第8戦ヨーロッパGP「誰がベッテルを止めるのか?」【F1 2011 続報】
2011.06.27 自動車ニュース【F1 2011 続報】第8戦ヨーロッパGP「誰がベッテルを止めるのか?」
2011年6月26日、スペインのバレンシア市街地コースで行われたF1世界選手権第8戦ヨーロッパGP。チャンピオンシップで既に大量リードを築いているセバスチャン・ベッテルが、得意のバレンシアで独走し6勝目をマークした。2年連続のタイトル獲得までまっしぐらに突き進む若きチャンピオンを止めるのは誰(何)なのか?
■ライバルの動向、そしてレギュレーション変更の影響
スペインの英雄、フェルナンド・アロンソの人気にあやかり、シーズン2回目の“スペインGP”の舞台として2008年からカレンダーに加わったバレンシアは、実はアロンソではなく、セバスチャン・ベッテルが得意とするコースである。
2008年、非力なトロロッソを駆って予選Q2でコースレコードとなるタイムを記録し、翌2009年はエンジントラブルでリタイアするも、2010年にはポール・トゥ・ウィンを達成。地中海をのぞむ市街地コースは、ベッテルのテリトリーと呼べる場所だった。
前戦カナダGP、最終ラップでの痛恨のミスでジェンソン・バトンに勝利をさらわれたベッテルだったが、それでも7戦を終えた時点で5勝、2位2回、そしてポールポジションに至っては6回獲得というほぼパーフェクトな戦績で、チャンピオンシップでは既に盤石のリードを築いていた。
ベッテルの独擅場となっている2011年、波に乗るチャンピオンが得意なコースでどう戦うか、というよりも、誰がベッテルを止めるのか、という質問への答えがいま渇望されている。
レースペースでたびたびレッドブルを苦しめ2勝しているマクラーレンか、ブレーキングとトラクションを武器にストリートコースで善戦したいフェラーリか。
ライバルチームの動向もさることながら、ここにきてレギュレーション面でもベッテル/レッドブルに影を落としかねない動きが出てきた。いわゆる「ブローディフューザー」の禁止である。
この技術は、空力に排ガスを活用しようというもので、ディフューザーに高速で流れる排ガスを導き、ダウンフォースを得ようとすることが狙い。以前から考えられていたものだが、スロットルのオン/オフで排ガスの流量が変わり安定感に欠けるということが問題とされていた。
近年、エンジン制御が高度化し、ドライバーがアクセルを踏んでいない状況でも一定のガスを流すことができるようになった。さらにエグゾースト内で燃料を爆発させることでより多くの高速なガスをディフューザーに導入できる「ホットブローイング」なるテクニックも編み出され、各チームがこぞって採用しはじめていた。
シーズン途中のルール改正ということで、禁止となる第9戦イギリスGPの前、今回のヨーロッパGPでは、エンジン制御方法を予選、決勝を通じて同一のものとする、という段階的措置がとられた。ブローディフューザーをレース中多用すると燃費が悪化するため、各チームは予選と決勝で制御の仕方を変えていたのだ。
このレギュレーション変更が、これまでの戦力図にどう影響を与えるのか。この技術を採用してきたどのチームにも、程度の差こそあれインパクトがある話なのだが、ここまでベッテルの独走が続くと、誰もがレッドブルの優位性が削られ、コンペティションが激化することを望みたくもなる。
だが今回の措置レベルでは、ベッテルにもレッドブルにも、ほとんど影響がなかった。すなわち、ベッテルは今季8戦して7度目のポールポジションからスタートを決め、タイヤと後続とのギャップをうまくコントロールし、6回目の勝利を手にした。
ルールが変わる次のイギリスGPでも、ベッテルの優勝がみられるとなったら……。
ポイントリーダー、ベッテルとランキング2位との差は現在77点。3戦欠場してもそのポジションをキープできるほどの大量リードである。
全19戦のシーズン折り返しを前に、タイトル争いにそろそろ刺激が欲しいところである。
■ウェバー対アロンソ、ピットストップを絡めた2位争い
快晴のバレンシアは30度近くまで気温が上昇し、ドライバーやマシンへの負担増もさることながら、ピレリタイヤのライフという不確定要素にどう影響するかがレース前の関心ごととなった。
フロントロー独占のレッドブルがスタートで1-2を守るいっぽう、予選3位のルイス・ハミルトンは、同4位のアロンソ、同じく5位のフェリッペ・マッサに相次いで抜かれ、5位にポジションを落とした。前戦のウィナー、バトンは6番グリッドからニコ・ロズベルグに先を越され、メルセデスをオーバーテイクするまで6周を費やし、優勝争いから離れることになった。
オープニングラップのトップ10は、1位ベッテル、2位マーク・ウェバー、3位アロンソ、4位マッサ、5位ハミルトン、6位ロズベルグ、7位バトン、8位ミハエル・シューマッハー、9位エイドリアン・スーティル、10位ニック・ハイドフェルドというもの。
ベッテルは1周目で1.3秒のリードを築き、2周目で1.8秒、可変リアウイング「DRS」が使える3周目には2.2秒まで広げた。以降、2、3秒のタイム差でコントロールしながらタイヤをいたわる走りで首位を守った。
2位を走るウェバーだったが、チームメイトを追うよりも、徐々に3位アロンソからの防戦に気を使わなければならなくなる。最初のピットストップ(ウェバー13周目、アロンソはベッテルと同時の14周目)で順位こそ変わらなかったものの、3位アロンソはファステストラップを更新して2位ウェバーに肉薄、ついに21周目にはDRSを使ったフェラーリがレッドブルをオーバーテイクし、地元の英雄の2位躍進に観客は歓声をあげた。
だが抜かれたウェバーは気落ちせず、最速タイムを更新しながら、29周目、アロンソより先に2度目のタイヤ交換を行い、それを受けて翌周ピットに駆け込んだアロンソを追い抜くことに成功した。
32周目、上位陣は2回目のピットストップを終え、1位ベッテル、2位ウェバー、3位アロンソ、4位ハミルトン、5位マッサ、6位バトンというオーダー。この時点でトップ3は1分42秒台で周回。後続の4位ハミルトンはタイヤの発熱を抑えるためにペースを落としており1分44秒台、トップから17秒も遅れており、優勝争いは事実上3人に絞られた。
しかし3人のなかでも、やはりベッテルのレース運びは別格だった。ファステストラップを更新し続け、39周目までに2位ウェバーを3.4秒突き放した。そして残り10周となった時点で3度目にして最後のピットストップを終えると、2位との間には8.6秒ものマージンを築いていた。
レース終盤、その2位のポジションには、再びアロンソが入っていた。それまで2位だったウェバーが43周目に3度目のタイヤ交換を実施。ペースの遅いハード側のタイヤを履いてコースに戻ったが、周回遅れの渋滞に遭遇してしまう。その間、アロンソはより速いソフトでもう3周走行し続け、おかげで逆転することができたのだ。
その後、ウェバーはギアボックスにトラブルを抱え、ショートシフトを余儀なくされた。表彰台の並び順はこれで決まった。
■ベッテルの勝利のパターン
まずは予選でポールポジションを取り、スタートでミスなくトップを守り、タイヤに過剰な負担をかけない程度に飛ばし十分なマージンを築く。ベッテルの勝利のパターンは、簡単に言えばこうなる。
もちろん、最速マシンであるレッドブル「RB7」があってこそ、という条件が付くが、では僚友ウェバー苦戦の原因はどこにあるのか。
予選でベッテルに勝てず、レースではタイヤに負担をかけすぎることで順位を落としてしまう。最終的にはドライバー、マシンの力量で表彰台までは挽回(ばんかい)するが、その頂点は遠い、ということだ。
マクラーレン、フェラーリといったトップチームのパフォーマンス不足も、ベッテル独走に拍車をかける。特にマクラーレンは2勝しており、ドライバーズチャンピオンシップではバトン、ハミルトンが代わる代わる2位につけるものの、コンスタントにプレッシャーをかけるまでには至っていない。
シーズン序盤、空力に難があったフェラーリは、調子を戻してはいるものの、アロンソはベッテルにおよそ100点ものポイント差をつけられており、大逆転への道のりはかなり厳しいと言っていい。
こうなると、ベッテルとレッドブルに待ったをかけるのは、やはりレギュレーション変更しかないのだろうか? その番狂わせが起きるかどうか、まずは7月10日の次戦イギリスGPを注目したい。
(文=bg)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |