優勢でフィナーレに突入しそうだ。
一方、コース外では、財政難に苦しむ下位チームからの問題提起にGPサーカスが大きく揺さぶられた週末となった。

予選でブレーキのロックに悩まされたハミルトン(写真)はロズベルグにポールポジションを奪われ、不利な偶数グリッドの2番手からスタート。レース序盤はロズベルグを追いながら、つかず離れずの距離で機が熟すのを待ち、タイヤをミディアムに替えた中盤にロズベルグをオーバーテイク、そのままトップでチェッカードフラッグを受けた。ロズベルグとの間に24点のマージンを築き、残るブラジル、アブダビに向かう。(Photo=Mercedes)
予選でブレーキのロックに悩まされたハミルトン(写真)はロズベルグにポールポジションを奪われ、不利な偶数グリッドの2番手からスタート。レース序盤はロズベルグを追いながら、つかず離れずの距離で機が熟すのを待ち、タイヤをミディアムに替えた中盤にロズベルグをオーバーテイク、そのままトップでチェッカードフラッグを受けた。ロズベルグとの間に24点のマージンを築き、残るブラジル、アブダビに向かう。(Photo=Mercedes)
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予選までは好調、しかしレースとなるとハミルトンに勝てない。今シーズン9回目のポールポジションを決めたロズベルグ(写真)は、ポイントリーダーでチームメイトのハミルトンが今季10勝目を挙げた後ろで、今年10回目の2位に終わった。24周目にハミルトンに抜かれた際、電気ブースト「ERS」にエラーがあり、うまくポジションを守りきれなかったというが、ライバルに対し負け越していることは事実である。(Photo=Mercedes)
予選までは好調、しかしレースとなるとハミルトンに勝てない。今シーズン9回目のポールポジションを決めたロズベルグ(写真)は、ポイントリーダーでチームメイトのハミルトンが今季10勝目を挙げた後ろで、今年10回目の2位に終わった。24周目にハミルトンに抜かれた際、電気ブースト「ERS」にエラーがあり、うまくポジションを守りきれなかったというが、ライバルに対し負け越していることは事実である。(Photo=Mercedes)
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5番グリッドからスタートで失敗、7位まで落ちたレッドブルのリカルド(写真手前)。すかさずケビン・マグヌッセン、フェルナンド・アロンソを抜き返し、さらには2列目のウィリアムズ勢もピットストップでかわし、今年8回目のポディウムにのぼった。(Photo=Red Bull Racing)
5番グリッドからスタートで失敗、7位まで落ちたレッドブルのリカルド(写真手前)。すかさずケビン・マグヌッセン、フェルナンド・アロンソを抜き返し、さらには2列目のウィリアムズ勢もピットストップでかわし、今年8回目のポディウムにのぼった。(Photo=Red Bull Racing)
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■F1の“格差問題”

今年で3回目を迎えたオースティンでのアメリカGPを前に、F1は、ケータハムとマルシャがほぼ同時期に管財人の管理下に置かれ、レースを欠場するという異常事態に見舞われた。資金難に苦しむこの2チームは、連続開催となる次のブラジルGPにも出られない可能性が高い。
ケータハム(元はロータスだが、現在ロータスを名乗るチームとは別)、マルシャ(旧ヴァージン)に、スペインを本拠としたHRTを加えた新興3チームは、2010年から最高峰カテゴリーへの参戦を始めたが、HRTは思うような結果を残せず3シーズンして撤退を余儀なくされ、今や残る2チームも存続の危機にひんしている状況である。

難局を迎えているのはこれらテールエンダーと呼ばれるエントラントだけではない。F1全体がある大きな問題に直面している。すなわち、強豪チームと中・下位集団との“格差問題”だ。

このスポーツを統括するFIA(国際自動車連盟)のジャン・トッド会長は2013年末、高止まりを続けるF1参戦コストを制限する「コスト・キャップ」を2015年から実施したい意向を発表。これを受けて「F1戦略グループ」が協議に入った。同グループはレギュレーションを決める上で重要な組織であり、ルールメーカーであるFIAと商業面の権利者であるFOM(F1マネージメント)、そして参戦者代表の6チームで構成されている。
4月、同グループのチーム側は「コスト・キャップは現実的ではない」という結論に至り、結局このアイデアは“お蔵入り”となったのだが、これに納得いかなかったのが中・下位チーム。ケータハム、マルシャ、ザウバー、フォースインディアはこの決定への不満を書面としてFIAに送ったと一部メディアで報じられた。これらのチームの主張は、「強豪チームに強い発言権が認められており、かつ商業的に得られる収益分配にも大きな偏りがあるのは、フェアではない」というものだ。

戦略グループに属する6チームは、最古参フェラーリをはじめ、レッドブル、マクラーレン、メルセデス、ウィリアムズ、そしてこれら以外でコンストラクターズランキング上位だったロータスと、ほとんどが資金力もあるトップチーム。さらにFOMから分配される賞金などの割り当ても、上位チームの方が手厚くされているという。これでは小規模チームは言いたいことも言えず、マシンのパフォーマンスを上げようにも先立つ資金も少なく、不公平ではないかということなのだ。

オースティン入りしたGPサーカスの中でも、立場によりこの格差問題への意見には温度差があった。“マイノリティー”である中・下位集団は危機的局面の打開を求め、ボイコットを主張するものも現れた。一方、既得権益層のトップチーム勢は、奥歯に物が挟まったようなはっきりしない物言いに終始した。

過去にどんな難しい状況も乗り切ってきたF1ビジネスのボス、バーニー・エクレストンも、今回の件については頭を抱えていた。収益分配の不平等については「私のせいだろう」と自らの責任を認め、克服のためには上位チームの協力が必要だとの考えを示したが、「何が間違いかは分かっているが、解決の方法は分からない」と具体的な打開策が語られることはなかった。

また今回欠場した2チームの復帰が見込めない場合、グリッドに並ぶマシンは18台まで減ることになる。出走が20台を切れば1チーム3台出走というオプションも出てくるのだが、3台目に誰が乗り、誰がどう追加コストを払うかなど、こちらも不透明な部分が多い。さらにこの2チーム以外にも資金難に追い込まれる予備軍もいるとされている。

今年、新時代ハイブリッド・ユニットでグリーンなイメージを打ち出したF1だったが、「最終戦でポイント2倍」という不評を買ったルールをはじめ、「エンジン音が小さ過ぎる」「レースがおもしろくない」など、関係者からのネガティブな発言が目立つ。
現在のF1の最大の問題は、サステイナビリティー(持続可能性)を担保しながら、F1を観客にどう楽しんでもらい、スポンサーにどう買ってもらうかの、長期的なプランやビジョンがないということ。今何よりも必要なのは、この危機を脱し、最高峰というポジションを堅持しようとする、強い意志を持ったリーダーシップではないだろうか。F1という巨大で強固だったスポーツビジネスから、ぎしぎしときしむ音が聞こえてくる。

テキサスといえはテンガロンハット、王者セバスチャン・ベッテルの頭には……。コースサイドのほほ笑ましいシーンだが、チャンピオンにとって昨年優勝したアメリカGPは厳しいものとなった。週末の前からルノーのパワーユニットを総交換、今年6基目を投入することが決まっており、使用制限数を超えたことでピットスタートのペナルティーを受けることに。序盤こそテールエンドからなかなか抜け出せずにいたが、4回もピットストップを行いながら徐々にポイント圏内まで順位を上げ、結果7位でゴールした。(Photo=Red Bull Racing)
テキサスといえはテンガロンハット、王者セバスチャン・ベッテルの頭には……。コースサイドのほほ笑ましいシーンだが、チャンピオンにとって昨年優勝したアメリカGPは厳しいものとなった。週末の前からルノーのパワーユニットを総交換、今年6基目を投入することが決まっており、使用制限数を超えたことでピットスタートのペナルティーを受けることに。序盤こそテールエンドからなかなか抜け出せずにいたが、4回もピットストップを行いながら徐々にポイント圏内まで順位を上げ、結果7位でゴールした。(Photo=Red Bull Racing)
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■ロズベルグが9回目のポールポジション

2014年シーズンはドライバーズチャンピオンをかけての戦いがいよいよ佳境を迎えている。残り3戦、今季は最終戦がダブルポイントなので、4戦分=100点の争奪戦である。
シーズン後半に入り4連勝、17点のリードを築いたポイントリーダーのルイス・ハミルトンと、流れを自らに引き寄せたいランキング2位のニコ・ロズベルグ。アメリカでもこの2人のメルセデス・ドライバー同士が静かに火花を散らしていた。

3回のフリー走行すべてでトップタイムをマークしたのはハミルトン。しかし予選に入るとロズベルグが主導権を握り始め、今年9回目のポールポジションを獲得した。
ハミルトンは0.376秒離されて2位。ブレーキがロックするという症状に悩まされ、このオースティンでは不利な偶数グリッドからレースを組み立てなければならなくなった。なおメルセデスにとっては、9戦連続のフロントロー独占となる。

2列目の定位置を占めたのはウィリアムズ・メルセデス勢で、バルテリ・ボッタス3位、フェリッペ・マッサは4位。最後のアタックでタイムアップを果たしたレッドブルのダニエル・リカルドが5番グリッド、フェラーリのフェルナンド・アロンソは6番グリッドにつけた。
7番手タイムはマクラーレンのジェンソン・バトンが記録したが、ギアボックス交換で順位は5つ下がり、チームメイトのケビン・マグヌッセンが繰り上がって7番グリッド。続いてフェラーリのキミ・ライコネン、そして今季初めてQ3進出に成功したエイドリアン・スーティルが並び、Q2敗退のロータス駆るパストール・マルドナドが10番グリッドを得た。

なお4年連続チャンピオン、セバスチャン・ベッテルのレッドブルはエンジン総交換を実施。これで年間使用数5基を超えたことになり、ピットスタートのペナルティーが科されることとなった。

マクラーレンのケビン・マグヌッセンは7番グリッドからスタートし、トロロッソのジャン=エリック・ベルニュやロータスのパストール・マルドナドらと激しい順位争いを繰り広げた。ベルニュ、マルドナドともレース中にペナルティーを受け後退、マグヌッセンは8位入賞を果たした。現在コンストラクターズランキング5位のマクラーレン、ライバルで6位のフォースインディアには24点のギャップを築いている。(Photo=McLaren)
マクラーレンのケビン・マグヌッセンは7番グリッドからスタートし、トロロッソのジャン=エリック・ベルニュやロータスのパストール・マルドナドらと激しい順位争いを繰り広げた。ベルニュ、マルドナドともレース中にペナルティーを受け後退、マグヌッセンは8位入賞を果たした。現在コンストラクターズランキング5位のマクラーレン、ライバルで6位のフォースインディアには24点のギャップを築いている。(Photo=McLaren)
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■ハミルトン、レース中盤にトップを奪い5連勝

今回ピレリが用意したタイヤは、昨年のミディアム&ハードから変更され、やわらかいソフト&ミディアム。多くがソフトを履いて決勝をスタートした。
シグナルが変わるとロズベルグが蹴りだしよくトップを守り、ハミルトンは2番手のまま、ウィリアムズ勢はマッサ、ボッタスの順番で、サーキット・オブ・ジ・アメリカズの特徴的な上り坂のターン1へ進入した。一方後方集団では、セルジオ・ペレスがスーティルを巻き添えにクラッシュ。破片がコース上に散らばったため、オープニングラップからセーフティーカーの出番が回ってきた。

18台が16台に減って、56周レースの5周目に再開。トップのロズベルグはファステストラップで逃げ、2位ハミルトンも1秒前後の間隔でプレッシャーをかけた。13周目にフロントタイヤが寿命を迎えていることを無線でチームに伝えたロズベルグは、直前にリードを2秒強まで広げて、15周を終えてピットに飛び込み、翌周ハミルトンもこれに続いた。両車ともソフトからミディアムに変更したレース中盤、優勝争いに動きが出ることになる。
メルセデスの2台は、2秒半程度から20周を過ぎると1秒台、23周目にはDRS圏内に突入し0.7秒まで接近。そして24周目、長いバックストレート後のターン12でハミルトンはロズベルグのインを突き、見事オーバーテイクを成功させた。

首位に立ったハミルトンはすぐさま1秒以上のリードを築き、2位に転落したロズベルグにDRSを使わせなかった。そして最終的にロズベルグに4.3秒差をつけて、自身初の5連勝を達成したのだった。

今季10勝目、通算で32勝目を挙げたハミルトンは、ナイジェル・マンセルを抜き史上最多勝イギリス人ドライバーに。だが、ライバルのロズベルグにほぼ1勝分の24点差をつけ、2度目のタイトルにまた一歩前進したことこそ、何よりの戦果だったろう。

「序盤から走りのリズムをつかめなかった」「調子が戻った時は既に遅すぎた」とレースを振り返ったロズベルグは今年10回目の2位。タイトル争いで逆転するためには、7月のドイツGP以来遠ざかっている勝利、そしてハミルトンの不運が必要とされている。彼にとっての救いは、レースは残り2戦だが、最終戦がダブルポイント、つまり実質3戦分=最大75点のポイントがまだ残されているということだろう。

ルール作り、賞金の分配など強豪チームに有利な構造となっているのはおかしい――ケータハムとマルシャが資金難に陥り管財人の管理下に置かれレースを欠場したことを受け、小規模チームが声をあげ、コスト削減とその制限のルール化や、分配の是正を訴えた。しかし、メルセデスのビジネス面を代表するトト・ウォルフ(写真)をはじめとするビッグチーム側は「それでは問題は解決しない」というスタンスを示している。F1“格差問題”、解決の糸口はどこにあるのか?(Photo=Mercedes)
ルール作り、賞金の分配など強豪チームに有利な構造となっているのはおかしい――ケータハムとマルシャが資金難に陥り管財人の管理下に置かれレースを欠場したことを受け、小規模チームが声をあげ、コスト削減とその制限のルール化や、分配の是正を訴えた。しかし、メルセデスのビジネス面を代表するトト・ウォルフ(写真)をはじめとするビッグチーム側は「それでは問題は解決しない」というスタンスを示している。F1“格差問題”、解決の糸口はどこにあるのか?(Photo=Mercedes)
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■リカルド、今年8回目の表彰台に

既にロシアGPでコンストラクターズチャンピオンを決めているメルセデスは、1988年にマクラーレンが打ち立てた年間記録に並ぶ、10回目の1-2フィニッシュを達成。その後ろで表彰台の最後の一角にのぼったのは、速さと勝負強さを兼ね備えたレッドブルのリカルドだった。

予選5番手からスタートで失敗、一気に7位まで順位を落としたものの、オープニングラップのうちにマグヌッセンを抜き、再スタート直後にはアロンソをもオーバーテイク、すぐさま5位の座を取り戻した。そして前を走るウィリアムズの2台をタイヤ交換のタイミングでかわし、最終的に3位表彰台をものにした。

今年何度も見られたように、このオーストラリア人ドライバーは、勝負の仕掛けどころをしっかり押さえたレース運びで優勝や上位入賞をやってのける。
このレースで、数字上はタイトル争いからは脱落。もともと今年のチャンピオンになれる可能性は低かったが、それはリカルドが駆るレッドブル&ルノーのパワーユニットがメルセデスに対し明らかに劣勢だっただけで、決して彼自身の実力が劣っているとは誰も思っていないだろう。

アメリカ大陸での2戦目は11月9日に行われるブラジルGP。これが終わると、いよいよ残るは11月23日のアブダビGPのみとなる。

(文=bg)

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