【F1 2019 続報】100人目のポールシッター、百戦錬磨の王者に勝利を奪われる
2019.08.05 自動車ニュース![]() |
2019年8月4日、ハンガリーのハンガロリンク・サーキットで行われたF1世界選手権第12戦ハンガリーGP。初のポールポジションからレースをリードし続けたマックス・フェルスタッペンに、5冠王者のルイス・ハミルトンが襲いかかる。勝敗を分けたのは、互いのピット戦略の違いだった。
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9位でも盤石な首位と、瀬戸際にいる2位
雨で大混乱のうちに終わった先週のドイツGP。過去8戦のウエットレースでことごとく勝利を収めてきたルイス・ハミルトンがクラッシュとペナルティーでトップから転げ落ち、バルテリ・ボッタスもぬれた路面に足をすくわれてクラッシュ、リタイア。メルセデスは200戦目のマイルストーンを地元で飾ることができなかった。当初ポイント圏外の11位でフィニッシュしたハミルトンは、7-8位でゴールしたアルファ・ロメオの2台にペナルティーが科されたことで、ノーポイントから9位。たった2点しか追加できなかったものの、チャンピオンシップ2位のボッタスが無得点だったことで、ポイント上のリードを41点にまで拡大することができ、首位の座をさらに盤石なものとしてしまった。
次のハンガリーは、ハミルトンが得意とするGPのひとつ。短いストレートしかなく、曲がりくねった抜きにくいコースのハンガロリンクで最多6勝をマークしていた。さらに今季型「W10」はスローコーナーで強さを発揮してきたということも、ハミルトンの下馬評を押し上げていた。1週間前は体調不良もあって、彼にしてはめずらしいかたちで勝ちを逃したが、再びポディウムの頂点に立つには絶好の場所だった。
一方、チームメイトのボッタスは、来季もこのトップチームに残留できるかどうかの瀬戸際にいる。ボッタスか、あるいはリザーブドライバーのエステバン・オコンを昇格させるか、メルセデス側の判断は8月中に下されるといわれている。つまりボッタスにとって、このレースがコース上でアピールできる最後の機会となっていた。
ボッタスの敵は、41点先行されているハミルトン以外にもいた。過去3戦で2勝と勢いに乗るランキング3位のマックス・フェルスタッペンは22点後方におり、ハンガリーGPでさらにギャップを縮められれば、いよいよ分が悪くなってしまうのだ。
全21戦の2019年シーズンは折り返しを過ぎ、4週間にわたる夏休み前の最後のレースとなる第12戦を迎えた。今後のキャリアを占う上で重要な一戦で、ボッタスの奮起なるか? 数字上のタイトル争いは接戦とはならずとも、そんな背景を意識ながらレースを見れば、また別の楽しみも発見できた。
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フェルスタッペン、93戦目にして自身初のポール
時折雨が降った金曜日の2回のフリー走行では、ハミルトンとレッドブルのピエール・ガスリーがトップを分け合い、ドライとなった土曜日の3回目のプラクティスでは、ハミルトン、フェルスタッペン、そしてフェラーリを駆るセバスチャン・ベッテルの3人が0.082秒内でせめぎ合う接戦に。メルセデスは低速コーナー、フェラーリはストレート、レッドブルはバランスよくと、それぞれの持ち味を生かした激しい戦いとなった。
いっそう熾烈(しれつ)な争いとなった予選、トップ10グリッドを決めるQ3で完璧なラップを決めたのは、レッドブルのフェルスタッペンだった。「マシンがとんでもなく速かった」と喜びをあらわした21歳のオランダ人ドライバーは、93戦目にして初めてのポールポジションを獲得。F1史上100人目のポールシッターが誕生した瞬間だった。さらにレッドブルとしては2014年に始まったターボハイブリッド規定下で4回目、ホンダにとっては2006年オーストラリアGP以来となる久方ぶりの予選P1となった。
2位につけたのはボッタス。トップとの差はたったの0.018秒、3位に強敵ハミルトンを従えてのフロントロースタートに、レースへの期待も高まった。フェラーリ勢は2台ともポールから0.4秒離され、Q1のスピンでマシンを壊したものの大事には至らなかったシャルル・ルクレールが4位、ベッテルは5位。レッドブルのピエール・ガスリーは3強の最後、6位だった。
マクラーレンの2台が「ベスト・オブ・ザ・レスト」のポジションを占め、ランド・ノリスが7位、カルロス・サインツJr.が8位。ハースはロメ・グロジャンがQ3に進出し9位、そしてアルファ・ロメオのキミ・ライコネンが10位から決勝に臨むこととなった。
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スタートでフェルスタッペンがトップ、ボッタスは接触で最後尾に
抜きにくいことで知られるハンガロリンクでは、スタートで前に出ればポジションを守り切れる可能性も高い。シグナルが消え、ターン1に一番乗りを果たしたのはフェルスタッペン。ボッタスは、ハミルトンとルクレールに立て続けに軽く接触してしまい、フロントウイングを壊して5位に後退。ハミルトンが2位、ルクレール3位、ベッテルは4位でオープニングラップを終えた。
70周レースの6周目にボッタスが緊急ピットイン、タイヤをミディアムからハードにスイッチし、さらにノーズも交換すると最後尾に落ちてしまう。このレースでいい結果を残したかったボッタスは、ダメージを最小限にとどめるための走行を余儀なくされ、2度のピットストップの末に8位でフィニッシュ、残念な日曜日となってしまった。
10周目になると、1位フェルスタッペンと2位ハミルトンとの間には2秒の差。3位ルクレールはさらに8秒も遅れており、早々からトップ2台のマッチレースとなる。ハミルトンは、少しずつタイムを削りながら首位フェルスタッペンにプレッシャーをかけ続け、20周を過ぎる頃には1秒前後まで間隔を詰めてしまった。
「もうタイヤが限界だ」と無線で訴えるフェルスタッペンとは対照的に、「俺のタイヤはまだ行ける」と余裕のハミルトン。最初にピットストップを行ったのはフェルスタッペンで、26周目にミディアムからハードに換装。コースにとどまり続けたハミルトンには、踏ん張りどころを意味する「ハンマータイム!」との檄(げき)がピットから飛んだ。
ハミルトンのタイヤ交換は32周目。順位は変わらず2位だったが、ハードタイヤがフレッシュなうちにファステストラップを連発し始め、5秒あった1位フェルスタッペンとのギャップをあっという間に1秒以下にまで削ってしまった。
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2ストップ作戦が奏功し、ハミルトンが逆転に成功
レッドブルの真後ろにメルセデス。レースはまだ半分残っていた。39周目、周回遅れのマシンを前にしたフェルスタッペンにハミルトンが仕掛け、2台は並んでターン1へ。しかし、交錯する2つのラインは、ハミルトンがたまらずコースを外れたことで再びもとの序列に戻った。
「何か打つ手はないのか?」とピットにたずねるハミルトン。いかに接近しようとも、ハンガロリンクはなかなかオーバーテイクを許してくれなかった。そこでメルセデスは、49周目にハミルトンを再びピットに呼び、ミディアムタイヤを与えるという2ストップ作戦に打って出た。ハミルトンのポジションは2位のまま。20秒前方のフェルスタッペンは、これに反応しなかった。
メルセデスの奇策が吉と出るか? フェルスタッペンのハードタイヤは最後まで持つのか? 残り15周の時点でその差は15秒。あと10周というところで11秒。最速ラップを更新し、1周で約1.5秒を切り崩していく5冠王者の迫真の走りを、両陣営が固唾(かたず)を飲んで見守った。
残り5周でついに差は1秒以下となり、再びレッドブルのテールに、メルセデスの鼻っ面が突き刺さらんばかりの接近状態に。残り4周となったターン1で、ついにハミルトンが力強くトップを奪い、そして今季12戦目にして8勝目をかっさらうのだった。
2位に転落したフェルスタッペンのタイヤに余力はなく、すぐさま2度目のピットイン。勝利を逃した悔しさをソフトタイヤにぶつけ、最後にはファステストラップを更新し、レッドブルは2位でチェッカードフラッグを受けた。
3位にはベッテルが入ったが、トップから1分以上離されての表彰台となっては表情も浮かない。この週末のフェラーリは、やはり3強の3番手でしかなかった。
「疲れたよ」と笑いながら語ったハミルトンは、「今日の日に、そしてチームに本当に感謝している」と続けた。彼自身も、またチームも、今回のピット戦略の変更に100%の自信があったわけではなかったはずである。1つの判断に、お互いがフルコミットした結果がこの逆転優勝につながったということであり、それはひとえに、ハミルトンとメルセデスという百戦錬磨のチャンピオンチームの、信頼関係のあらわれだった。
惜しくもポール・トゥ・ウィンを達成できなかったフェルスタッペンは、「タイヤを持たせるよう最善を尽くしたけど、十分ではなかったね。今日は勝てなかったけど、われわれにとってはいい週末だった」と、やりきった様子で話していた。
新旧ドライバーによる白熱の戦いを最後に、F1はサマーブレイクに突入。休み明けの第13戦ベルギーGP決勝は、9月1日に行われる。
(文=bg)