トヨタの小型車づくりに異状あり!? 入魂の新作・4代目「ヤリス」はここに注目
2019.10.25 デイリーコラム初物尽くしの意欲作
トヨタの新型Bセグメントコンパクトカーは、以前からいわれていたとおり、日本でも「ヴィッツ」あらため「ヤリス」という海外との統一車名で売られることが公式に発表された。
これに先立って北米向けヤリスが「マツダ2」と顔ちがいのOEM商品として発売されていたから、情報が混乱した向きもあるようだ。あのマツダ製ヤリスはあくまで“大量販売を見込めない北米向けコンパクトカーの現地調達”というトヨタのメリットと“メキシコ工場の稼働率向上”というマツダ側の悲願が合致して生まれた地域限定商品である。
というわけで、Bセグメントの主要マーケットである日本や欧州で販売される大本命のヤリスは、当然のごとく、こうして自社開発のニューモデルとして姿をあらわした。前身となった3代目ヴィッツは最終的に約9年という異例の長寿モデルとなってしまったが、一説には幻の4代目ヴィッツの企画が2017年前後の発売に向けて進んでいた時期もあったとか。しかし、そのさなかにトヨタの商品技術戦略が「TNGA」を核に見直されたことで、非TNGAだった同企画は白紙撤回。TNGA全面採用であらためてゼロから開発されたのが今回のヤリス……とのウワサもある。
その真偽はともかく、新型ヤリスがトヨタ最新技術フル投入の歴史的意欲作であることは事実だ。プラットフォーム、エンジン、ハイブリッド、変速機……のほぼすべてが白紙開発である。唯一、日本では主にフリート需要が想定される1リッターエンジン(とそれ用のCVT)のみが従来改良型という。
将来的にはヤリスのみならず「カローラ」にも搭載が期待される1.5リッターエンジンも、ついに新開発のダイナミックフォースとなった。それは世界トレンドに沿った3気筒であり、純エンジン仕様車は直噴でバランスシャフトも内蔵される。対するハイブリッド用も基本は同系列のエンジンだが、アイドリング運転はほとんどしないのでバランスシャフトはなく、さらに“ハイブリッドなら今のところ不要”との判断で直噴システムも省かれる。この辺はいかにも巧妙なつくり分けである。
そのほか、交差点対応の緊急自動ブレーキや「日産リーフ」に次ぐ自動パーキングシステムなど先進安全運転支援にも見どころは多いが、新型ヤリスの細部については、2020年2月という国内発売に向けて各メディアや諸先生方がたっぷり解説してくれることと思う。
キモは次世代のプラットフォーム
新型ヤリスで個人的にもっとも興味深いのは、初登場となるTNGAコンパクトカー用プラットフォームの「GA-B」である。その走りが実際にどれほどのものかは現時点では分からないが、各部剛性やサスペンションの基本ジオメトリーなど、後開発がしづらい“基本フィジカル能力”というべき基礎部分への徹底した手当てと真正面からの質量投入には素直に感心する。
GA-Bのパッケージレイアウトは、前出の新開発3気筒エンジンに最適化されているのだという。少なくとも既存の4気筒はすべて搭載不可。そうしたコンパクトなエンジンルーム設計もあってか、フロントストラット角度はストローク時にロスの少ない理想的な設定にできたのだという。同じくリアのトーションビームもメインブッシュの位置を最適化して、ストローク時の軌跡を後傾化、凹凸乗り越えのショックを根本から低減している。
さらにプラットフォームのカットモデルを見ると、サスペンションや車体剛性のキモとなりそうな局部に徹底した強化対策が施されている。たとえば、フロントストラットのアッパーマウント部分からバルクヘッドとインパネリンフォースまで、前後左右を結合した漢字の“日”の字を描く構造になっているのが、とくに興味深い。そして、こうした“環状構造”はサイドパネル、リアゲート、リアサスペンション周辺など、そこかしこに見られるのだ。
これ以外にもいろんな部分にあまり見たことのない補強部材が追加されている新型ヤリスのプラットフォームは、好事家なら何時間眺めても飽きないのでは……とちょっと思ったりもした。まあ、こういう見えない機能部品を仕向け地やグレードによって細かく省略したり簡素化したりするのも従来のトヨタの得意技だったが、担当技術者によると今回は「これが全ヤリスの基本形。少なくとも車体は細かいつくり分けはしません」とのことだった。
ボディーは国内専用サイズ!?
「小さいことが初代ヴィッツ/ヤリス以来の伝統」(吉田守孝トヨタ自動車副社長)とのことで、その全長は3940mmと競合車と比較しても短めで、全幅は1695mmの5ナンバー枠におさまる。
ただ、5ナンバー幅では今や欧州その他の海外では商品力不足なのは明らかで、欧州仕様の全幅は50mmワイドな1745mmになる。つまり、ヤリスも先日の新型カローラ(のセダンやツーリング)同様の日本専用サイズなのだ! 全幅拡大に合わせたトレッド可変はサスペンション部品の変更で対応するようで、一部にはGA-Cの部品も使われるという。車体はつくり分けなくても、サスペションの一部やハブは仕向け地によって変わるようだ。
カローラに続いて細かく日本最適化をしつつも、国内専用車を減らして“世界統合”を進めるトヨタである。今回の車名変更も「せっかく浸透したブランドを捨てるのか」との賛否はあれど、車名ひとつでも、ロゴをデザインしてバッジを専用設計・生産するにはそれなりのコストはかかる。相応の費用対効果がなければ、ムダであることは事実だ。
また、各メディアで報じられるとおり、トヨタは日本専用車を減らすだけでなく、2025年までにはチャンネルごとの専売車種をなくして、販売車種を全店で統合する。その意味でいうと、国内ではこれまで「ネッツ店」の専売車種として、そのチャンネル名にどことなく通じる語感もねらったとおぼしきヴィッツという車名は、大統合時代のトヨタにはちょっと似つかわしくないのかもしれない。
(文=佐野弘宗/写真=webCG/編集=関 顕也)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン社長に聞く 日本での展望とスポーツカーの未来 2026.4.20 2025年8月に着任した、ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン新社長。彼の目に日本はどう映り、またどのような戦略を考えているのか? 難しい局面にあるスポーツカーや電気自動車の在り方に対する考えを含め、日本における新しいリーダーに話を聞いた。
-
毎日でもフェラーリに乗りたい! 「アマルフィ スパイダー」にみる新時代の“跳ね馬”オーナー像 2026.4.17 車庫にしまっておくなんてナンセンス! 新型車「アマルフィ スパイダー」にみる、新時代のフェラーリオーナーの要望とは? 過去のオーナーとは違う、新しい顧客層のセンスと、彼らの期待に応えるための取り組みを、フェラーリ本社&日本法人のキーマンが語る。
-
ランボルギーニが新型BEVの開発・導入を撤回 その理由と目的を探る 2026.4.16 第4のランボルギーニとして登場した2+2のフル電動コンセプトカー「ランザドール」。しかし純電気自動車としての販売計画は撤回され、市販モデルはエンジンを搭載してデビューするという。その判断に至った理由をヴィンケルマンCEOに聞いた。
-
トヨタとホンダのライバル車が同時期に国内デビュー 新型の「RAV4」と「CR-V」を比べてみる 2026.4.15 「トヨタRAV4」と「ホンダCR-V」の新型(どちらも6代目)の国内での販売がほぼ同時期にスタートした。いずれも売れ筋サイズの最新モデルだけに、どちらにすべきか迷っている人も多いことだろう。それぞれの長所・短所に加えて、最新の納期事情などもリポートする。
-
鈴鹿でよみがえった「36年前の記憶」 2026年の“大盛況”F1日本GPを振り返る 2026.4.13 来場者31万5000人の大盛況となった2026年のF1日本GP。その内容は「空前のF1ブーム」といわれたバブル末期のレースからどう変わったのか? 三十余年の変遷を振り返りつつ、F1の魅力について考えてみよう。
-
NEW
「洗車でボディーにキズがつく」って本当ですか?
2026.4.21あの多田哲哉のクルマQ&Aマイカーは常にきれいな状態で維持したいものの、クルマ好きの間では「洗車することでボディーにキズがつく」「洗いすぎは害になる」という意見もある。実際のところ、どうなのか? 元トヨタの多田哲哉さんに聞いてみた。 -
ディフェンダー110 X-DYNAMIC HSE P300e(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.20試乗記本格クロスカントリービークルの「ディフェンダー」にプラグインハイブリッド車の「P300e」が登場。電気の力を借りて2リッターターボとしては格段にパワフルになった一方で、カタログ燃費はなかなか悲観的な数値を示している。果たしてその仕上がりは? -
ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン社長に聞く 日本での展望とスポーツカーの未来
2026.4.20デイリーコラム2025年8月に着任した、ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン新社長。彼の目に日本はどう映り、またどのような戦略を考えているのか? 難しい局面にあるスポーツカーや電気自動車の在り方に対する考えを含め、日本における新しいリーダーに話を聞いた。 -
スバル・ソルテラET-HS(前編)
2026.4.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバル&STIでクルマを鍛えてきた辰己英治さんが、“古巣”スバルの手になる電気自動車「ソルテラ」に試乗。パワートレインの電動化以外にも、さまざまな試みが取り入れられた一台を、ミスター・スバルはどう評価するのか? -
第57回:スズキはなぜインドに賭ける? 変わらず牛が闊歩するインドの最新工場を小沢コージが直撃
2026.4.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージがインドへ。日本の自動車ファンにとってインドといえばスズキのイメージだが、実はスズキは現在、インドへの大型投資の真っ最中だ。なぜスズキはインドでこれほどまでに愛されるのか。最新工場を見学して考えた。 -
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.18試乗記2016年に上陸した2代目となるボルボのフラッグシップSUV「XC90」の最新アップデートモデルに試乗。パワフルなプラグインハイブリッドシステムを採用する3列シートSUVの走りを、先にステアリングを握った「V60」や「XC60」との比較を交えながら報告する。





































