ポルシェ、ルマン24時間で2連覇達成 トヨタは惜敗
2016.06.20 自動車ニュース![]() |
2016年6月18~19日、フランスのサルトサーキットで第84回ルマン24時間耐久レースが開催された。伝統の一戦を制したのは、R.デュマ/N.ジャニ/N.リーブのNo.2 ポルシェ919 ハイブリッド。ポルシェは2015年に続く勝利で、ルマン2連覇を達成した。
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■高揚感なき雨の予選
今年のルマンは予選から、昨年の覇者であるポルシェの盤石ぶりが伝わってきた。
ディフェンディングチャンピオンにひと泡ふかせようと、好敵手のアウディは空力パーツを含め外観を大きく変更。フォーミュラカーを思わせる、高さのあるフロントウイングを装着し、さらにコックピットも新設計するなど変更を加えた「R18」を投入した。トヨタもまた、パワーユニットやハイブリッドシステムをはじめとする大幅改良を実施。2017年投入予定だった「TS050 ハイブリッド」を前倒しで作り上げ、ルマンを含む世界耐久選手権(WEC)を戦っている。
一方、耐久レース復活3年目に入ったポルシェは、サスペンションや空力パッケージにおいて前年から正常進化したマシンを用意。開幕戦となったイギリスのシルバーストーンでは、2号車がいきなり優勝を遂げ、第2戦ベルギーのスパ・フランコルシャンでは8号車アウディに勝利を譲ったものの、2号車は2位で続き、ポイントランキングでは首位をキープしている。
これらのマシンで争われる、84回目となった今年のルマンは、レースウイークに入ってから、延々と不安定な天候に翻弄(ほんろう)されることとなった。まず走行初日となる予選1日目は、タイムアタックを前に実施された16時のフリー走行から雨模様。スタート時には青空が広がっていたものの、小一時間もすれば雨でコースがぬれるという先の読めないコンディションで、どのチームも慌ただしく対応作業に追われる状況だった。
4時間の練習セッション、そして2時間のインターバルを挟み、予選1回目は22時にスタート。雨が上がっていたこともあり、開始10分もしないうちから各車アタックモードに突入、タイムの更新が始まった。
まずフリー走行のトップタイムを上回ったのは、6号車トヨタのステファン・サラザンで、3分20秒737をマーク。これを、ニール・ジャニを擁する2号車ポルシェが3分19秒733で逆転、トップに躍り出た。さらに僚友1号車のティモ・ベルンハルトがトヨタのベストタイムを上回って2番手に割って入ったところで、アタック合戦は小休止。
その後、落ち着かない天候の影響でタイムアップが難しくなり、ほとんどのチームは、コンディションに合わせたマシンのセットアップやタイヤ選択などのシミュレーション作業を行うようになった。
2時間のセッションは、その後もトップ3のタイムに変動のないまま終了。予選2日目も似たような展開となり、タイムアタックに臨むにはほど遠いコンディションの中、時間だけが過ぎていった。結局、ほとんどのチームはアタックを切り上げ、決勝レースを見据えた作業に移行。例年のようなポールポジション獲得に向けての高揚感もないまま予選全セッションが終了し、初日の予選1回目の結果通りに、2号車ポルシェのポールポジションが確定した。
予選総合トップ6
1. No.2 ポルシェ919 ハイブリッド(R.デュマ/N.ジャニ/N.リーブ)3分19秒733
2. No.1 ポルシェ919 ハイブリッド(T.ベルンハルト/M.ウエーバー/B.ハートレー)3分20秒203
3. No.6 トヨタTS050 ハイブリッド(S.サラザン/M.コンウェイ/小林可夢偉)3分20秒737
4. No.5 トヨタTS050 ハイブリッド(A.デビッドソン/S.ブエミ/中嶋一貴)3分21秒903
5. No.7 アウディR18(M.ファスラー/A.ロッテラー/B.トレルイエ)3分22秒780
6. No.8 アウディR18(L.ディ・グラッシ/L.デュバル/O.ジャービス)3分22秒823
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■中盤でトヨタがワンツー体制
60台の車両がズラリと並び、フォーメーションラップに入るはずだった決勝レース。ところが、オープニングセレモニーの途中から天候は下り坂に。本格的な雨のためスタートはセーフティーカー先導となり、開始から1時間ほどは周回を重ねるだけという珍しい展開になった。その後天候は順調に回復し、チェッカーが振られるまで、雨に翻弄(ほんろう)されることはなかった。
スタートから1時間後のトップはNo.6 トヨタTS050 ハイブリッド。これに2号車のポルシェ、さらにNo.8 アウディR18が続き、3メーカーがトップ3の座を分けあった。
最初のピット作業に入って以降、各チームの戦略が見えてきた。ポルシェとアウディは13周を基準に、トヨタは14周ごとにピット作業を実施。順調にルーティンワークをこなしていたライバル同士ではあったが、やがて、ほころびも出始めた。
7号車のアウディは、ターボを交換。1号車のポルシェはクラッチトラブルを抱えるなど、周回遅れへとつながる大きな作業を強いられる。5号車のトヨタもタイヤからのバイブレーションのために緊急ピットインしたが、コース上の危険回避のために実施されたセーフティーカーランをうまく味方につけ、僚友6号車とのバトルも制しつつ、トップ争いを展開した。
トヨタの2台は、ライバルを上回る燃費を稼ぎながら、安定したレース運びを披露。スタートから10時間が経過するころには、ワンツー体制も築いた。
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■ラスト3分、幻と消えたトヨタの勝利
予選では揺るぎない信頼性をアピールするかのように、着実な走りを見せていたポルシェ。だが、マシントラブルが発生した1号車はその後精彩を欠き、ライバルとの戦いは2号車に託すことに。アウディもこまごまとしたトラブルにさいなまれた。レースは5号車のトヨタを先頭に、2号車のポルシェと6号車のトヨタが続き、それを8号車のアウディが追うという形で進行した。
その後の夜間走行で新たなアプローチを見せたのは、2号車のポルシェだった。トヨタとのギャップを埋めようと、ピットインのインターバルをトヨタと同じ14周に変更。いざマシントラブルが出れば戦線離脱につながるリスクはあるものの、小さな積み重ねによってライバルとの差を縮めようとしたのだ。しかし、それも「時すでに遅し」と見えた。トヨタは悲願の初優勝に向けてひた走り、トップの座を堅守。ポルシェは5号車トヨタの後塵(こうじん)を拝する形でレース終盤を迎えた。
だが、チェッカーまで残り3分というそのとき、中嶋一貴がドライブするトップのトヨタにも悲劇が訪れた。突如エンジン関係のトラブルに見舞われ、メインストレートで失速しストップ。2号車ポルシェに首位の座を明け渡すこととなった。
一度は2位の結果を受け止めていたかに見えたポルシェは、思いもしない形で逆転勝利。5号車のトヨタは再スタートできたもののペースは上がらず、なんとか1周を終えて戻ったものの、周回の規定時間をオーバーしたため完走扱いにはならなかった。
残りわずか1周のところで、つかみかけていた勝利を逃したトヨタ。チェッカードフラッグが振られるその瞬間まで勝利のゆくえはわからないということを、あらためて知らされたレースだった。
決勝結果(トップ6)
1. No.2 ポルシェ919 ハイブリッド(R.デュマ/N.ジャニ/M.リーブ)384周
2. No.6 トヨタTS050 ハイブリッド(S.サラザン/M.コンウェイ/小林可夢偉)381周
3. No.8 アウディR18(L.ディ・グラッシ/L.デュバル/O.ジャービス)372周
4. No.7 アウディR18(M.ファスラー/A.ロッテラー/B.トレルイエ)367周
5. No.1 ポルシェ919 ハイブリッド(T.ベルンハルト/M.ウエーバー/B.ハートレー)346周
6. No.12 レベリオンR-One・AER(N.プロスト/N.ハイドフェルド/N.ピケJr.)330周
クラス別トップ
・LMP1クラス:No.2 ポルシェ919ハイブリッド(R.デュマ/N.ジャニ/M.リーブ)384周
・LMP2クラス:No.36 アルピーヌA460・ニッサン(G.メネセス/N.ラピエール/S.リチェルミ)357周
・LMGTEProクラス:No.68 フォードGT(J.ハンド/D.ミュラー/S.ブルデー)340周
・LMGTEAmクラス:No.62 フェラーリ458イタリア(W.スウェードラー/T.ベル/J.シーガル)331周
(文=島村元子<Motoko Shimamura>/写真=トヨタ自動車、ポルシェ、アウディ)