これは“超革新”だ! 次期「スバル・レヴォーグ」でわかっていること
2020.01.17 デイリーコラム名将も感動しっぱなし
2020年後半に発売されるという次期型「レヴォーグ」。先日開催された東京オートサロン2020では、そのカスタマイズバージョン「レヴォーグ プロトタイプSTI Sport」も新たに公開され、具体的な内容が少しずつ見えてきた。
まず、スバルファンとして衝撃だったのは、辰己英治氏が「STIハンドリングエキスパート」という肩書で開発の現場に復帰したということだ。辰己氏は富士重工業(現スバル)で三十数年にわたりスバル車の走りの質を追求。2007年からSTIに移籍し、「S402」や「S206」など名車の誉高い限定車を続々と生み出した後、SUPER GTやニュルブルクリンク24時間耐久レースの監督業に専念していた。スバルの市販車の開発に関わったのは2006年以来だという。オートサロンでは、久しぶりに新型車のプロトタイプのテスト走行に参加し質の良さに感動する、辰己氏の様子が話題となった。
次期型レヴォーグでは、スバルの新世代プラットフォームであるSGP(スバルグローバルプラットフォーム)がフルインナーフレーム構造と組み合わされるなどさらなる発展を遂げるといわれているが、SGPの開発の歴史を振り返ると、実は辰己氏がSTIに移籍する前に手がけた4代目「レガシィ」の開発時に生まれたアイデアや技術を基本とするところが多いとされる。
4代目レガシィの開発段階では実現しきれなかったアイデアや技術が、2016年発売の現行型「インプレッサ」に満を持して投入されたSGPで花開いたわけだが、辰己氏にとっては、富士重工業時代にやり残したことが、十数年の時を経て、次期型レヴォーグで予想以上の効果を発揮して実現しているところも感慨深かったという。「身内が褒めても意味がないと思われるかもしれないけれど、それでも褒めずにはいられない」と後輩たちの仕事ぶりを大いにたたえていた。
スバルファンにとっても、受動安全性と走りの質が極めて高いと定評のあるSGPがさらなる進化を遂げ、カリスマ的存在である辰己氏が開発・評価の立場に復帰することは大変な朗報だ。
STIハンドリングエキスパートということで、辰己氏が在籍するのはSTIとなるが、STIとスバルは以前にも増して開発の共同化を進めており、次期型レヴォーグに限らず、STIが請け負うモータースポーツ活動で得られた技術のフィードバックがより濃いものになると期待できる。
ユーザーニーズを考えた足
レヴォーグというクルマは、かつての「レガシィツーリングワゴン」のスポーツグレードの後継といえるクルマであり、走りの質に対するユーザーの要求レベルは極めて高いものがある。しかもワゴンである以上、快適性や実用性も高い次元で両立させねばならず、現行モデルはそれらをうまくまとめたことで成功作となった。それゆえ次期型に対するユーザーの要望レベルがさらに高いものになっているのは、開発側も強く意識している。それは取材するたびに筆者が実感することだ。
搭載されるエンジンは1.8リッターながら、従来の2リッターと同等以上のパフォーマンスを発揮しなければファンは納得しないことも重々承知しており、今回の東京オートサロンでも次期型レヴォーグ開発責任者の五島 賢氏をはじめとする開発関係者は「皆さまのご期待は決して裏切りません!」と口をそろえる。操縦性と動力性能面において、ファンは過度な期待を抱いてもいいと自信を見せていた。
現行型レヴォーグは成功作ゆえ、ユーザー層の幅が広がったことで、サスペンションのセッティングについてはこれまでになかった課題に直面した。SGP前の旧世代プラットフォームはリアサスにマルチリンクを採用して以来、サスペンションストロークが短くなる傾向が強まり、スポーツモデルではどうしても足を硬めにせざるを得ないという事情があった。昔の「WRX」やレガシィのスポーツグレードに乗っていたユーザーは受け入れやすいものの、レヴォーグは客層の幅が広がったこともあり、他銘柄からの乗り換えユーザーなどは足の硬さに不満を抱くことが少なくなかった。
2017年からの後期型(アプライドD型以降)ではしなやか路線のセッティングとなり、一部ユーザーの不満はかなり解消されるも、一方で武闘派のユーザーにとってはこれが不満要素に。プラットフォームがSGPになるとサスペンションストローク量は増すのでセッティングの幅は広がるものの、さらなる客層の拡大が予想される次期型レヴォーグでは、トップグレードのSTI Sportにドライブモードセレクトと呼ばれる減衰力可変式の電子制御ダンパーを採用。欧州車では古くから採用例のある機構で、それ自体に驚きはないが、「各グレードの最良のセッティングはひとつ」として輸出仕様でも足は変えないなど、伝統的にサスペンションのセッティングを一本化することを良しとしてきたスバルでは大きな決断といえる。これまで可変式のダンパーの採用に消極的だった辰己氏をして「“超革新”はオーバーな表現ではない」と言わしめたほど、その効果と完成度は高いという。
新アイサイトは制御に注目
次期型レヴォーグ開発責任者の五島氏は「レヴォーグの価値は、安全とスポーツと実用性を高い次元で両立させることにあり、“超革新”は走りの質だけではありません」と語る。
かつてのレガシィツーリングワゴンの伝統でもあった「その時代のスバル最先端の技術を優先的に盛り込む」ことは、次期型レヴォーグにも継承。同モデルから搭載される新世代の「アイサイト」も、その内容については2019年秋の東京モーターショーで公開された範囲でしか情報が明らかにされていないが、取材をすると、運転支援システムにおいても性能や機能以上に“質”の高さを追求していることがわかってきた。
運転支援システムの普及が進み、相対的にアイサイトの独自性が薄れつつある中、今もなお玄人筋から「制御が自然」と高く評価される理由のひとつに挙げられるのは、実走試験量の多さ。しかし、これが開発の難しさに拍車をかけてしてしまう要因にもなっており、スバル車のラインナップ内で拡大採用されるのが遅い理由にもなっているのだが、次期型レヴォーグ プロトタイプは今もアイサイトの実走試験を日夜繰り返している。新世代のシステムでもアイサイトらしい、どこのシステムより自然な制御でドライバーをアシストしてくれることが期待できる。
スバルは1990年代から運転支援システムを開発し、商品化してきた。2010年に5代目レガシィのアプライドB型から採用したアイサイトVer.2で「ぶつからないクルマ」として大ブレイクさせ、一気に普及させたとおり、運転支援システムの制御に強い自負を持っているスバル。新世代システムでも、その制御の質には大いに期待したい。
機能にも配慮したデザイン
今回の東京オートサロンでは、新しいSTIのエアロパーツを装備した状態の次期型レヴォーグの姿が公開されたわけだが、STIの製品には「性能や機能が向上しないものは採用しない」という鉄則があり、次期型レヴォーグSTI Sportに装備されるエアロパーツも確かな空力性能向上効果が得られることが強調された。一般的には膨張色とされる白いボディーカラーでも、フェンダーの張り出し部分などエッジの効いたメリハリの強いラインが印象的だった。
コンセプトカー「VIZIV ADRENALINE CONCEPT(ヴィジヴ アドレナリン コンセプト)」で示唆したデザインの原案が各部に具現されていることもあらためて確認できた。来場者の声を聞くとおおむね好評だったが、スバルファンが気になるのは「スタイリッシュさと引き換えに視界が悪くなったりしないのか?」というところ。この点についても心配ご無用と、開発担当者たちは口をそろえる。
スバルが古くから大事にしてきた「0次安全」は減退せず、六角形をイメージした新しいホイールハウスのデザインも「雪用チェーンを巻くことへの弊害はない」という。またスバル車としてはヘッドライトのサイズが圧倒的に小さくなったが、もちろんライトの照射性能は確保されており、機能面においてもデザイン性の向上と引き換えに失うものはないとのこと。ボディーサイズについてはわずかに拡大されるようだが、現行型レヴォーグがおさまる車庫に入らないことはないというので、肥大化したと指摘されることはなさそうだ。
内装のデザインやエンジンスペックなど、今後も“過度な期待”を抱きながら詳細な情報の開示を引き続き待ちたい。
(文=マリオ高野/写真=谷津正行、webCG/編集=関 顕也)
