スバル・インプレッサスポーツSTI Sport(4WD/CVT)
マイルドだろ~? 2021.05.14 試乗記 「スバル・インプレッサスポーツ」に新たな最上級グレードとなる「STI Sport」が追加された。車名とグレード名の双方に“スポーツ”と付くマニア待望のSTIチューニングモデルは、一体どんな走りをみせてくれるのだろうか。スバルならではの魅力
2020年秋から2リッターのインプレッサスポーツにもSTI Sportが加わっている。同時にマイルドハイブリッドの「e-BOXER」も出た。現行の5代目に変わってまる4年目の「商品力強化」である。
STI Sportのエンジンは従来の2リッター系と同じだが、今回はFFもラインナップされ、シリーズ最上級モデルとして足まわりを中心にSTI Sport化を施したとされる。
試乗したのは292万6000円のAWDモデル。FFより22万円高い。といっても、2リッターの四駆が300万円以下で買える。しかも最廉価モデルの1.6リッターFF(200万2000円)から「アイサイト」はもれなく付いてくる。スバルの武器はコスパだなとあらためて思う。
コリン・マクレーのインプレッサがWRCで暴れ回っていた90年代後半、南ドイツのアルゴイ地方を訪ねたら、異様にスバル密度が高かった。アルプスの麓で冬場、降雪量が多い。インプレッサや「レガシィ」や「ジャスティ」(スバル製の)、なんと初代「アルシオーネ」も走っていた。なぜ? アウディのクワトロがあるのに。これが11台目のスバルだというレガシィ セダンのオーナーに聞いたら、当時の換算で「A4」より150万円安いからだと言っていた。9割近くが海外で売れるスバルの人気に、「リーズナブルな四駆」が大きく貢献してきたのは間違いない。
絶妙なアナログ感
STI Sportはシリーズで唯一の18インチホイーラーで、225/40の「ヨコハマ・アドバンスポーツV105」を履く。メタリックブラックのアルミホイールも見た目の識別点だ。シートはエンジと黒のツートン。内装やダッシュボードやメーターにも控えめな加飾が施され、ペダルやフットレストには滑り止めのゴムが付く。
機能面での最大の特徴はフロントに専用の減衰力可変ダンパーを備えることである。メカ式ながら、路面からの振動周波数に応じて、減衰力を自動調整するという。このショーワ製SFRDダンパーに合わせて、リアダンパーにも専用セッティングが施されている。
もともと現行インプレッサは国産Cセグメントのなかでも乗り味が高品質である。大入力が加わっても、ボディーという“器”がイッパイイッパイな感じにならないのは、剛性感の高い新世代プラットフォーム(車台)の恩恵だろう。
それに加えてSTI Sportの開発テーマは乗り心地と操縦性のより高い次元での両立とされるが、ワイドなヨンマルを履いていても、相変わらず乗り心地はいい。シートの設計なども含めて、むしろもう少しスポーティーに振ってもよかったのではと思うくらいである。
スバル車に乗るといつも感じるが、ステアリングやペダル類の操作力は、いまのクルマとしては重いほうだ。ちょっと昔ながらの感じもあるが、それが運転感覚にアナログ感を与えてもいる。
十分なパワーはあるものの……
エンジンにはサワらないのがSTI Sportのお約束である。この直噴2リッター水平対向4気筒も、「2.0i-L EyeSight」と同じ最高出力154PSの自然吸気ユニットだ。
1400kgの車重に対して、パワーは必要にして十分だが、追い越しなど、ここぞのパンチがほしいときに物足りなさを覚えることもある。CVTの特性もあり、右足を踏み込んで待つように感じることがときどきあった。
この試乗の少し前にe-BOXER搭載の上級モデル「アドバンス」に乗った。片手で持てる小型モーターを2リッターエンジンにインストールしたマイルドハイブリッドだ。2013年に「XV」の“ハイブリッド”として初登場したときは、効果が希薄すぎて存在理由も希薄に思えたが、e-BOXERと改名した最新システムでは改良をみている。
インプレッサスポーツでも、電動アシストがチョイチョイ効いてトルクを肉づけしてくれる。そのかわり車重はSTI Sportより130kgも重く、マッチポンプの感は否めないが、電動パワーユニットそのものはSTI Sportの100%エンジンよりもスポーティーに感じた。車重が重いためか、乗り心地はアドバンスのほうがさらにしっとりしていて、より上級感があった。それで価格はSTI Sportより安い。
ちなみにSTI Sportとe-BOXERが加わった2020年10月以降のインプレッサスポーツ販売は、グレード別だとSTI Sportがトップ(25%)だが、アドバンスと「2.0e-L EyeSight」を合わせたe-BOXER軍団も26%と健闘している。
課題もいろいろ
“燃費いのち”のスバリストはいないと思う。今回、約360kmを走って、燃費は満タン法、車載燃費計表示ともに9.1km/リッターだった。2リッターのフルタイム四駆であるにしても、燃料経済性はかんばしくない。以前試乗したe-BOXERのアドバンスも12km/リッター台だった。スバルの大きな課題がCO2削減であることはメーカー自身が一番よくわかっているはずだ。
それはともかく、今回のお題はSTI Sportである。インプレッサに待望の走り系、かと思ったら、意外やおとなしかった。
筆者よりも先にステアリングを握った編集部Fさんにバトンタッチのとき感想を聞いても、「フツーのクルマです」と答えが返ってきた。「STI」とSTI Sportは違うとはいえ、e-BOXERの出来を考えると、もう少しスパイスを効かせてもよかったのではないか。
エンジンも、よりパワフルでレスポンスにすぐれる「レヴォーグ」の新型1.8リッターターボがうらやましいところだが、それは次のモデルチェンジでのお楽しみだろうか。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
スバル・インプレッサスポーツSTI Sport
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4475×1775×1480mm
ホイールベース:2670mm
車重:1400kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:154PS(113kW)/6000rpm
最大トルク:196N・m(20.0kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)225/40R18 88W/(後)225/40R18 88W(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:12.4km/リッター(WLTCモード)
価格:292万6000円/テスト車=300万3000円
オプション装備:アイサイトセイフティプラス<運転支援+視界拡張>(7万7000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:4425km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:362.6km
使用燃料:39.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:9.1km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】
2025.11.25試乗記インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。 -
NEW
ステアリングホイールの仕様は、何を根拠に決めている?
2025.11.25あの多田哲哉のクルマQ&A「どれも同じ」というなかれ、メーカー・ブランドによりさまざまな個性が見られるステアリングホイールの仕様は、どのような点を考慮して決められているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】
2025.11.24試乗記「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。 -
2025年の一押しはコレ! 清水草一の私的カー・オブ・ザ・イヤー
2025.11.24デイリーコラムこの一年間で発売されたクルマのなかで、われわれが本当に買うべきはどれなのか? 「2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー」の正式発表に先駆けて、清水草一が私的ベストバイを報告する! -
アルファ・ロメオ・ジュニア(後編)
2025.11.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「アルファ・ロメオ・ジュニア」に試乗。前編では内外装のデザインを高く評価した山野だが、気になる走りのジャッジはどうか。ハイブリッドパワートレインやハンドリング性能について詳しく聞いてみた。 -
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.11.22試乗記初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。






















































