【F1 2019 続報】雨で大荒れのドイツGPは「ホラー映画のようなレース」
2019.07.29 自動車ニュース![]() |
2019年7月28日、ドイツ・ホッケンハイムリンクで行われたF1世界選手権第11戦ドイツGP。決勝前に降り始めた雨でレースは大混乱。トップランナーですらスピンやクラッシュの餌食となり、表彰台には新鮮な顔ぶれが並ぶこととなった。
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ドイツF1の曲がり角
来る2020年シーズンの開幕戦が3月15日のオーストラリアGPに決定。さらに来季は、ザントフールトで復活するオランダGP、ハノイに新設されるサーキットでのベトナムGPといった新顔も加わり、またイタリアGP、イギリスGPという伝統の一戦もカレンダーに残ることが決まっているのだが、古くから開催されてきたレースの1つであるドイツGPの存続については、まだはっきりしていない。
ミハエル・シューマッハー全盛期には満員のスタンドで大盛り上がりを見せていたドイツGPも、近年は人気に陰りが出てきており、毎年のように消滅の危機に陥っている。今年はタイトルスポンサーにメルセデスがついたものの、来年の存続は不透明なまま。シルバーアローがいかに強くなろうとも、その国に生まれたドライバーの活躍こそが、人々の興味に火をつけるということなのだろう。
いやいや、2013年まで4年連続してチャンピオンとなり一時代を築いた、セバスチャン・ベッテルというドイツ人ドライバーがいるではないかと言いたいところだが、最近そのベッテルにも元気がなく、「今季で引退するのではないか」などと外野が騒いでいたりする。
ベッテル不調のスパイラルは、昨年の第11戦ドイツGPから始まった。トップ走行中、雨でぬれたコースで止まりきれずリタイアを喫し、14番手からスタートしたルイス・ハミルトンに優勝をさらわれた。そこから、第14戦イタリアGP、第17戦日本GP、第18戦アメリカGPと立て続けに接触で順位を落とし、また今季に入っても第2戦バーレーンGP、そして5秒加算ペナルティーで優勝を逃し物議を醸した第7戦カナダGPと、スピンやコースアウトが頻発。前戦イギリスGPでも、マックス・フェルスタッペンと表彰台を争う最中にレッドブルのマシンに追突してしまうなど、重要な局面でのミスが多発していた。
さらに、フェラーリの今季型「SF90」はスイートスポットが狭いという問題を抱え、10戦してスクーデリアに勝利はなし。その間、フェラーリ移籍初年、GP2年目という若手シャルル・ルクレールが台頭し、ベッテルはポイントでチームメイトに3点差に迫られ、また表彰台の回数では1つ下回っていた。
ベッテルは、良くも悪くもエモーショナルなドライバーだ。激怒してハミルトンのマシンに体当たりを食らわせた2017年のアゼルバイジャンGPなど、時として冷静さを失い、感情に流されやすいところがある。レッドブル最後のシーズンとなった2014年も、チーム新加入で余勢を駆る僚友ダニエル・リカルドとは対照的に精彩を欠き、前年チャンピオンながらリカルドの2つ後ろ、ランキング5位で一年を終えたほど。自信を失うとなかなか上がってこられないのが彼の弱点といえた。
今季10戦でランキング4位のベッテルが稼いだポイントは123点。チャンピオンシップ首位のハミルトンに100点もの大差をつけられており、自身5度目のタイトル獲得は絶望的といっていい。ならばそれを逆手に取り、チームが余計なプレッシャーを与えず、代わりに彼のポテンシャルが十分に発揮できるマシンを提供することが、ベッテル復活の一番の近道になるのではないだろうか。
しかし、復活への道を歩もうとしているベッテルに、母国GPで思わぬ邪魔が入ってしまった。
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ハミルトンがポール、フェラーリは悪夢のような予選に
ヨーロッパを襲った猛暑の影響で、30度を優に超える暑さに見舞われた金曜日。この日2回行われたフリー走行で1-2を決めたのはフェラーリで、中でも最初のプラクティスではベッテルがトップタイムをマーク、幸先の良いスタートをきったかに見えた。やや気温が下がった土曜日になっても、3回目のフリー走行でルクレールが最速。赤い2台のマシンがポール争奪戦を繰り広げるかと思われたが、マラネロの軍団には悪夢のような予選が待ち構えていた。
全車出走のQ1、コースに出たベッテルはターボの異常を感じ取りすぐさまピットイン。ガレージの中で修復を試みるも不調のターボは直らず、ノータイムで母国GPを最後尾からスタートしなければならなくなった。そしてQ1トップのルクレールにもトラブルが発生。Q2をクリアしたものの、燃料系に不具合が見つかりQ3出走ならず、10番グリッドに沈んでしまった。
自滅したフェラーリを尻目にメルセデスのハミルトンが予選Q3でP1を奪い、今シーズン4回目、通算87回目のポールポジションを獲得してしまった。この週末タイムが伸び悩んでいたバルテリ・ボッタスを3位に押しのけ、フロントローに並んだのはフェルスタッペン。ハミルトンとの差は0.346秒だった。ピエール・ガスリーがキャリア最高の4位につけ、レッドブルは好位置からのスタート。ガスリーとは僅差でアルファ・ロメオのキミ・ライコネンが続き、5番グリッドからレースに臨むこととなった。
ハースのロメ・グロジャンが今季ベストタイの6位、マクラーレンのカルロス・サインツJr.は7位だった。ドイツに大幅アップデートを施してきたレーシングポイントのセルジオ・ペレスがQ3に進出、8位という好位置を得、そしてルノーのニコ・ヒュルケンベルグが9位につけた。
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不確定要素だらけのレースは序盤から波乱含み
決勝日は予報通り雨。全車がウエットタイヤを履き、セーフティーカー先導で状況確認のフォーメーションラップを数周こなした後、通常のスタンディングスタートがきられ、レースは予定より3周短い64周で争われることとなった。今年初めてのウエットレース、読みづらい天候、そして使い慣れない雨用タイヤと、不確定要素だらけのドイツGPは、序盤から波乱含みで始まった。
スタートでハミルトンがトップを守り、2位にボッタス、3位ライコネンを従えてターン1へ。フェルスタッペンはホイールスピンが多く一時5位まで後退するも、すかさず1つ順位を上げ、4位でオープニングラップを終えた。
2周目にペレスがクラッシュしたことで早々にセーフティーカーが導入された。ここで14位まで挽回していたベッテルがウエットから浅溝のインターミディエイトタイヤに履き替え、これに続き1位ハミルトン、2位ボッタスら上位陣もピットへと飛び込んだ。この後、延々と繰り返される「タイヤ交換レース」の幕開けである。
5周目にレース再開。1位ハミルトン、2位にはピットに入らなかったケビン・マグヌッセンがいたがすぐさま抜かれ、ボッタス2位、フェルスタッペンは3位、そしてルクレール4位、ベッテルは8位まで上がっていた。
10周もすると水煙が目立たなくなり、所々走行ラインも乾き始める。しかし気象レーダーは間もなく雨雲の到来があると告げており、各車様子見の周回が続いた。14周目、12位を走行していたダニエル・リカルドのルノーから白煙が出てバーチャルセーフティーカー。このタイミングで4位ルクレールらが再びインターミディエイトを求めピットに入り、タイヤ交換後は2、3秒速いラップを刻んだのだが、中途半端にドライパッチがある路面ではタイヤの傷みも早く、程なくしてタイムは頭打ちとなった。
本降りとはならない状況を見て、23周目、16位を走っていたマグヌッセンがドライのソフトタイヤを選択。続いて7位ベッテルもソフトにスイッチし、11位から再び入賞圏を狙うことに。天候の変化を待っていた3位フェルスタッペンもしびれを切らし、26周目にミディアムタイヤに履き直し4位で復帰する。同じく2位ボッタスにもミディアムが与えられたが、同じタイヤを装着したフェルスタッペンがスピンするなど、各所で混乱が続いた。
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ハミルトン、ルクレール、ボッタス……トップランナーも餌食に
29周目、1位ハミルトンがソフトタイヤに替えた直後、2位を走っていたルクレールがスリップしてコースを外れ、壁にヒット。グラベル上にストップした。この日クラッシュ多発エリアと化す「魔の最終コーナー」の餌食となり、フェラーリの1台が消えた。
このクラッシュによるセーフティーカーが入った直後、今度は名手ハミルトンにも、同じ場所で滑ってフロントウイングにダメージを負うというアクシデントが発生。メルセデスのクルーは緊急対応を迫られたものの、ノーズとタイヤを交換したことでハミルトンはレースを続けることができた。しかし、手負いのマシンでピットに入る際に規定のラインを通らなかったとして、ハミルトンには5秒加算のペナルティーが与えられ、序盤のレースリーダーはポイント圏外に脱落。ハミルトンは11位でチェッカードフラッグを受けた後、アルファ・ロメオのペナルティーにより繰り上がり9位フィニッシュすることとなる。
一時的にトップに立ったボッタスも、ミディアムからインターミディエイトに換装するためピットイン。結果、首位の座はフェルスタッペンに渡り、2位ニコ・ヒュルケンベルグ、3位ボッタス、4位アレクサンダー・アルボンというオーダーとなり、34周目にレースは再開した。
トップに立ったフェルスタッペンは、2位ヒュルケンベルグを瞬く間に突き放し、3周して8秒ものギャップをつくった。ヒュルケンベルグはペースが伸びず、ボッタス、ハミルトンと相次いでかわされ4位に後退。そして41周目にコースを外れウオールにヒット、リタイアとなり、またセーフティーカーに出番が回ってきた。
ここで1位フェルスタッペンが新しいインターミディエイトを装着。トップをキープしたままコースに戻り、2位にボッタス、3位ハミルトンを従えて46周目にリスタート。しかし翌周には各車がドライタイヤに交換する決断を下し、フェルスタッペンを含め続々とピットイン。クルーたちも息つく暇もない忙しさとなった。
度重なるクラッシュやセーフティーカー、タイヤ交換により、1位フェルスタッペン、2位にランス・ストロールのレーシングポイント、3位にダニール・クビアトのトロロッソ、4位ボッタス、5位サインツJr.と、普段見慣れない顔ぶれが上位に並ぶことに。51周目にクビアトがストロールを抜き、ホンダのパワーユニットが1-2を走るということも、これまでなかなか見られなかった光景だ。
そしてメルセデスの脱落というのも、なかなか起こらなかった出来事だ。57周目、ボッタスがターン1で挙動を乱しスピン、クラッシュしてリタイア。華々しく始まったメルセデスの地元GPは、天国から地獄へと突き落とされる結果となった。
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ピットストップ78回、まれに見る混迷のレース
セーフティーカーが60周目にコースから姿を消すと、1位フェルスタッペン、2位クビアト、3位ストロール、4位サインツJr.、5位ベッテルでレース再開。最後にはベッテルがひと暴れし、サインツJr.、ストロール、クビアトと立て続けにオーバーテイクしたことで、2位でチェッカードフラッグを受けるのだった。
オーストリアGPに続き今季2勝目をマークしたフェルスタッペンも、最後尾からはいあがって2位でゴールしたベッテルも、みな口々に「何てレースなんだ!」とドラマチックな一日を振り返った。
「ブラックコメディーが入ったホラー映画のようだった」と称したのは、自身3度目のポディウムにのぼったクビアト。1周ごとに想像だにしなかったシーンが現れ、見ているものがスリリングな展開にくぎ付けになるという意味で、言い得て妙のコメントだった。
リタイア6台、ピットストップの回数は合計で78回を数えたという、まれに見る混迷のレース。表彰台でベッテルが見せた、どこかホッとしたような笑顔が印象に残る一戦だった。
夏休み前の最後の一戦、ハンガリーGP決勝は、1週間後の8月4日に行われる。
(文=bg)