【F1 2016 続報】第15戦シンガポールGP「反攻のロズベルグ」
2016.09.19 自動車ニュース![]() |
2016年9月18日、シンガポールのマリーナ・ベイ市街地コースで行われたF1世界選手権第15戦シンガポールGP。シーズン後半のベルギー、イタリアを制したニコ・ロズベルグがシンガポールでも勝利し、7月末に奪われたポイントリーダーの座を奪還した。一方、同じメルセデスのルイス・ハミルトンはといえば、週末を通じて帳尻を合わせることができず、3位でゴール。ランキングでは2位に転落した。
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■F1、開かれる新たなチャプター
シンガポールGPを前にした9月7日、“F1のオーナー”が変わることが発表された。
モータースポーツの最高峰を標榜(ひょうぼう)するF1には、れっきとした所有者が存在する。2005年以来、現在までの大株主は、欧州を拠点とする投資ファンド会社「CVCキャピタル・パートナーズ」。その下に「デルタ・トプコ」と呼ばれる統括会社があり、さらにその配下にはF1に関わるさまざまな商業活動を行う企業群(商業権や商標登録管理、コンテンツプロモーション、チームなどに向けた旅行代理店業、広告管理など)の枝葉が伸び、巨大な“F1帝国”をかたちづくっている。
いまや世界屈指のスポーツビジネスとなったF1の新たなオーナーは「リバティ・メディア」なるアメリカ企業。実業家であり富豪のジョン・マローンをトップに、メディアやコミュニケーション、エンターテインメントとさまざまな分野で活動を繰り広げており、野球のメジャーリーグ「アトランタ・ブレーブス」も傘下におさめるコングロマリットである。
今回のF1買収額は44億ドル(約4500億円)、負債などを含めると80億ドル(約8200億円)とされる。まずリバティ・メディアがデルタ・トプコの持ち分18.7%を取得し、その後条件が整い次第、出資比率を100%にまで高めるという。F1をビッグビジネスに成長させた立役者、バーニー・エクレストンは当面CEOとして残るものの、メディア王のルパード・マードック率いる「21世紀フォックス」から、チェイス・キャリーが新会長として着任することになった。
「F1でお金を増やすこと」を一番に追求していた投資ファンドのCVCは、利益の最大化以外にはあまり口出しをしないオーナーだったというが、リバティ・メディアは文字通りメディアを駆使した幅広い事業展開をもくろんでいるとみられている。具体的な施策はまだ明らかにされていないが、近年人気に陰りが見えるF1の活性化、特にアメリカ市場の開拓や、若いファンの獲得、分配金などを巡るチーム間の不均衡問題、軸足が定まらないルールメイクの問題など、F1が直面する多くの課題に解決策をもたらすのではないかという期待も高まっている。
一方で、買収そのものにもまだ越えなければならないハードルがある。各国の独占禁止法など法規制をクリアすることに加え、F1を主催するFIA(国際自動車連盟)から承諾を得る必要もある。またFIAは同時にF1の株主(1%)でもあり、利益相反の疑いも指摘されている。
欧州を中心に世界選手権として始まってから66年。そのうち40年もの間エクレストンがビジネス化を進め、世界的なスポーツにまで成長したF1は、これからアメリカの巨大メディアグループの一員となる。F1にとってまったく新しいチャプターが開かれようとしている。
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■ロズベルグ、0.5秒差でポール奪取
史上最多の21戦が予定される今シーズンのF1は、ヨーロッパを離れ、残り3分の1のフライアウェーに入った。
全長5kmにカレンダー最多23のコーナーを持つシンガポールのマリーナ・ベイは、パンピー、ツイスティー、タイトであることに加えて、高温多湿な気候と、厳しい条件がそろったストリートコース。昨年ここで唯一の大敗を喫したメルセデス勢は対策を講じ、2年連続優勝を狙うフェラーリほかライバル勢は、1年前の活躍を再現すべく準備万端でアジアの島国に乗り込んだ。
しかしフタを開けてみれば、予選ではメルセデスのニコ・ロズベルグが他を圧倒。トップ10グリッドを決めるQ3では、最初のアタックでチームメイトのルイス・ハミルトンを0.7秒も突き放し暫定首位に。2度目のフライングラップでは双方タイムアップを果たせなかったものの、ロズベルグが今季7回目、通算29回目のポールポジションを決めた。
金曜日にハイドロリック系のトラブルで走り込めず、ブレーキング時の不安定さを解消できないままでいたハミルトンは、レッドブルのダニエル・リカルドにも抜かれ3番グリッド。ポールタイムと2番手リカルドの差は0.5秒もあった。
マックス・フェルスタッペンが4番グリッドにつけ、上位4台はメルセデスとレッドブルが占拠。フェラーリはキミ・ライコネンが5番手、セバスチャン・ベッテルはサスペンションのトラブルで最後尾スタートとなった。シーズン中盤に停滞していたトロロッソが健闘し、カルロス・サインツJr.は予選6位、同じくダニール・クビアト7位。フォースインディアのニコ・ヒュルケンベルグ8位、マクラーレンのフェルナンド・アロンソ9位ときて、フォースインディアのセルジオ・ペレスが10位でセッションを終えたのだが、黄旗追い越しのペナルティーで18位に降格、バルテリ・ボッタスのウィリアムズが繰り上がった。
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■メルセデスはブレーキに不安、ライコネンがハミルトンを抜き3位へ
元祖ナイトレース、9回目のシンガポールGPは、サインツJr.とヒュルケンベルグがスタート直後に接触、セーフティーカー出動で幕を開けた。61周レースの3周目に再開されると、上位の順位は1位ロズベルグ、2位リカルド、3位ハミルトンと、ここまではグリッドのまま、フェルスタッペンが出遅れ8位に落ち、4位のライコネンに次いでアロンソが5位に上がっていた。
トップを快走するロズベルグは2位リカルドに対し8周で3秒以上のマージンを築いたが、同時にピットから「ブレーキをいたわれ」との指示が出ていた。3位ハミルトンにも同様の無線が飛んでおり、メルセデスは早々から不安を抱えての走行となった。
16周目に2位リカルド、3位ハミルトンが同時ピットイン。翌周1位ロズベルグもタイヤを交換するもトップ集団の順位は変わらなかった。しかし、やがてハミルトンが遅れだし、4位ライコネンに追われることになる。そして33周目、虎視眈々(たんたん)とポディウムを狙っていたライコネンがハミルトンをオーバーテイクし、3位の座を奪うことに成功した。
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■ハミルトン、「プランB」で3位を取り戻す
33周目に2位リカルド、翌周1位ロズベルグと3位ライコネン、続いて4位ハミルトンが次々とタイヤ交換を済ませた。これが最後のストップかと思われたが、その後メルセデスとハミルトンが採った作戦が各陣営に影響を与えることになった。
レース中、しきりに前車を抜く作戦を無線でたずねていたハミルトンに対し、メルセデスは「プランB」を提案。タイヤを使い切るまで飛ばし、もう1回タイヤを替える方法を伝えた。4秒、3秒、2秒と徐々に3位のフェラーリに接近していくメルセデスは、45周して3度目のピットイン。慌ててライコネンもこれに反応し、翌周フレッシュなタイヤを求めピットへ飛び込んだのだが、深紅のマシンがコースに戻るとシルバーのマシンに前を取られていた。判断を遅くしたフェラーリは、メルセデスにアンダーカットを許し、ハミルトンは3位の座を取り戻した。
ハミルトンの動きは2位リカルドにも影響し、レッドブルは3度目のタイヤ交換に踏み切った。しかし首位ロズベルグは、古いタイヤのまま周回を続けることに賭けた。ロズベルグは20秒以上リードしていたが、もしセーフティーカーが出たなら、その貯金が帳消しになるばかりか優勝を逃すリスクを抱えていた。心配なのはセーフティーカーだけではない。リカルドは2秒も速いペースで猛追を仕掛け、残り5周でトップに5秒差まで詰め寄ってきた。
レースは上限の2時間まで間近。酷暑の長期戦の最後に、ロズベルグは残していた力でしっかりとレースをまとめあげ、2位リカルドを0.4秒の僅差で抑え切った。夏休み明けのシーズン後半戦3連勝で、7月の第11戦ハンガリーGPで失ったポイントリーダーの地位を奪い返した。
このレースを3位で終え、ランキングで2位に落ちたハミルトンとのポイント差は8点。今シーズン残るは6戦。メルセデス同士のタイトル争奪戦は、ロズベルグの反攻により白熱した展開を迎えている。
次戦は春から秋開催となったマレーシアGP。決勝は10月2日に行われる。
(文=bg)