【F1 2017 続報】第19戦ブラジルGP「プライドの復興」
2017.11.13 自動車ニュース![]() |
2017年11月12日、ブラジルはサンパウロにあるアウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェで行われたF1世界選手権第19戦ブラジルGP。今季頂点を極めた者と敗れた者、それぞれがプライドの復興をかけて臨んだ1戦となった。
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F1の将来を左右する議論
第17戦アメリカGPでメルセデスが、前戦メキシコGPではそのエースドライバーであるルイス・ハミルトンがそれぞれタイトルを決めたため、残るブラジル、アブダビの2戦は消化試合という見方が支配的となった。実際、4連覇を達成したメルセデスはブラジルに実験的なパーツを持ち込み、来季の準備すら始めるほどだった。しかしサーキットの外では、F1の将来を左右する重要な議論が行われていた。
10月31日、FIA(国際自動車連盟)と米リバティ・メディアをオーナーとするF1は、2021年からの新しいパワーユニット(PU)に関するレギュレーションの初期案をチームや関係者らに公表した。眼目は、複雑な機構を省きリーズナブルなコストを実現させること、将来の自動車技術との関連性を持たせること、さらに迫力あるエキゾーストノートなどでファンにしっかりとアピールできることなどにある。
2014年に始まった1.6リッターV6ターボ・ハイブリッドは継続。排ガスの熱エネルギーで発電する「MGU-H」は、コストや複雑さの観点から廃止とする。運動エネルギーを電気に変える「MGU-K」はよりパワフルに、そしてドライバーの裁量でより戦術的に使えるように改良。エンジンは3000rpmプラスの1万8000rpmまで回せるようにし、サウンドの向上を図る。さらに、サイズと重量に制限を加えたシングルターボを採用し、バッテリーやエレクトロニクスコントロールは標準化。どんなシャシー、エンジン、トランスミッションでも接続できるような「プラグ&プレイ方式」を取り入れるなど、形こそV6ターボのままだが、中身は大きく変わりそうな印象を受ける内容である。
こうしたFIA/F1側の提案を素直に受け入れてくれるほど、F1チームやPUメーカーは従順ではない。メルセデスやルノーは懸念を示し、フェラーリはおなじみの「場合によってはF1から撤退する」という脅し文句でルールメーカーをけん制した。ホンダを加えた既存の4メーカーにも、それぞれ守りたい「利」と、取り払いたい「害」があり、意見の一致は容易ではないのだ。
一方で、レッドブルとの関係を深めるアストンマーティンや、今季限りでWEC(世界耐久選手権)から撤退するポルシェ、あるいはコスワースやイルモアといったエンジンビルダーは、新PUで参入障壁が下がればF1参戦への道が開けることになる。さまざまな思惑が渦巻く中、チェイス・キャリーCEO兼会長率いる新生F1グループのかじ取りに注目が集まっている。
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ハミルトン、予選でまさかのクラッシュ、ポールはボッタス
アメリカ大陸3連戦の最後を飾るブラジルGP。金曜日の2回のフリー走行ともハミルトン、バルテリ・ボッタスの1-2でメルセデス勢は絶好調の滑り出しをみせたが、翌土曜日になるとライバルの追随を許すことになり、そして予選になるとまさかの展開が待ち受けていた。全車出走のQ1、真っ先にコース入りしたハミルトンが最初のアタック中にマシンの挙動を乱し壁にヒット。昨季ベルギーGP以来となるQ1敗退を喫することになった。ハミルトンのマシンはPU交換を行い、メルセデスはピットレーンからスタートする決断を下した。
トップ10グリッドを決めるQ3になると、孤軍奮闘ボッタスのメルセデスと、フェラーリ、レッドブルによる三つどもえのポールポジション争いに発展。最初のアタックを終えての順位は1位セバスチャン・ベッテル、2位ボッタス、3位キミ・ライコネン、4位マックス・フェルスタッペン、そして5位はダニエル・リカルド。セッション終盤になり各車最後の戦いに旅立っていく頃には、曇り空から雨が落ちはじめていた。
セッション終了を告げるチェッカードフラッグが振られると、P1にいたのはボッタス。0.038秒という僅差で、7月の第9戦オーストリアGP以来となる自身3度目のポールポジションを獲得した。メルセデスにとっては今季14回目の予選P1である。雨を気にしすぎコンサバな走りをみせたベッテルはタイム向上ならず2位に落ち、フェラーリの僚友ライコネンは3位につけた。
レッドブル勢はフェルスタッペン4位、リカルド5位。リカルドにはPUエレメント交換によるグリッド降格ペナルティーが科され、フォースインディアのセルジオ・ペレスが5番グリッドに上がった。マシンのパフォーマンスに満足と語ったマクラーレンのフェルナンド・アロンソは6番グリッドと好位置を得た。ルノーのニコ・ヒュルケンベルグ7番手、カルロス・サインツJr.8番手と続き、今季で引退する地元のヒーロー、フェリッペ・マッサのウィリアムズが9番手。そしてフォースインディアのエステバン・オコンは、10番手からスタートすることとなった。
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スタートでベッテルがトップに
快晴の日曜日。71周レースのスタートでトップに立ったのは、2番グリッドのベッテルだった。ボッタスは2位にダウンし、3位ライコネン、4位フェルスタッペン、5位アロンソという順位でターン1に進入していった。その後方では、ストフェル・バンドールンのマクラーレンやリカルドのレッドブル、さらにはロメ・グロジャンのハースやオコンのフォースインディアらがトラブルに巻き込まれ、セーフティーカーが入った。
6周目にレースが再開すると、首位を走るベッテルに2位ボッタスは勝負を挑めず、2秒程度のギャップができあがる。3位ライコネン、4位フェルスタッペンを含め上位のオーダーが膠着(こうちゃく)する一方で、ピットスタートのハミルトンと、接触で最後尾まで落ちたリカルドは、華麗なるオーバーテイクショーを披露して観客をわかせていた。14周目にハミルトンは7位、そしてリカルドは11位まで駒を進めており、21周目に差し掛かるとメルセデスは5位、レッドブルもポイント圏内の9位まで挽回していた。
28周目、パッとしない状況を打開すべく2位ボッタスがピットに入り、スーパーソフトからソフトタイヤに履き替え、ハミルトンの後ろの5位でコースに復帰した。これに続き翌周にはベッテル、フェルスタッペンもピットストップを実施。フェラーリはメルセデスのギリギリ前でコースに戻り、ボッタスのアンダーカットを阻止した。
これで、ソフトタイヤを履きノンストップで走行中のハミルトンが暫定1位となり、2位ベッテル、3位ボッタス、4位ライコネン、5位フェルスタッペンを従えての周回がしばし続いた。
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ハミルトン、表彰台をかけて猛追
44周目、戦略の異なるハミルトンとリカルドがピットに入り、ソフトからスーパーソフトに換装。ハミルトンは5位、リカルドは8位からより上位を目指すことになった。
ハミルトンは速いタイヤを武器にファステストラップを更新し、8秒前方の4位フェルスタッペンを追った。58周目にレッドブルの尻尾を捉えたチャンピオンは、翌周になってとうとう4位の座をももぎ取り、今度は10秒前にぶら下がったポディウムめがけて突進を続けた。
ライコネン対ハミルトンの3位表彰台をかけた争いは、残り5周となった時点から激化。DRSを効かせてオーバーテイクを仕掛ける今季チャンピオンに、2007年王者もしっかりと応戦した。結局、ライコネンが3戦連続の3位を守り切ったのだが、4位に終わったハミルトンも、予選での自らのミスをカバーして余りある力走を披露し、王者としての面目を保った。
そして、7月末の第11戦ハンガリーGP以来となる、久々のポディウムの頂点に立ったベッテルとフェラーリにとっても、傷ついたプライドを復興するレースとなった。残り2戦となってからの後半戦最初の勝利は確かに遅きに失するものであったが、来たる2018年を見据えたチーム再興には、必要不可欠な1勝でもあった。
2017年シーズンのフィナーレとなるアブダビGPは、11月26日に決勝が行われる。
(文=bg)