衝撃的なフロントマスクは何のため!?
三菱が改良型「デリカD:5」に込めた思いを探る
2018.12.12
デイリーコラム
仮面のようなフロントマスク
クルマのフロントマスクには、一般的に動物的な表情が与えられている。目に相当するのがヘッドランプで、グリルやバンパーとの相乗効果により、さまざまな顔立ちが形作られる。
近年、主流となりつつあるLEDヘッドランプは、造形の自由度が圧倒的に高い。これを生かすことで、従来とはまったく違う形状のフロントマスクをデザインすることができる。そこに挑戦したのが、比較的規模の大きなマイナーチェンジを受けた「三菱デリカD:5」だ。販売比率の90%以上を占めるクリーンディーゼルターボ搭載車のみが変更を受け、ガソリンエンジン車は小規模改良にとどまる。
そのクリーンディーゼルモデルのフロントマスクは驚くほど奇抜だ。メッキグリルの両側にLEDヘッドランプが装着されるが、最上部に横長に付いているのは車幅灯だ。その下側に、縦方向に2列で連なるのがヘッドランプになる。外側がロービーム(LEDを5灯)、内側はハイビーム(同じく4灯)とした。
このデザインは、今の三菱車の特徴とされるダイナミックシールドの手法に基づいている。ボディーサイドのパネルがフロントマスクの前側まで回り込み、しっかりとガードしている安心感と力強さが表現されている。そこに縦長のLEDロー/ハイビームを加えて、仮面のような表情を作り上げた。
デザイナーにとってはつらい決断
三菱がデリカD:5にこのようなフロントマスクを与えた理由は、大きく分けて2つある。
まずはデリカD:5の発売が2007年初頭で、発売から約12年が経過していることだ。今は各自動車メーカーとも日本市場の重要度が低く、さらに、環境技術などに対する投資も増えたから、設計の古い車種が多いのだが、それでも10年以上が経過すると、さすがに古さが目立ってくるようになる。そこでフルモデルチェンジのように見せる必要が生じたため、顔立ちを一変させた。
2つ目は「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」の好調な売れ行きだ。今はフロントマスクのデザインによってアルファードが好調に売れており、同じトヨタの「C-HR」や「ノア」と同程度の台数が出ている。ヴェルファイアも「ハリアー」と同じくらい売れている。アルファード/ヴェルファイアが基本的に中身が同じクルマであることから販売台数を合計すると、「プリウス」や「アクア」と同等ということになる。つまり国内販売のトップ水準にある。
こうなると標準ボディーを含めた全車が3ナンバーサイズになるLサイズミニバンは、すべてアルファード&ヴェルファイアと比較されてしまうことになる。結果としてどれも販売面では負けているのだが、これを上回るインパクトを発揮できれば、注目されるかもしれない。
そこでデリカD:5はこの顔立ちになったのだ。外観で他を圧倒するアルファード&ヴェルファイアがなければ、デリカD:5もここまで思い切ったスタイルにはならなかっただろう。
ただし、マイナーチェンジとあってフロントマスクだけを大きく変えたから、実はボディー全体の造形バランスは悪化した。このフロントマスクであれば、ボディーの側面もさらに存在感の強い形状にすべきだが、そこまではできない。同じようなことがマイナーチェンジを繰り返して顔を変えた「トヨタ・ヴィッツ」にも当てはまる。
デザイナーにとってはつらいだろう。デザイナーは当然、ボディーの前後左右や上下のバランスを緻密に計算して造り込む。発売時点の形状が完璧に完成されているから、フロントマスクを大きく変えることなどあり得ないと考えるだろう。
そのためか、一般的にフロントマスクを大幅に変える場合、最初とは異なるデザイナーが担当することが多いが、今回デリカD:5を手がけたのは2007年のデビュー当時と同じ人だという。デリカD:5の置かれた状況と今のデザイントレンドを正確に理解して、優れた能力を発揮されたと思う。
お買い得になったとはいえないが……
今回マイナーチェンジを受けたデリカD:5(2.2リッターのクリーンディーゼルターボ+4WD)の価格は以下の通りだ。
- M:384万2640円
- G:394万2000円
- Gパワーパッケージ:408万2400円
- P:421万6320円
- アーバンギアG:406万7280円
- アーバンギアGパワーパッケージ:420万7680円
改良前のクリーンディーゼルターボ搭載グレードである「Dパワーパッケージ」の価格は353万4840円であった。実質的な後継グレードとなる「Gパワーパッケージ」は約55万円値上げされているが、緊急自動ブレーキを作動できる安全装備と運転支援機能が追加され、カーテンエアバッグやマルチLEDヘッドライト、リアゲートの電動開閉機能といった装備が加えられていることから、割高感を強めたとはいえず(買い得にもなってはいないが)、想定の範囲内というところだ。
機能や装備と価格のバランスをほかの車種と比べると、比較相手はハイブリッド車となる。クリーンディーゼルターボ車は動力性能が高い割に燃料代が安く、エコカー減税も免税になるからだ。ミドルサイズの「日産セレナe-POWER」に比べると、駆動方式の違いも踏まえれば実質40万円ほど高いというところで、アルファード&ヴェルファイア(ハイブリッドは後輪がモーター駆動の4WDになる)よりは約40万円安い感じになる。ミドルとLサイズの中間的な値付けで、これも妥当だ。
客観的にデリカD:5の買い得感を考えると、セレナe-POWERやアルファード&ヴェルファイアに少し負けている。セレナとの比較なら価格上昇は25万円程度が好ましく、アルファード&ヴェルファイアと比べると、もう少し内外装の質を高めたい。
しかしデリカD:5は、国産ミニバンでは唯一のクリーンディーゼルターボ車であり、本格的な4WDシステムによって悪路走破力は一番優れている。そこを含めれば、選ぶ価値が再び高まったともいえる。SUVの「エクリプス クロス」とも相まって、三菱が存在感を取り戻すきっかけにもなると思う。
(文=渡辺陽一郎/写真=三菱自動車、トヨタ自動車、webCG/編集=藤沢 勝)
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渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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