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「100万円台でリッター36km」の衝撃! 新型「ヤリス」は小型車市場に新風を巻き起こすか?

2019.12.20 デイリーコラム 青木 禎之
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想定外の燃費データ

「小型車の復権! 『フィット』の衝撃!! 『ヤリス』の逆襲!!!」……といったベタなタイトルを付けたくなるのが、2020年初頭のニッポンの自動車事情だ。海外生産の格安モデルでお茶を濁しているメーカーもある国内のコンパクトカー市場が、両車の登場でにわかに活気づくのは間違いない。ちなみに、「ホンダ・フィットの衝撃」の内容は、一体型2モーターを用いたハイブリッドシステム「e:HEV」(i-MMD)の採用。トヨタ・ヤリスが逆襲する相手は、近年、すっかり小型車のお株を奪った感のある軽自動車である。

フィットに関しては実車に触れていないので割愛します。先日、クローズドのサーキット(袖ヶ浦フォレストレースウェイ)という限られた条件ながら試乗がかなったヤリスを、新しい情報を加味して少し見直してみたい。

「ヴィッツ」改めヤリスとなった新型は、1リッター(139万5000円~)、1.5リッター(MT:154万3000円~、CVT:159万8000円~)、1.5リッターエンジン+モーターのハイブリッド(199万8000円~)の、大きく分けて3種類が用意される。従来の1.3リッターが廃され、ハイブリッドモデルに後輪をモーターで駆動する電気式4WD「E-Four」が導入されたのが大きなトピックだ。

価格面では旧型比で10万円ほどアップした印象だが、ニューモデルは新しいプラットフォームを用いて土台から新しくなったため、言うまでもなく総合力がアップしている。装備を見ると、安全面での充実が目を引く。前席ダブル、サイド、そしてカーテンエアバッグを全車で標準装備。ミリ派レーダーと単眼カメラを併用したプリクラッシュセーフティーは、1リッターのビジネスユースモデルを除いたすべてのグレードで搭載される。ある程度値段が上がるのは仕方あるまい。

気になる燃費は、1.5リッターモデルがWLTCモードで21.4~21.6km/リッター(FF)と19.2km/リッター(4WD)、ハイブリッドが、35.4~36.0km/リッター(FF)と30.2km/リッター(E-Four)。新しい「ホンダN-WGN」(129万8000円~169万4000円)のカタログ燃費が20.4~23.2km/リッターだから、ヤリスの数値は驚きだ。

2020年2月10日の正式デビューが発表された新型「トヨタ・ヤリス」。199万8000円の「ハイブリッドX」(FF車)は、ラインナップ中で最良となる36.0km/リッター(WLTCモード)の燃費性能を誇る。
2020年2月10日の正式デビューが発表された新型「トヨタ・ヤリス」。199万8000円の「ハイブリッドX」(FF車)は、ラインナップ中で最良となる36.0km/リッター(WLTCモード)の燃費性能を誇る。拡大
近年、排気量1リッター前後のコンパクトカーにとって脅威となっているのが軽乗用車だ。例えば写真の新型「ダイハツ・タント」シリーズは好調で、毎月のように普通乗用車のトップセラーと同等かそれ以上の販売台数を記録している。
近年、排気量1リッター前後のコンパクトカーにとって脅威となっているのが軽乗用車だ。例えば写真の新型「ダイハツ・タント」シリーズは好調で、毎月のように普通乗用車のトップセラーと同等かそれ以上の販売台数を記録している。拡大

2019年8月に発売されたホンダの軽、2代目「N-WGN」。日々の生活に寄り添うクルマとして開発された新型は、最高で23.2km/リッターの燃費を記録する。


	2019年8月に発売されたホンダの軽、2代目「N-WGN」。日々の生活に寄り添うクルマとして開発された新型は、最高で23.2km/リッターの燃費を記録する。
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消費者心理はヤリスの大敵

では、これまでの軽ユーザーが大挙してヤリスに流れるかといったら、それは難しいだろう。

「軽自動車だって、ちょっとオプションを付ければ200万円超……」というフレーズを聞く機会があるけれど、軽自動車の実力が底上げされたいま、軽をあたかもワンランク下の存在のように見ることはできない。「軽だから」「軽なのに」といった枕詞(まくらことば)はもはや不要だ。

既報の通り、ヤリスでレースコースを走ってみたところ、ニューモデルは限界域でも破綻を見せないすばらしいハンドリングの持ち主であることがわかった。さすがは欧州を中心とした先進国向けに開発されただけのことはある。

しかし、それが軽ユーザーの財布を開かせるかは疑問だ。日常的に使うにあたり、クルマを趣味の対象と見なさない大多数の人たちは、「ホンダN-BOX」やN-WGN、はたまた「日産デイズ」で十分と感じることだろう。実際、十分だし。販売現場での小型車のアドバンテージは、白いナンバーや性能面より「乗車定員5人」と「衝突安全性が相対的に高そう」なことかもしれない。

さらに加えて、コンパクトカーの開発陣は“空気”とも戦わなければならないから大変だ。エアロダイナミクスのことではない。ニッポンの経済が先行き不安ななかで広がる、「維持費を考えたら、やっぱり『軽』だよね」という消費者の心理である。

皮肉な見方をすると、軽自動車は輸入車に対する一種の非関税障壁の役割を果たしている。ドメスティックな規格で縛ることで、「本格的に廉価で実用的なガイシャは入れないよ」ということだ。ハンディを負わせて、ビジネスにさせない。グローバルモデルのヤリスは、軽に対していわば疑似的に輸入車の戦いを経験することになる。来年早々に繰り広げられるコンパクトカー同士の競争に興味津々だが、こうした階級をまたいだ戦いにも目を向けることで、将来のニッポンの自動車事情が垣間見えるかもしれない。

(文=青木禎之/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、ダイハツ工業/編集=関 顕也)

新型「ヤリス」は、新世代プラットフォームの採用により、走行性能と快適性の向上が図られている。こうした基本性能のレベルについては、「物理的な制約がある軽よりリッタークラスのコンパクトカーに分がある」とされるが……。
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普通乗用車開発のノウハウを生かし日産が初めて作り上げた軽、2代目「デイズ」。グレードによってはコンパクトカーを上回る高価格商品だが、クルマとしての出来については「従来の軽の常識を超えた」との声が多く聞かれる。
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くしくも、新型「ホンダ・フィット」と同時期に発売される新型「トヨタ・ヤリス」。果たして、他ブランドのコンパクトカーや軽乗用車のユーザーを振り向かせることはできるのか?
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青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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