シボレー・コルベット スティングレイ(FR/3AT)
イッツ・ア・グレイト! 2017.03.04 試乗記 「スティングレイ」のサブネームを初めて冠し、ファンの間では「C2」の愛称で親しまれている2代目「シボレー・コルベット」。シルバーのボディーがきらめく半世紀前のアメリカンスポーツには、豊かさがあふれていた。リアウィンドウに見る不思議
「C2コルベットに乗りませんか?」。webCG編集部きっての“アメ車”通、バイパーほったから電話がかかってきた。1963年登場の2代目コルベット、“スティングレイ”である。彼のアメリカンコネクションを通じて知り合った篤志家のオーナーが、程度極上のマイカーを一日、託してくださるという。
自動車小僧の昔、「ムスタングか、スチングレーか」というクチプロレスはやったかもしれないが、本物のC2は触れたことすらない。約束の日、オーナーとクルマの待つ場所へいそいそと出かける。
自分と同じ年に生まれたC2をいつか手に入れたい、という長年の夢をかなえたオーナーの愛車は、5.4リッター3段ATのクーペで、1963年に輸入/登録されている。それは間違いないのだが、デビュー年の63年型ならリアウィンドウがスプリット(2分割)である。数年前に入手して以来、それがずっと不思議だったという。
C2のボディーはFRP製だ。流麗なファストバックを切開して、わざわざ64年以降の1枚ガラスに改造するとは思えない。モデルイヤー制をとるアメリカ車は、翌年モデルを前年の早いうちに発表する。昔の『カーグラフィック』誌も、9月に編集作業をする10月1日発売の11月号で翌年モデルのアメリカ車特集を組むことが多かった。7代続くコルベットのなかでも最高のコレクターズアイテムといわれる「63年型スプリットウィンドウ」でなかったのは残念かもしれないが、このクルマは63年に輸入/登録された64年型と思われる。
きちんと走れるよう機関部はレストア済み
オーナーから簡単なコックピットドリルを受け、注意事項を聞く。
キャブレターだから、チョークレバーはあるが、カブりやすいので、使わない。冷間時もスロットルペダルを1~2回アオるくらいでよい。購入時から付いていたETC車載器は、接触が悪いらしく、以前、バーが上がらないことがあった。
燃料計はアテにならないが、いまは半分くらい入っているという。リアにあるコルベットのエンブレムが給油口のフタで、カギはない。しかも太い直径のパイプからタンクの底が見える。のぞくと、井戸みたいだった。貞子が出てきそうである。「ガソリン取り放題ですよね」と、オーナーが笑った。
リトラクタブルヘッドランプは、上げ下げと点灯のスイッチが別々にある。オーナーが操作すると、右側しか上がらなかった。1週間前は両方出たという。でも、明るい時間の試乗だから、問題ないだろう。
以前はパーコレーション(熱でフューエルパイプ内に気泡ができること)の持病があったが、いまは対策を施してある。点火系も強化してある。そんなお墨付きをもらって、出発する。ETCは使わないことにして、助手席でバイパーほったに機関助手をお願いする。
ワクワクするほど鋭いレスポンス
走りだして、まず気づいたのは、“低さ”である。アイポイントが低い。ボンネットも低い。コンパクトなプッシュロッドOHVならではとはいえ、とてもこの下に5.4リッターものV8エンジンが入っているとは思えない。
C2のボディーは、四囲の外周に、鋭いエッジが張り出している。スティングレイ(赤エイ)のニックネームはその造形からきているらしいが、運転席から見おろすボンネットのビジュアルも、水平の胸びれを動かして泳ぐエイを連想させた。
ボディー全幅は1770mm。いまの「フォルクスワーゲン・ゴルフ」より3cm小さい。前方視界は抜群だから、とても運転しやすい。早速、首都高に上がり、西へ向かう。
ステアリングホイールは直径41cmもある細いウッドリムだが、気になる遊びはない。シャシーは新設計で、オープンモデルのみだった初代コルベット(1953~62年)からは刷新されている。「ラダーフレームですけど、四輪独立懸架です。次のC3まで使っていますから、よくできていたんでしょうね」。バイパーほったが教えてくれる。
最高出力250hp。最大トルク48.4kgm。車重はさすがFRPボディーで、1380kgに収まる。ろくにアクセルを踏み込まなくても、力はある。かといって大味ではなく、スロットルレスポンスはワクワクするほど鋭い。
速度計はマイル表示。60mphちょっとの100km/h時だとトップで2600rpmを指している。
「いやあ、イイよねえ……」
「イイですねえ。まったく無理している感じがないですねえ……」
そのエンジンが、突然、ストールして、止まった。
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豊かな国の豊かなクルマ
ちょうどサービスエリアを過ぎたところだったが、油圧を失わないうちに路肩に寄せて、止まる。水温も油圧も正常だった。ひと呼吸置いて、キーをひねると、かかった。ということは、パーコレーションではないだろう。しかし、走りだすと、またすぐ止まった。最寄りのインターで下り、だましだまし、バイパス合流手前の安全なところまで進む。
元気にクランキングして、エンジンはかかろうとする。この症状は……、ひょっとして、ガス欠? 外に出て給油口をのぞくと、中は未使用のボットン便所みたいだった。30km手前でカラ井戸だと思った時点で気がつけよという話である。メンボクない。
JAFの救援を待つあいだ、室内を観察する。ダッシュボードは、C2の特徴だった“ツインカウル”。計器盤を囲むメーターナセルと同じ形状のものが助手席側にもある。軽飛行機のコックピット風を狙ったのだろうか。
大きな半円の計器盤には、大小6つのメーターが配置されている。メーターは中心部分がコーン形状で、それに合わせて赤い針は途中で大きく曲げられている。芸が細かいというか、凝ったつくりである。
ドアパネルにはレギュレーターが2個付いている。エッ、なんで!? と思って、小さいほうをグルグル回したら、三角窓が開いた。こんなのも初めて見た。豊かな国の豊かなクルマである。
正真正銘のスポーツカー
20ガロン入りの燃料タンクを満タンにしてから、行きつけのワインディングロードを走った。
視点が低くて、路面を近くに感じるだけでなく、重心“感覚”が低い。そのため、軽く流していたって、楽しい。
リサーキュレーティングボール式の油圧パワーステアリングは、パワステだよね? と思わせるくらいの重さ。片手でクルクル回せる“アメ車”のようには軽くない。
リアサスペンションには横置きリーフスプリングが使われている。7代目の現行モデルも採用する伝統の形式を初めて導入したのがC2である。
7000rpmまでのタコメーターは、5000rpmからイエロー、5300rpmからがレッド。一度もそんなところまで回さなかったし、回す必要もなかった。Dレンジのまま、2500rpmあたりで自動シフトアップさせたくらいでも、8リッターV10に乗り慣れたバイパーほったから「ホーホー!」という声が上がる。右足の靴のソールに少し圧を入れただけで、豪快にスピードを上げる。その加速感はやはり、胸びれひとかきでダイバーの視線から消えるエイを連想させた。
初めてC2に乗って、いちばん驚いたこと。半世紀以上前のコルベットが、こんなに“スポーツカー”だとは思わなかった。
史上最もテキトーな大統領に「メイクアメリカグレイトアゲイン!」なんて言われなくたって、コルベットはずっとグレイトだった。そして、グレイトなスポーツカーの基礎をつくったコルベットが、C2だったのだ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
シボレー・コルベット スティングレイ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1770×1270mm(車検証記載値)
ホイールベース:2490mm
車重:1380kg(車検証記載値)
駆動方式:FR
エンジン:5.4リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:3段AT
最高出力:250hp(186kW)/4400rpm
最大トルク:48.4kgm(476Nm)/2800rpm
タイヤ:(前)P205/70R15 M+S/(後)P205/70R15 M+S(ハーキュリーMRXプラスIV)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:1964年型(1963年登録)
テスト開始時の走行距離:5万8751マイル(約9万4551km)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(4)/山岳路(1)
テスト距離:85マイル(136.8km)
使用燃料:34.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:3.9km/リッター(満タン法)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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