【F1 2017 続報】第7戦カナダGP「今度は銀の1-2」
2017.06.12 自動車ニュース![]() |
2017年6月11日、カナダ・モントリオールのジル・ビルヌーブ・サーキットで行われたF1世界選手権第7戦カナダGP。前戦モナコではフェラーリが1-2、そしてカナダではメルセデスが1-2と戦況は目まぐるしく変わり、タイトル争いは混迷を極めるのだった。
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メルセデスは“弱点”を克服できるか
全20戦の今シーズンは6戦を終え、フェラーリとメルセデスが3勝ずつ、勝利を分け合った。このうちひとりで3勝しチャンピオンシップをリードするのは、赤いマシンを駆るセバスチャン・ベッテル。2勝していながらそのベッテルに25点もの差をつけられたのが、シルバーアローをドライブするルイス・ハミルトンだ。
1.6リッターターボハイブリッド規定が始まった2014年からの3年間で59戦51勝。まさに常勝軍団だったメルセデスだったが、今季型マシン「W08」は、ピレリが用意したタイヤのうち、最もやわらかいウルトラソフトタイヤをうまく使い切れないという弱点を露呈していた。第4戦ロシアGP、そして前戦モナコGPと、安定して速いペースを刻んだフェラーリとは対照的に、メルセデスはウルトラソフトで苦しんだ。
特にハミルトンはいずれのレースでも精彩を欠き、ロシアでは優勝したチームメイトのバルテリ・ボッタスから大きく遅れ4位、モナコではQ2落ちから7位入賞と、ライバルたちの先行を許した。セットアップを決め切れず挙動が安定しない中でのドライブ、そしてタイヤを適温に保てないという“悪癖”に、名手ハミルトンが手を焼いていたことは事実であり、それがまるまる1勝分のポイント差につながっていた。
長いシーズンは第7戦のカナダを含め残り14戦。メルセデスにしろハミルトンにしろ、挽回の余地は十分あるともいえるが、夏休みに入る前のシーズン前半にギャップを詰めておかないと、いまのところほぼ死角のないフェラーリ&ベッテルに逃げ切られる可能性もある。
カナダでは、再びウルトラソフトタイヤの出番が回ってくることになっていた。苦戦したロシア・ソチのコース同様に、半公道のジル・ビルヌーブ・サーキットの路面はスムーズなことで知られ、またメルセデスが速さを発揮するハイスピードコーナーも皆無である。モントリオールにアップデートパーツを持ち込んできたメルセデスがマシンの課題をどれだけ解決できるか。今シーズンのタイトル争いの行方を占う上でも重要な一戦だった。
そしてハミルトンにしてみれば、現役最多5勝、ポールポジション5回を記録する得意のモントリオールで、是が非でも復活ののろしをあげたいところだった。
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ハミルトン、セナの記録に並ぶポールポジション
金土の3回のフリー走行中、2回でトップを取ったフェラーリに対し、予選でメルセデスが反攻に転じた。
Q1、Q2と1-2で終えたシルバーのマシン。中でもハミルトンにはつけ入る隙がなく、Q3の最初のアタックで2位ベッテルに0.004秒差で肉薄されるも、最後には圧巻のフライングラップを成功させ、ポイントリーダーを0.330秒突き放して今季4回目、カナダでは6回目、そして自身通算65回目のポールポジションを獲得した。これはハミルトンが自分にとってのアイドルと公言しているアイルトン・セナの記録に並ぶ歴代2位のレコードであり、ミハエル・シューマッハーの最多ポール記録まであと3つで到達する。
ベッテルの後ろにはボッタス3位、キミ・ライコネン4位と、2強のいつもの顔ぶれが並び、ポールから約1秒遅れてマックス・フェルスタッペン5位、ダニエル・リカルド6位とレッドブル勢が3列目につけた。
予選7番手はウィリアムズのフェリッペ・マッサ。そのチームメイトで初の母国GPを迎えたルーキーのランス・ストロールは17番手と下位からのスタートとなった。そして、セルジオ・ペレス8位、エステバン・オコン9位と好調フォースインディア勢がトップ10グリッド入りを果たし、ルノーを駆るニコ・ヒュルケンベルグが10番グリッドを得た。
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メルセデス1-2、フェラーリは不運に見舞われ……
決勝日は快晴ながら、強い風が吹き荒れる天候となった。埃(ほこり)舞うコースでシグナルが変わると、トップでターン1に飛び込んだのはポールシッターのハミルトン。3列目スタートのフェルスタッペンが抜群のスタートで瞬く間に2番手に上がった。このフェルスタッペンに翻弄(ほんろう)されたのがベッテルだった。レッドブルのリアタイヤとフェラーリのフロントウイングが接触し、順位はボッタスの後ろ、4位に落ちてしまった。
後続でカルロス・サインツJr.のトロロッソに端を発するクラッシュが起きたことでセーフティーカーが出動。70周レースの4周目に再開すると、手負いのマシンではこれ以上の走行は難しいと判断した4位ベッテルは、壊れたウイングとタイヤの交換のためにピットに飛び込み、一気に最下位までポジションダウンした。
レースをかき回してくれるかと思われた2位フェルスタッペンだったが、11周目に突如パワーを失いコース上にストップ。これにより全車に徐行を義務付けるバーチャルセーフティーカー(VSC)が出された。
14周目にVSCはクリア。この時点で1位ハミルトン、2位ボッタスとメルセデスは労せずして1-2フォーメーションを築いてしまった。3位リカルド、4位ペレスを間に挟みライコネンは5位、ベッテルはといえばまだ入賞圏外の13位。早々に2強で明暗が分かれた。
いずれのタイヤも十分なロングランが可能と見られた今回は、1ストップが主流と見られていた。18周してライコネン、翌周にリカルド、24周目にボッタスがそれぞれタイヤ交換を実施。ウルトラソフトのスタートタイヤで快調に飛ばしていた首位ハミルトンと、フォースインディアのオコンは32周目までピットストップを引き伸ばした。
タイヤ交換一巡後の順位は、1位ハミルトン、2位ボッタス、3位リカルド、4位ペレス、5位ライコネン、6位オコン、7位ベッテル。メルセデス勢はハミルトンにスーパーソフト、ボッタスにソフトタイヤを履かせ作戦を分けてきたが、ボッタスとリカルドの間には10秒以上もあり、またボッタスはソフトでペースが振るわず、ハミルトンは余裕をもって周回を重ねることができた。
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ベッテル、「不幸中の幸い」で4位
フェラーリは、順位を取り戻すための「奇策」として、ライコネン、ベッテルとも2ストップ作戦に変更。ウルトラソフトでファステストラップを連発しスパートをかけ、3位リカルド、4位ペレス、5位オコンの隊列を追いかけた。残り10周、ベッテルが最終シケインでコースをはみ出したライコネンの前に出て6位に。ライコネンのマシンにはブレーキトラブルが起きており、7位でゴールするのがやっとだった。ベッテルは、僅差で前を走る5位オコンに照準を合わせた。そのオコンは、目の前の僚友ペレスを抜きあぐねていた。ベッテルにとって不幸中の幸いだったのは、フォースインディアの2台が順位を争ってくれたことだった。
非力なルノーのパワーユニットで何とか3位の座を守っていたリカルドの後ろで、ペレスは表彰台を狙っていた。しかし真後ろのオコンの方がフレッシュなタイヤで速く走れる状況にあり、チームはオコンを前に行かせようとしたのだが、ペレスはそれを受け入れなかった。
しびれを切らしたオコンがペレスに仕掛けるが抜けず。一瞬緩んだオコンのディフェンスを見逃さなかったベッテルは、66周目に意を決してターン1でフォースインディアに並びかけた。たまらずコースオフしたオコンをかわし、ベッテルは5位に。そして程なくしてタイヤのコンディションがよくなかったペレスをも抜き去り、ポディウム目前の4位でチェッカードフラッグが振られた。
ハミルトンはボッタスを約20秒も突き放し、2戦ぶりの今季3勝目を飾った。ポール・トゥ・ウィンに全周リード、ファステストラップをすべて獲るグランドスラムを達成。これまでのウルトラソフトタイヤの問題をみじんも感じさせない、まさに圧勝だったが、何よりベッテルとのポイント差を半減させたことが大きかった。
モナコではフェラーリが1-2、そしてカナダではメルセデスが1-2。13戦を残す今シーズン、タイトル争いの先行きはまだまだ読めない。
次戦は、ヨーロッパGP改めアゼルバイジャンGP。6月25日に決勝が行われる。
(文=bg)