第4戦バーレーンGP「王者の貫禄勝ちの裏で」【F1 2015 続報】
2015.04.20 自動車ニュース ![]() |
【F1 2015 続報】第4戦バーレーンGP「王者の貫禄勝ちの裏で」
2015年4月19日、バーレーン・インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第4戦バーレーンGP。シーズン序盤のフライアウェイ最後にメルセデスのルイス・ハミルトンが今季3勝目を挙げ、チャンピオンはタイトル防衛の足固めを着々と進めている。しかしその裏では、フェラーリの挑戦とメルセデスの応戦が繰り広げられていた。
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■フェラーリ優勝の余波続く
第3戦中国GP、2位に終わったニコ・ロズベルグが優勝したチームメイトのルイス・ハミルトンを名指しで批判したことで「またもやメルセデスのチーム内紛勃発(ぼっぱつ)か?」と色めき立ったF1は、わずか数日のうちに中東バーレーンへとその舞台を移した。
上海でのレース後に行われたチームミーティングを終えると、メルセデスのビジネス面を統括するトト・ウォルフは「事態は収束した」とコメント。ロズベルグが主張した、ハミルトンがわざとペースを落とし、ロズベルグのレースの邪魔をしたのではないかとする疑惑は晴れたことをプレスに告げた。
ウォルフが言う真相はこうだ。トップのハミルトンがペースを抑えていたとされる第2スティント、ハミルトンとチームには、履いていたやわらかい方のソフトタイヤがどれくらいもってくれるかという不安があった。ハミルトンが比較的スローペースで周回を重ねていたことは事実だが、それは決してロズベルグを困らせようとしていたわけではないということだった。
第2戦マレーシアGPにおいて、メルセデスはタイヤでフェラーリに負けたのだから、直後のレースでタイヤを可能な限りいたわろうとするハミルトンやチームの考えは十分理解できた。
2位ロズベルグとてタイヤの状況は同じだったが、この時、背後からフェラーリが迫ってきていた。1位ハミルトンに近づけばタイヤを酷使してしまう、後ろからはセバスチャン・ベッテルにプレッシャーをかけられている ──逃げ場のない中ストレスがたまり、レース後に一気にいら立ちを噴出させた彼の気持ちも、また理解ができた。
1周を速く走ることと、300kmのレースを一番で走り切ることは似ているようで違う。昨年来、1周の速さでは他を圧倒しているメルセデスだが、ロングランには絶対的な自信を持てないでいる。マレーシアでのフェラーリ優勝の余波が、王者を揺さぶっているのだ。
中国では3位ベッテルは戦況を変えようとメルセデスより早めのピットストップでアンダーカットを狙ったが、それはすなわち、マレーシアでのレースよりタイヤのアドバンテージがないことをライバルに明かすことにもつながってしまった。フェラーリが動けばメルセデスが反応する、そして終盤のミディアムタイヤで突き放され、シルバーアローに1-2で逃げ切られた。
速さで勝てなくとも、自ら動かなければ永遠に勝利はつかめない ── マレーシア、中国と、フェラーリはチャレンジャーとして今シーズンを戦っていることを印象付けるレースが続いた。そんな挑戦者の姿勢が、予選、決勝ともチームメイトに負け続けているロズベルグには感じられないでいる。
3戦で2勝を記録するハミルトンに17点差をつけられたばかりか、ランキング2位の座をベッテルに奪われているロズベルグ。フェラーリ&ベッテルという新たな敵を前にしたメルセデスにとって、昨年のように2人のドライバーを自由に戦わせる状況ではなくなりつつあり、このままハミルトンが勝ち続ければ、ロズベルグにサポートの役割がまわってくることもあり得る。ナンバー2が“板に付く”前にライバルを打ち負かさなければならない。
昨年誰よりも多くポールポジションをとったロズベルグ。その最初の予選P1はちょうど1年前のバーレーンGPで記録され、レースでは2位に終わるも、ハミルトンとの激しい戦いで見るものを魅了した。バーレーンは、復活の狼煙を上げるには絶好の場所であったのだが……。
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■ハミルトン4連続ポール、ベッテルもフロントローに並ぶ
過去10回のバーレーンGPで、ロズベルグは2013年、2014年と2年連続ポールポジションを獲得していた。得意なサーキットでライバルたちの鼻を明かしたかったのだが、予選ではまたしてもハミルトンにP1を奪われ、出ばなをくじかれてしまった。チャンピオンは開幕から全戦でポール奪取に成功したことになる。
ハミルトンから0.411秒離されてフェラーリのベッテルが2番手につけた。跳ね馬のマシンは週末を通して好タイムをたたき出しており、予選でもメルセデスに肉薄。ベッテルはロズベルグを3番グリッドに追いやり、4番手キミ・ライコネンとともにマラネロの一軍はチャンピオンチームに挑戦状をたたきつけた。
バルテリ・ボッタスが5位、フェリッペ・マッサ6位とウィリアムズが3列目に並び、レッドブルのダニエル・リカルドは7番グリッドからのスタート。8、9、10位は僅差でひしめきあい、今季初めてQ3に進出したフォースインディアのニコ・ヒュルケンベルグが8位、わずか0.012秒差でトロロッソのルーキー、カルロス・サインツJr.が9位、そこから0.022秒離れ、ロータスのロメ・グロジャンがトップ10の最後に収まった。
マクラーレンは、ホンダとのパートナーシップ再開後初のQ2進出を果たし、フェルナンド・アロンソ14番グリッド。ただしQ1でジェンソン・バトンのマシンにトラブルが起き、2009年チャンピオンはノータイムで最後尾。さらに決勝も出走できずに終わってしまった。
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■ロズベルグ、スタートでポジションダウン
昨年からトワイライトレースとなったバーレーンGP。スタートで3番グリッドのロズベルグがライコネンに抜かれ、1位ハミルトン、2位ベッテル、3位ライコネン、4位ロズベルグという順位で57周のレースが幕を開けた。早々にポジションを落としたロズベルグにとっては、浮かんでは沈む、受難のレースの始まりである。
4周もすると首位ハミルトンは2位ベッテルを1秒以上突き放し、レースを支配下に置き始めた。一方負けてばかりのロズベルグも奮起し、同周にライコネンをオーバーテイクして3位奪還、9周目のターン1ではベッテルを抜いて、メルセデスの1-2体制を築いた。
今回もフェラーリは挑戦者として果敢に勝負を仕掛けた。13周を終え3位ベッテルが最初のピットストップを行い4位でコースに復帰。翌周2位ロズベルグがタイヤ交換を終えると、ベッテルはアンダーカットに成功しロズベルグの前で戻った。それでもこの日のロズベルグはすぐさま反撃し、あっという間に2位の座を奪還するのだった。
トップ快走のハミルトンは15周を終了しタイヤ交換。トップ3台がソフトを選択する中、ライコネンは17周でソフトからミディアムに換装した。ライバルとは作戦を変えてきたライコネン&フェラーリが、終盤の2位争いをおもしろくした。
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■残り2周でライコネンが2位に
1位ハミルトンに挑みたい2位ロズベルグだったが、各車ともブレーキがきつく燃費にも気を使った走行をしいられ状況は膠着(こうちゃく)した。
22周を過ぎハミルトンとロズベルグの間は2秒、ロズベルグと3位ベッテルの差は1.5秒。ソフトを装着する3台のタイムは少しずつ開くことになったが、一方でソフトよりライフは長いが遅いと見られていたミディアムを履く4位ライコネンは、トップのハミルトンと同じような好調なペースで周回を重ね、見る見る差を詰めてきた。
32周を終えて3位ベッテルが2度目にして最後のタイヤ交換を行いミディアムを装着。6秒リードのハミルトンも翌周、続いてロズベルグもミディアムを履きコースに戻ったが、ピットインのタイミングでロズベルグはまたもベッテルに抜かれてしまった。両者は再びコース上で交戦、追われるフェラーリはコースをはみ出しフロントウイングを破損してしまい、ベッテルは予定外のピットインで順位を大きく落としてしまった。
強敵がいなくなった2位ロズベルグに新たな敵があらわれた。同じ赤いマシンのライコネンである。
41周にタイヤを再びソフトに戻した3位ライコネンは、ファステストラップをたたき出し1周につき1秒から2秒速いペースで17秒前のロズベルグを追った。45周で差は10秒、51周で5秒を切り、53周には1秒。そして残り2周となった時点で、今度はロズベルグがコースオフし、ライコネンはやすやすと2位の座を手に入れた。
実はトップのハミルトンを含め、メルセデスの2台はブレーキが思わしくなく、ロズベルグもそれが原因でコースをはみ出していた。あと数周長かったら猛チャージを続けるライコネンがハミルトンに襲いかかっていたかもしれない。貫禄勝ちを収めた王者にもフェラーリの脅威が迫っていたのだった。
4戦3勝、チャンピオンのハミルトンはタイトル防衛の足固めを着々と進めている。しかしその堂々とした戦いぶりの裏では、攻勢をかけるフェラーリの影響が出始めている。
全19戦のうちフライアウェイ4戦を消化したF1は、いよいよ戦いの場をヨーロッパに移す。各陣営がマシンアップデートを持ち込んでくるであろう第5戦スペインGP決勝は、5月10日に行われる。
(文=bg)