スバル・インプレッサST(FF/CVT)
これでいい これがいい 2023.10.03 試乗記 現行「スバル・インプレッサ」のなかでも、もっとも廉価な仕様といえばベースグレード「ST」のFF車だ。豪華装備もハイブリッドも、「シンメトリカルAWD」もない“素”の一台だが、実際に乗ると「あえてこちらを選びたい」という美点が浮かび上がってくるのだった。めったにない取材のチャンス
普段、自動車メーカーがわれわれメディア取材用に貸し出す“広報車”の大半は、トップかそれに準じる上級グレードで、しかもオプションテンコ盛りで用意されることが多い。広報車はメーカーの顔のような存在なので、たっぷりおめかしするのは当然だ。いっぽうで、クルマの本質がより分かりやすいスッピン状態を試せない現実には、いつもモヤモヤした気持ちがつのるのもウソではない。
ところが、先日ご報告した新潟県は佐渡での「レヴォーグ レイバック」のプロトタイプ試乗会の際(参照その1、その2)、スバルは合わせてインプレッサのエントリーグレードであるSTを数台用意していた。聞けば、それはスバル本体の所有車ではなく、関東近郊の各販売店から集めたものだそうで、われわれがSTに正式に触れるチャンスは今回かぎり。となれば、「乗せて……」と懇願してしまうのはクルマオタクのなれの果て=webCG取材班の性(さが)である。
STは現在3グレードあるインプレッサのラインナップで、もっとも安価なグレードとなる。駆動方式はFFと4WDがあるが、もちろんFFのほうが安く、その本体価格は229万9000円。これが最新インプレッサのスタート価格だ。
ちなみに競合車を見渡すと、安価グレードをあえて用意しない「ホンダ・シビック」を例外とすれば、「トヨタ・カローラ スポーツ」と「マツダ3ファストバック」も同じく220万円台のエントリーグレードを用意している。カローラのそれは220万円の「G“X”」、マツダ3が228万8000円の「15S」である。
これらインプレッサ、カローラ、マツダ3という3台のエントリーグレードは、本体価格もほぼ横ならびなら、少なくともカタログを見るかぎり、装備面におけるコスパも当然のごとく似たり寄ったり……というか、一長一短という感じである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
装飾はちょっと控えめだけど
先述のスバル、トヨタ、マツダの競合3台は、安全装備=先進運転支援システム(ADAS)についてもほぼ横ならびだ。ブラインドスポットモニター系の後側方検知機能が、非装備もしくはオプションになるいっぽうで、衝突被害軽減ブレーキやアダプティブクルーズコントロール、車線逸脱抑制、標識認識など、今日のADASで基本とされる機能は、全車で標準装備となる。インプレッサSTのADASも、いわゆる「アイサイトX」ではない通常の「アイサイト」となるが、中央に広角単眼カメラを追加した最新の3眼式(参照)である。いずれにせよ、どれもオプションなしのツルシ状態で乗っても、現実的に不都合はないといっていい。
今回の試乗車も、そんなツルシ状態に近い仕立てだったのがなんともうれしい。車体色も追加料金なしの「アイスシルバー・メタリック」で、装着されていたメーカーオプションは「キーレスアクセス&プッシュスターター」のみ。フォグランプは省かれるが、ヘッドライトはLEDだし、上級と同サイズの共通の17インチアルミホイール(ただし、色や仕上げはグレードによって差別化される)まで標準装備だ。
とはいえ、第一印象が“真っ黒”なインテリアに安価グレード感があるのは否めない。ステアリングホイールの握りもウレタン製で、ほかのグレードではピアノブラック調になるシフト周辺もつや消しというそっけなさ。メーターリングやその他のクロームメッキ装飾も省かれる。特徴的な11.6インチ縦型ディスプレイもSTではオプションで、試乗車には販売店オプションの一般的なアフターナビがついていた。
いっぽうで、ひとつ上の「ST-G」と共通となるトリコットのシート表皮は吸いつくようなフィット感で心地よい。また、エアコンも左右独立調整のフルオートで、ドアミラーなどの電動調整機能が省かれるわけでもない。また、ガラスのUV(紫外線)&IR(赤外線)カットや遮音機能にもグレード差はない。しかもシフトパドルまでつく。つまり、走行や運転系、および快適性の基本機能になんら不足はない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
動力性能に見る上位グレードとの逆転現象
ちなみに、トヨタ・カローラ スポーツG“X”は220万円で2リッターエンジンはよりパワフル。足もとは15インチのスチールホイールでパドルシフトも省略されるが、後方静止物用パーキングサポートブレーキ、キーレスエントリー&スターターボタン、フロントフォグがつくのは利点といえる。
マツダ3ファストバックの15Sは、本体価格がインプレッサSTと同等(1000円だけ安い)でアルミホイール(ただし16インチ)も標準。そのうえで本革ステアリングにキーレスエントリー&スターターボタン、8スピーカーのオーディオシステム、レインセンサーなどまで標準となるのは、マツダ特有の利点といえるだろう。ただ、ほかより小さな1.5リッターエンジンやマニュアルエアコンに加え、フロントIRカットガラスが省略(全面UVカットは標準)されるのがツッコミどころか。
インプレッサSTもエンジン本体は全車共通の2リッター自然吸気だが、唯一ハイブリッドの「e-BOXER」がつかない純内燃機関となる。モーターアシストがないぶん、アクセルペダルを強く踏み込んだときに、エンジン回転が実際の加速より先行して上昇する、いわゆるラバーバンドフィールがわずかに強めに出る傾向がなくはない。
ただ、エンジン本体はe-BOXER車よりわずかにパワフルかつトルクがあるうえに、車重がおよそ150kgも軽いのだ。しかもファイナルもローギアード化されている。こうなると、さすがに最高出力10PS、最大トルク65N・mのモーターより重さの影響のほうが大きい。
実際、記憶にあるe-BOXER車より、今回のSTのほうが動力性能は活発で、現実環境での加減速レスポンスもより好印象だった。これなら、多少の燃費の不利(WLTCモードだとe-BOXER車の16.6km/リッターに対して14.0km/リッター)を差し引いても、STのほうが個人的に好ましいと思う。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
FFでも感じられるリアの濃厚な接地感
STはホイール径こそ上位グレードと同じ17インチだが、タイヤは1セクション=10mm細い205mm幅となる。フロントブレーキも少し小さくなるが、これは車重とのバランスを考えたためだろう。というわけで、サスペンションチューンも車体の軽さに合わせた調律なのか、乗り心地が明らかに柔らかい。さらにロール方向の動きがとくにしなやかなのも心地よい。カーブでのロールは小さくないが、そのぶん手やお尻に伝わる接地感もより鮮明だ。
しかも、速度が上がるとさらにしっとり落ち着いて、ステアリングの正確性が際だってくるのは、車体剛性の高さによるものか。インプレッサは車体にグレード差はなく、最新の「インナーフレーム構造」に加えて、リアドア後方にはスバル伝統の剛性確保用のキャッチが追加される。
それゆえか、FFながら後輪の接地感もきっちり伝わってくるのが、「クロストレック」も含めた現行インプレッサシリーズの美点といえる。肌ざわりは“ゆるふわ”なのに接地感は濃厚、ステアリングは正確無比。しかも、軽い車重と細いタイヤのおかげか、身のこなしはシリーズのなかでも圧倒的に軽やか。お世辞ぬきの美味だ。
こうなってくると「もし自分でインプレッサSTを買うなら」という妄想が止まらなくなるのが、クルマオタクの性である。
個人的に本革ステアリングは必須なのだが、単独注文はできないようで、キーレスエントリー&スターターボタンに11.6インチ縦型センターディスプレイ、ピアノブラック調シフトパネル、リアカメラとセットで24万7500円の追加になる。本体価格の1割以上の追金は迷うところだが、それでも合計250万円強で、良質のアシグルマとしては悪くない。個人的にはこれがベストチョイスか。ナビはつかないが、すでに追加されている大型センターディスプレイにスマホを接続すれば問題なし。
ぜいたくをいうと、さらにシートヒーターとステアリングヒーターもほしいのだが、そのためにはローカルナビ機能やデジタルマルチビューも抱き合わせで、追金が45万6500円まで増える。これでは、さすがにSTを選ぶ意味がなくなりそうなので、泣く泣くあきらめることにした(と妄想した)。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スバル・インプレッサST
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4475×1780×1450mm
ホイールベース:2670mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:154PS(113kW)/6000rpm
最大トルク:193N・m(19.7kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)205/50R17 89V/(後)205/50R17 89V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:14.0km/リッター(WLTCモード)
価格:229万9000円/テスト車=276万7820円
オプション装備:キーレスアクセス&プッシュスタート(5万5000円) ※以下、販売店オプション パナソニック ビルトインナビ(28万4020円)/ETC2.0車載器キット<パナソニック ビルトインナビ連動用>(4万3560円)/ドライブレコーダー ナビ連動用(6万0720円)/ドアバイザー(2万5520円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1451km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆スバル・インプレッサST-H(FF/CVT)【試乗記】
◆スバル・インプレッサST-G(4WD/CVT)【試乗記】
◆スバルが新型「インプレッサ」を正式発売

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
トヨタGRヤリス/GRカローラ/GRヤリスMORIZO RR プロトタイプ【試乗記】 2026.5.4 進化を続ける「トヨタGRヤリス」と「GRカローラ」の、最新バージョンに試乗。硬派な4WDスポーツならではの、サスペンションチューニングの難しさを知るとともに、100台の限定モデル「GRヤリスMORIZO RR」に、そのひとつの回答を見いだすことができた。
-
シトロエンC5エアクロス マックス ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.5.2 シトロエンのコンセプトカー「OLI(オリ)」の思想を継承する新デザイン言語を用いた2代目「C5エアクロス」が上陸。ステランティスの最新プラットフォーム「STLAミディアム」や48Vマイルドハイブリッド機構によってどう進化したのか。その走りを報告する。
-
アストンマーティン・ヴァンテージS(FR/8AT)【試乗記】 2026.5.1 英国の名門アストンマーティンのスポーツモデル「ヴァンテージ」が、「ヴァンテージS」に進化。より高出力なエンジンと進化した足まわりを得たことで、その走りはどのように変わったのか? パフォーマンスを存分に解放できる、クローズドコースで確かめた。
-
ディフェンダー110オクタP635(4WD/8AT)【試乗記】 2026.4.29 「ディフェンダー」シリーズの旗艦「オクタ」が2026年モデルへとアップデート。メカニズム面での変更はごくわずかのようだが、その速さと快適さは相変わらず圧倒的で、それはオンロードでもオフロードでも変わらない。300km余りをドライブした印象をリポートする。
-
ケータハム・スーパーセブン2000(FR/5MT)【試乗記】 2026.4.28 往年のスポーツカーの姿を今日に受け継ぐケータハム。そのラインナップのなかでも、スパルタンな走りとクラシックな趣を同時に楽しめるのが「スーパーセブン2000」だ。ほかでは味わえない、このクルマならではの体験と走りの楽しさを報告する。
-
NEW
アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ プレミアム(FWD)【試乗記】
2026.5.5試乗記アルファ・ロメオのコンパクトSUV「ジュニア」にラインナップする電気自動車「ジュニア エレットリカ プレミアム」に試乗。1973年型の「GT1600ジュニア」を所有していたかつてのアルフィスタは、最新のフル電動アルファに触れ、何を感じたのか。 -
NEW
“ウインカーのカチカチ音”は、どんな理由で決められているのか?
2026.5.5あの多田哲哉のクルマQ&Aウインカー(方向指示器)を使う際の作動音は、どんなクルマでも耳にする一方、よく聞くとブランドや車種によって差異がある。一体どんな根拠で選定されているのか、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタGRヤリス/GRカローラ/GRヤリスMORIZO RR プロトタイプ【試乗記】
2026.5.4試乗記進化を続ける「トヨタGRヤリス」と「GRカローラ」の、最新バージョンに試乗。硬派な4WDスポーツならではの、サスペンションチューニングの難しさを知るとともに、100台の限定モデル「GRヤリスMORIZO RR」に、そのひとつの回答を見いだすことができた。 -
業績不振は想定内!? 名門ポルシェはこの先どうなってしまうのか?
2026.5.4デイリーコラム2025年から思わしくない業績が続くポルシェ。BEVの不振やMRモデルの販売終了などがその一因といわれるが……。果たして、名門に未来はあるのか? 事情をよく知る西川 淳が、現状と今後の見通しについて解説する。 -
ランボルギーニ・テメラリオ(前編)
2026.5.3思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。「ウラカン」の後継にあたる“小さいほう”ではあるものの、プラグインハイブリッド車化によって最高出力920PSを手にしたミドシップスーパースポーツだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
シトロエンC5エアクロス マックス ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.5.2試乗記シトロエンのコンセプトカー「OLI(オリ)」の思想を継承する新デザイン言語を用いた2代目「C5エアクロス」が上陸。ステランティスの最新プラットフォーム「STLAミディアム」や48Vマイルドハイブリッド機構によってどう進化したのか。その走りを報告する。



























































